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ある夜の日常

廊下をぽてぽて歩いている竜に気が付き、息を潜める。

竜がここにいると言うことは、部屋には居ないということ。

ということで、ビーのいる客間へ。

「ビー」

返事かない。そろりと部屋へ入るとポチも居なかった。

「ビー?」

ベッドにこんもり膨らんだ所に手を伸ばす。

しゅるしゅると何かが巻き付いた。

「!」

蜘蛛だ。

「……」

膨らんだのが寝返りをうってこちらに向いた。

「なんでソコに、ビーは?」

「居ないけど」

奥方はすこぶる極上の笑顔で「やっておしまい」と蜘蛛に命じる。

何故に?

「さっき面白かったのよ」

乙女は笑う。

「ポチと竜がどっちとビーと寝るか大騒ぎしていてビーったら蜘蛛に糸巻きさせて早く縄抜け出来た方と寝るって言ったらポチったら、あっという間に縄抜けしたのよ」

クスクス笑う。

「あの子いつも首輪から抜けてたから修得していたらしいの。ビーったらポチ抱っこして何処か行っちゃうし、残された竜の落ち込みよう、可愛かったわ」

黄昏た後ろ姿。

ビーに置いていかれて憔悴していたらしい。

糸巻きされながらうっかり竜を気の毒に思いを巡らす。

「で、あなた」

乙女は極上の笑顔を見せた。

「ビーに何を願ったの?」

それは恐ろしい幕開けだった。




銀狼一族の女は強い。そして母親はもっと強い。

怒れる妊婦など最強である。

「つまりビーとデートしていたら、うっかり願いを口にしてしまいアッシュに会ったのね」

彼女は、眉間を押さえため息を吐いた。

「そして孤児院で見つけたとか言ったのね」

プルプル怒りゲージが上がる様に、蜘蛛は焦りながら糸巻きを続ける。

蜘蛛も知っている。

誰を怒らせたら駄目なのか、良く知っている。

だから竜と一緒にビーを探しに出なかったことを後悔していた。

しかしビーから彼女を守ってねとお願いされた手前目を離すわけにもいかず今に至る。

「クスクス、もういいわよ」

糸で団子になった姿に、乙女は笑う。

ほっとしてするする天井に登ると、スーと姿を消す。

「あなたに文句を言う資格はないわね。私はもっと酷いことを願ったもの」

「酷いこと?」

もぞもぞ縄抜けを試みる男は首をひねり妻を見上げる。

「あの子以外いらないと言ったの。だからバチが当たって流産が続いたのよ」

遠い何処かを眺めながら彼女は儚げに微笑んだ。

「あなたがあの子を連れてきたとき怖かったわ。私の側に居たら死んでしまうと思ったから」

別の子供なら死んでしまうと思った。

実際あの子は時折残してきた親を見に行ったと思われる行動の報告が上がってきた。

調べれば旦那様の嘘など直ぐ判る。

そしてそれはあの子を危険にさらした。

旦那様があんなに狼狽え走り回った姿は久しぶりだった。

あの子をまた失うかと思うと怖く戌に命じた。

戌は黒く染まって走り去っていった。

闇に染まった生き物。

ああ、私は何を願ったの?

走り去った闇の濃さに、崩れ落ちた。

あの日、自分の中の闇を自覚した瞬間だった。

こんな闇を抱えた女に祝福の子など来ないのは当たり前だ。





足元を何かが通りすぎる。

真っ黒な生き物が、チラリと自分を振り向いた。

そんな気がした。

ゾワゾワと背中を走る警告。

視線の端に映る鳥肌が現実だと知らせる。

虫の音色がピタリと止まり側に居た馬が背中にすり寄ってきた。

背中に隠れているつもりらしい。

闇の生き物。

自分に見えると言うことは、自分と連なる眷族が呼んだ闇だ。

どれだけの対価を支払えば大人しく還ってくれるのか。

クラクラする意識を振り払い、馬の首を撫でる。

「すまぬ、あれを追ってくれ」

馬がえ?と反応したが、鞍を掴んで背に跨がる。

馬は嫌がったが、背中に乗せた主の号令に駆け出す。

その後を仲間が着いてきた事にほっとしながら主が追っている獣を追いかけた。


人気のない建物に誰もが息を潜めた。

所々に闇の燃え残りが燻っている。

闇は闇を取り込み育っていく。

ごくりと意を決して開けた扉。見事な頭突きが跳んできた。

そして闇は、尻尾を千切れそうな位フリフリしていた。

あれはなんだ。

闇の塊が尻尾を振っている。

それに何故ビーがいる。

途中、腹ペコビーが戌を食べると騒いだが、どうやって食べるつもりだったのか謎だ。

とりあえず戌は食べられず家に。

フリフリしながら奥方に挨拶する姿を見ながら、何を対価にしたのか悩む。

戌はビーに無茶苦茶撫でられまくり一緒に寝ていた。

護身術を教えようとしたらアッシュの号令で戌が飛び付いた。

名前を平気で詠んでいた。

ああ、銀狼の血が騒ぐ。

がしかし。戌は私が名を喚ぶことを許してくれない。

アッシュが名を喚ぶ。

血が騒ぐ。

アッシュは紛れもなく銀狼の血を引く者。

「戌はでかくなった。我らの闇を取り込み手に終えないほど」

「私怖かったわ。貴方が名前を喚ばないから、いつか食べられてしまうのじゃないかと。良く侵入者を丸飲みしていたから」

げふげふ

食事しすぎだ。育つはずだ。

「で、あの子は紛れもなく銀狼の血が入っているのだけれど母親は何処で世話しているの?」

「は?」

「あの子を産んだ母親よ。子供を取り上げてさようならとかあり得ないでしょ」

「なんで今更」

「貴方がポチの名を喚べないうちに家に来てもらってもポチが言うこと聞かないじゃない。呼んだその日に丸飲みされましたじゃアッシュが出ていっちゃうじゃない」

すうーと乙女の目が細まる。

「さあ白状しなさい」

蜘蛛は視ていた。旦那様の恐怖体験。

プルプルと部屋の隅から震えて視ていた。




















そして朝アッシュが起きてきたが、簀巻きのまま見なかったことにされた旦那様。

ビーの部屋からは蜘蛛が移動したのでしょうか(汗)

よもや奥さま担いだりしないよね(汗)わはは

縄抜けできなかった模様。




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