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あの日の日常

その年、不作で蓄えがなかった。誰もが流れてきた余所者に手を差し伸べる余裕などなかった。

疫病が広まり、だからなのか売られていく子供は多かったのだろう。

しかし子供一人で来るのはそう多くないと思う。

それでも、きっちり対応した商人はちゃんとしているのだろう。

「君ね、判って言っているのかい」

奉公とは名ばかりの実質奴隷落ち。

「拐われて知らずに売られるよりましだから」

そう。人拐いも多い。

「子供のうちの給金は殆ど無いんだよ? 食事や色々引かれるからね」

使えるように教育を施した矢先に逃げられても困る。

「知ってる。でも今お金がいるんだ」

そもそも大人に成ってからでも、着ける職などたかが知れている。

それならば何処かに見習いで入った方が良い。それが手に職を付ける最短に思われる。

「そうですねえ」

値踏みされる視線を受け、居心地の悪さを飲み込む。

「あ、いた」

後ろからの声に商人は振り向いた。

扉から顔を覗かせた子供がピコピコ入ってくる。

「……知り合いで?」

「え、いえ。知りません」

柔らかい巻き毛のくりくりした瞳が可愛いらしさをあげている。

「……受付に誰もいなかったですか?」

「ええとね。くもさんと遊んでたよ?」

「は?」

「あ」

するすると天井から蜘蛛が降りてくる。

それは防犯をしているはずの獣魔だった。




「ビー、居た!」

簀巻きにされた商人をつついている子供を見つけて駆け込んできた青年は、ひょいと抱き上げる。

「……ビー、ひとつ聞くが 泥棒にはいるなら夜中とか明け方にしろ」

「? なんで? 暗く無くても関係ないよ?」

「せめてもの礼儀だ」

商家の防犯の番人が主人を簀巻きにする。

魔獣が使用人を簀巻きにしている横を通り抜ければ目印に丁度良い。

そうして青年はたどり着いた先で子供を見つけた。

子供の手を離してはいけないと身をもって実感した。

子供は何をしでかすか、予想もできない。

「ここに何か有るのか?」

「? 子供が欲しいんでしょ?」

子供と話は良く通じない。

それも身をもって痛感した。

「いや、誰でも子供なら良いわけではないんだよ?」

「うん。レッシュの産んだ子」

子供の指した先には、困惑した子供がいる。

そのときに成ってその子に気がついた。

「え」

「お前の子」

視線を受け子供が青くなっている。

酷く狼狽えた生け贄だった。




契約は単純だった。

彼の家に引き取られる。

彼らの子供は数年前に拐われて行方不明。

その子として、引き取られる。

身代わりの子供。

彼らが望むのは平穏。子供がいれば煩い親族を黙らせるとか?

良く解らないが、跡取りは必要らしい。

子供子供と言われ続け、うんざりしたらしい。

だからって、知らない子供を雇うのもすごい。

「僕の仕事は、牽制ですか?」

「いや、妻の相手だ」

「?」

奥方にも身代わりのと言うのは言わずに騙すらしい。

なんで?

「ばれたら?」

「気にするな。それまでに気に入られろ」

この旦那は、アバウトだと思う。

緊張のままの対面。

彼女はフワリと僕を抱き寄せる。

「お帰りなさい。アッシュ」

それは不思議な感覚だった。

ほのかな優しい香り、自分を包み込む細い腕。

「ふふ、お日様の匂いがするわ」

微笑む眼差し。全てが魅力を秘めている。


お姫様ってこんな感じ?


それが初対面の感想だった。

もっとも彼女が儚げな乙女ではなく、銀狼の血筋を垣間見せる

旦那様を微笑みひとつで黙らせていた。


男って、お嬢様には激甘なんだ?


青くなっている執事や侍女を視界の端にとらえながら、彼女の横で撫でられる。

「旦那様、何か伝え忘れている事はなくて?」

目の前で繰り広げられる化かしあい。

後で知ったのだが彼女が旦那様と呼ぶときは、旦那様の側に居てはいけないらしい。

しかし。静寂を破ったのは腹の虫だった。

「あら」

子供から聞こえた音に、乙女が目を大きくする。

「ごめんなさい。お腹空いたわね?」

かくして無事逃げ出せた旦那様と使用人たち。

食事は張り切った料理人によって、かなり豪勢だった。



お小遣いは要らないと言ったのだけど、使わないなら何時かのためにへそくりしておくと良いと押しきられ貯金箱は貯まっていく。

何かのとき。こんなときかな?

現在かつあげされてます。

そこそこ自由に外にも出してもらえている。

下町は少し柄が悪い。

少し大きい子供に囲まれています。

奥様の真似をして少し威圧してみる。

うん。少し怯んでくれた。

って、後ろの護衛に気が付いただけですね。

「坊主、何か問題が?」

付かず離れず、遠くから見ていただけの護衛が声をかけてくる。

「ううん。道を聞いただけ。お兄さん、ここ知ってる?」

紙を見せている間に、囲んでいた子供たちは何処かへ行ってしまった。

通りすがりの護衛のお兄さんは世話好きだったらしく案内してくれた。

「荷物の配達? 君が?」

「簡単のだよ。軽い荷物だけだし行ける範囲だし」

「ーー何かほしいものでも?」

「こう言うのは自分で稼いだお金じゃないとね」

「?」

「お兄さん、ついでに女の子が喜びそうな小物売ってるところーー」

言いかけてお兄さんを見上げる。

うん。知ってそうに見えない。

「女の子? 彼女にプレゼントか?」

お兄さんは恋話好きらしい。

「ひみつ」

小物を売ってるお店にも付いてきた。

お兄さん、女の子の多い店に居心地悪そうにしている。

「お兄さんは彼女にプレゼントしないの? これなんか防御率アップの加護付きだよ?」

「なんと‼」

うん。魅力アップの多い商品のなか、素早さアップや器用さとかも密かに混じっている。

しかし、お兄さん。大人買いしすぎです。

「いや、武器屋や防具屋であの効果探したら桁が違うから」

お兄さんが身に付けるファンシーグッズ?のイメージに少し頭痛を覚えたけど、本人が満足な性能なら良いのかもしれない。

「お兄さん、今日はありがとうございます。お父さんにあっていってください」

「うぇ、あ、いやーー」

「お茶の時間なので甘いお菓子もあると思いますよ」

「!」

釣れた。

「街で迷子になっていたときに道案内してくださったお兄さんです」

旦那様の視線が微妙に泳ぐ。

お兄さんも汗をかいている。

うん。初対面の演技台無しです。

でもこれでお知り合い。堂々と今度は道を聞けます。

知り合いのお兄さんに道を聞いても不審じゃないもん。


「おかあさま、お具合どうですか?」

ベッドの上の乙女は、微笑む。

彼女は時折臥せっていた。

「あのこれ良かったら使ってください」

安い指輪。淡いピンクの宝石に魔方陣の加工がされ回復力アップが少しついている。

「まぁ」

むきゅと抱き寄せられる。

思えば残してきた母にはこんな贈り物はしなかった。

あの頃、ひたすら食べ物や現金を求めた。

アクセサリーなどなくても生きるのに必死で。

「うふふ、ありがとう。アッシュ」

こんなに綺麗なところでご飯も美味しくて、暖かいところでも起きれなくなる人は起きれないのだ。

母はそれを考えると健康なのだろう。

あんなに働き疲れても食べ物が十分なときは風邪など引かなかったのだから。

「あの、僕がお世話になっていたーー孤児院に少し見に行っても良いですか? あ、そのみんながどうしているか……」

僕は孤児院で育ったことになっている。

「ええ行ってらっしゃい」

少し心が痛む。

何時まで嘘を付けば良いのかーー。

遠出の許可にほっとした影で、嘘の罪悪感が広がる。






なんでこうなった?

遠出の時は、側に護衛も侍女もつく。

その上で影の護衛もついていたはずだ。

孤児院に食糧と寄付をして、家を遠くから見て母が洗濯物を干していたのも見た。

保存食を届けてくれるように手配して、同じような指輪を配達してもらうようにもお願いして帰り道、道じゃない食事に入った店で拉致られた。

麻袋から抜け出したさきで、目の前で食事をしている何かを観察する。

扉の直ぐそばで、黒い何かが一心不乱に何かを食べている。

肉食の獣。

グロい。

むにゅと何か柔らかい物を踏んづけた。

知らずに後ろに下がっていたらしい。

自分が入っていたような袋がもぞもぞしている。

「……」

袋を開けると髪の毛、頭が出てきた。

「むーむー」

話せないように猿轡をされている。

「ええと、外すけど騒がないでね?」

食事中の獣の気は引きたくない。

「ありがとう、こっちも外して?」

腕も縛られたらしい。外すと足のロープは自分で外していた。

「出口あそこだけだけど、その前に」

危険な生き物がいるからどうしたものか

続けようとした言葉を遮り、子供は目をキランと輝かした。

「戌!」

戌? あれって戌?

黒い陽炎。四本足で、牙があって、ーーうん。戌かもしれない。

ビクッと声に反応したのが感じた。

黒い塊が跳んでくる。

危なーーい?

パタパタ何か凄い早さで振られている。

丸い黒目と見つめ合うこと少し、ハッと黒目が瞬いた。

「グルル……」

うおー、唸った‼

横から伸びた手が、それを持ち上げる。

「よーしよーし、もふもふ」

自分を抱き上げた子供に気がついて、尻尾が超スピードで振られる。

うん。ちぎれそうだ、

「うん。男の子だね」

何を確認している。

それは黒い仔犬。離乳もすんでないような小さい個体だった。

おかしい。

あっちでは、とても大きな影だったのに。

「あはは、かわいいねー、ポチ」

なんか名前がつけられている。

「しっぽちぎれそう」

ギロンと仔犬に睨まれた。が子供が後ろ足を持って逆さにしている。

うん。そんな格好で睨んでもぜんぜん凄みはないよ?

てか仔犬にそんな扱いで大丈夫のか?

「てか、逃げないと」

「お迎え来るよ?」

「……助けが来る? 君はどれぐらい前に拐われたかわかる?」

「ええと」

言いかけた口に人差し指を当てて黙らせる。

「そっち隠れて。僕が注意を引くから隙を見て逃げるんだよ」

気配が近付いてくる。

扉が開いた瞬間に飛びかかり急所を、エイ!

あら?

悶絶している旦那様がいた。






なんで旦那様が一番に飛び込んでくるのだ?

ふつう指示は出しても待機でしょ?

僕たちは保護された。

そして現在馬車で移動中。

絶賛だっこされてます。離してくれません。

「で。ビーは何時から袋の中に」

「んー、三日ぐらい」

「みっ」

旦那様が青くなっている。

「す、すまない。対策が遅れた」

「んー、お腹減った」

ギクリと青かった顔が白くなる。

「三日も腹ぺこ」

「ポチ焼いたら美味しい?」

「キャワン?」

「……黒いぬって美味しいの? 美味しいのは赤いぬじゃ」

視線が集まる。

「あ、そっか。残念」

真面目に食べる気らしかった。

うん。やめて。

途中で屋台から串焼きを大量に仕入れ、子供の腹は膨らんだ。

よかった。



「アッシュ! あなた!」

ええと大事な旦那様がぶっ飛んでいきましたが、奥様。

ビーがつついている。

「ワフ」

仔犬が足元で尻尾を振りまくっている。

そう、この家で一番に許可をもらわないと恐いのは奥様だ。

「あら」

超高速で振られる尻尾。





ビーは、直ぐに手配された護衛に連れられて送り届けることになった。

というのも戌やら猫やら馬やらいろんなのが集まってモフモフ楽園に旦那様が唸っていた。

もっとも、僕を見つけ出すために動員したのも戌だったらしいけど。

と言うか奥様のお願いに、戌達が自発的に捜索隊をしたらしい。

奥様、戌とお話出来るのか。

護衛隊に旦那様が念を推していた。

「いいか、絶対目を離すな。三秒目を離したらいなくなるぞ」

実際逃げられたらしい。

「絶対だぞ」

旦那様が意外と心配性なのを垣間見た。





「……あれは何ですか」

「クスクス。お父様が剣のお稽古を見てくれるそうよ」

遠慮します。

木刀をもった旦那様がオーラを纏っている。

「家訓でね。頭突きをできるようになった子には剣を習わせることになっているのよ」

嫌な家訓だ。

「フフフ、さあかかってきなさい」

「いけ、ポチ」

「ワオン」

「!!」

うん。真名は効く。

「あらあら、あなたがいなくなってからずっと どうして護衛だけで十分だと思ったのかとか、護身術を先に叩き込むんだったとか叫んでたのよ?」

「え」

子戌とじゃれている旦那様。

ほのぼのな日常が転がっていた。




設定メモ。アッシュの住んでいる地はビーのパパの公爵領ではありません。

地域により行政が違うし福祉やらも違います。


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