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現実な日常

「なあビー」

庭先でお使いに出ていた竜が、褒めてとアピールしている。

その口から、人の足が見えていなければ気にしなかったかもしれない。

「お使い、何処に行かせたんだ?」

「ん、あっちの街道の盗賊のアジト」

盗賊のアジト?

「足が見えてるんだが」

山賊なら討伐されても文句はない。しかし足が動いている。

「貴方、レイチェルがいらっしゃったのだけど、あの衛兵の方も一緒で」

「ん?」

衛兵は竜を見上げ、青くなっていた。

「ブルリア様、竜の餌に人間を与えてーー?」

「馬鹿を申すな」

その時、ペッと人間が吐き出された。

「…………この通り食べてはいない」

中々、屁理屈を捏ねている。

ピクピク痙攣しているが、まぁ何処も欠損していない。

「こんのクソ竜!」

復活した男は、即座に竜に突撃した。

「ほら、元気だろ」

竜は愉しそうにあしらっている。

見た目にあれだが。

「竜の口から生還した男。うん? 子供か?」

「竜の口から生還した子供。ああ、乙女じゃないな」

線が細い上に、叫んだ声は意外と高かった。

着ていたものはどう見ても薄汚れた男物だったが。

「旦那様、奥様、止めさせてください」

「ん」

ひきつって飛び込んできた

突然現れた相手に気にもしない。あれはそう言う仕事をしていた男だった。

「コルか。生憎、あれに命令できるのはそっちの子だ」

「は?」

子供が呑気に戌をモフっている。

しかしよく見れば、後ろ足を持ってプラプラとしている。そんな格好なのに戌は尻尾をブンブン振っている。

ぞくり

なぜあんな風に触っていられるのか。

なぜそれなのに大喜びしているのか。

背筋を悪寒がかけ上がる。

「あれは」

視界の横を小さな蜘蛛が糸を出して風に流れていく。

子供の肩に巧く引っ掛かりスリスリ隠れ場所を探している。

「本日の警備がザル過ぎたのは、本来警備している筈の戌と蜘蛛がボイコットしていたからですか」

「わざと緩くしてないぞ。人は多くしているし」

人でないとビーの行動を阻めない。獣は全てビーの下僕なのだ。

「そのなかを平気で入ってきたんだ。相変わらずの腕だな」

蜘蛛に気が付いた子供が、糸をつまんでピッと衝撃を与えると蜘蛛はひゅーと垂れ下がり慌てて糸を登り出す。

上まで上りきる前にまたひゅーと繰り返す。

「……普通の蜘蛛か?」

みていると、徐々にでかくなっている。

1ミリだったのが2ミリ、あっという間にかなり大きくなり子供の手のひら大になる。

そして子供の手にしがみついた。

子供は手をブンブン振り回し、反動で手から離れた蜘蛛は飛んでーー。

「あ」

「あ?」

蜘蛛がニヤリと笑った。

楽しく糸巻きを披露する蜘蛛。

「コル、意外と油断する方なのか?」

「旦那様、この蜘蛛は態とですか」

蜘蛛が男の側に跳んできたときには人より大きく成っていた。

絶賛糸巻き中である。

「あは、とうとう捕まったな。蜘蛛にーーあ」

一瞬で縄脱けを披露した相手に渋い顔をする。

「あの竜を止めてください。若様」

一瞬で子供の背後を取り、その首筋に短剣を押し当てた。

「コル、それは最大の間違いだぞ?」

ゾクリ

全ての視線が集まる。

ゾクリ

襲ってくる悪寒。

氷点下の世界に放り込まれた釣り上げられた魚だった。

「銀狼の血が騒ぐだろう」

何の視線が集まっているのかよく理解できた。

竜が見ている。

戌が見ている。

蜘蛛が見ている。

そして、その辺の小鳥が鼠が虫がーー。

ごくりと喉を鳴らしたコルは動けずにいた。

見上げる子供と目が合う。

ドクン

何もかも諦めた筈の思いが目を覚ます。

「……私がビーに会ったときは、部屋に閉じ込めておこうとしてワイバーンに襲撃されたな」

呟く旦那様に奥様が返事をする。

「……よく生きていたわね?」

「ビーがワイバーンをペチペチして大人しくした。邸は半壊、その後親父に殺されかけた」

「ーーヨクイキテイタワネ」

乙女の手には鞭が握られている。

「⁉」

どうやら窮地は、それぞれに降りかかって来たらしい。



じりじりと間合いを思案していると窓からアッシュが顔を出した。

「ビー、クッキー焼けたぞ? あれ? ナニして」

コルは、赤目の注意が即座に他に移り それを理解した途端膝から崩れた。

乙女は瞬間的に鞭を隠し微笑む。

一応の館の主のブルリアは、ひきつった笑顔を向けた。

竜が吹き飛ばした少年が目の前を横切る。

「……」

「……」

「ビーも父さんたちも埃っぽいね? 竜と遊んでたみたいだね?」

にゅーと窓から首を突っ込んだ竜を押し戻しアッシュは微笑む。

「先に風呂」

「きゅー」

しゅんとした竜は尻尾で背後から来た少年に足払いを仕掛ける。

「そこ、埃立てない。ビー」

むんずと、ビーに首根っこを捕まれ固まる竜と少年。

「……オフロ」

ずるずる引きずられて連行されていく竜と少年。

「…………あれ誰」

アッシュの呟きは、ポチにも無視された。







旦那様が戌をワシャワシャ泡立てている。観察しながらコルは息子を見る。

さっきまで戦っていた竜は湯船を泳いでいる。

それを観察しているようで実際は側で一緒に泳いでいる子供に注意がいっているのは仕方がないとも思う。

始めての竜主。それが目の前にいたら目が離せないのは当たり前。

「ビー、背泳ぎはやめなさい」

ざばっと、子供は立ち上がる。

「はあーい」

しゅるしゅる天井から蜘蛛が糸を伸ばして降りてくる。

子供の伸ばした指先に止まる寸前、子供が呟く。

「脚一本ちょうだい?」

ビクンと蜘蛛は反応した後、超スピードで糸を登り隅っこに縮こまる。

「……んじゃポチ、尻尾ちょうだい?」

でろんと伸ばしていた手足を縮めて男の背に隠れる。

チラチラ小首を傾げて、様子を伺っているつぶらな瞳。

「……ビー、腹へったのか」

「ーーヘッタ」

子供の背後で、竜の焦った姿があった。

くるりと竜の姿を舐め回し、小さくため息をつく。

「小さい子にはヤサシク」

視線が外れると、竜はホッとしたようだ。

「お年寄りにもヤサシク」

チラと通りすぎる視線にゾクッとする。

視線が止まった少年は固まった。

散々見ていたのに、逆に見られたら縮こまっている。

「ねぇ」

ザブザブ

「おわっ」

タイミングよく扉が開く。

「なんのご褒美をあげてるのかな?」

冷ややかなアッシュが見下ろしていた。




全く油断ならない。

中々出てこないと思えば、密着していた。

何故に、一緒にいながら蜘蛛も戌も竜も大人二人も止めないのか。

謎だ。

床に転がった少年の上に、ビーがのし掛かっていた。

目眩がする。頭痛もだ。

小脇にビーを抱えアッシュは居間に戻り、二人の母親の視線を集める。

「ねぇアッシュ、とりあえずビーに服を着せた方が良くなくて?」

「え」

戻る場所を間違えた!

侍女がビーのお世話を甲斐甲斐しくしている横でアッシュは自分の失態をモヤモヤ反芻する。

戌も竜も蜘蛛もお風呂場だ。

そして大人二人と連れの子供もお風呂場で、母親たちはお茶をしている。

帰る先は、ビーの部屋にしておけば着せかえできたのだ。

誰にも邪魔されなかったのに!

花畑が咲き乱れる姿を見ながら、母親二人が同じように目を細めたのを彼は見逃していた。








ー設定メモー

ブルリア アッシュの父

レッシュ アッシュの母

コル ブルリアの弟

レイチェル 元侍女 コルの奥さん

コニ 盗賊の少年(竜とバトル中) コルの子供



ポチ 戌

ククリ 蜘蛛


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