癒しのスープ
怖い。
本日もスープは毒まみれ。
回りは平気で食べている。
そうばれているのだ。
こちらの反応を見ながら、本当に尻尾を出すのを待っているに違いない。
しかし、じっくり見ていたが鍋からよそられる。
皿に盛られ、こちらによこされる。
その時には毒スープ。
何時毒を混入しているのか?
さっぱり判らない。
前も後ろも、同じようによそられている。
謎だ。
胃が痛い。
はぁ。
「ロイ、調子悪いのか?」
ロイ? 誰だ?
あ、俺だ。偽名を忘れるとは相当きている。
「ん、いや。疲れてるだけだ」
「疲れたときはこれが良いぞ」
よこされたコップには、ハゲールドリンク。
遠回りな尋問なのか。
このドリンクも、彼等は平気で飲んでいる。
「あ、ありがとう」
怖い。
女たちがクスクス見ている。
「このあと商隊の女の子と飲み会なんだが来ないか?」
ぶ。
そういえば妙に小綺麗に成っていると思ったよ。
色男め。
それはそうと、その商隊に紛れてきているはずの連絡員は何処だ。
接触がない。
いや、こう見張られては近づけないのだろう。
「赤毛の娘とかいるか?」
「お、いいぞ。声かけてやる」
……これから誘うのかよ。
さて。パンぐらいは食べないと身が持たない。
ホップ、ステップ、ジャンプ、ツル
何かが飛んできた。
頭に。
そして、ツルっと……落ちた。
おい。
何故に滑る。
スープ皿の中で、それはチャプチャプしている。
俺のスープ。
てかスライム?
スープの中で、ぷるぷるして意味があるのだろうか?
あ、目が合ったーーゲフ。
顔面に飛んできた。
スライム。出るなら人に向かって跳ねるな。
痛い。
いたーーン?
フッサリ
ン?
「あのスライム、天の邪鬼真っ盛り、反抗期かね」
ン?
「治療を頼むと逃げるんだよな。運が良いよ。ロイ」
あ?
見られている。
視線が‼
スライムが浸かったスープは、鑑定するとスライムスープになっていた。
男たちの視線が集まる。
「ロイ、一口くれ」
「ーーやるよ」
「!」
なんか知らんが、注目はスープに集まった。
やれやれ。
スライムがコップを覗き込んでいる。
「落ちるぞ?」
言った側から、ビクンとスライムが反応しツルっとコップに嵌まった。
ビチビチ
「……器用だな」
ハゲールドリンクはスライムドリンクになっていた。
ゴクリ
視線が‼
「ロイ、一口っ」
目が据わった男たちが‼
怖い。
スライムがサラダに潜り込んでいる。
「やるよ」
「ヒャッホー」
疲れた。
ン?
女たちが集まってーー⁉
「ロイ、そのサラダ少しでいいの。分けて?」
ゲフ。
まだスライムがモゾモゾしてますが?
皿ごと押し付ける。
「食べてくれ」
「キャー! ありがとう! 大好き‼」
……怖い。
「スライムサラダは美容効果抜群らしいからな」
そうなのか。
スライムがスリスリしてくる。
「食べるか?」
木の実をスライムにざーとかける。
スライムは実を吸収するのを見た後で顔をあげて、おや?
皆がずさっと下がった。
「誰だ? 爆弾草なんか持ち込んだ奴っ」
爆弾草?
確か衝撃で破裂するーー。
スライムがモシャモシャしている。
と、次の瞬間 プププと種を吐き出した。
「⁉」
「うわっ」
ボブ、ボブと、破裂音。
今日もスライムは騒動の中心で、ぽよぽよしている。
「スーラーイームー」
わーわースライムを追いかけ回す騒動を横目に、厨房に入る。
自分でよそおう。
鍋の蓋をあけーー
ホップ、ステップ、ジャンプ、ツル‼
鍋にスライムがプカプカ浮いている。
「……」
怖い。
静まった室内。
「スライムスープ鍋」
誰かの呟きと、ゴクンと息を飲む音が聞こえた。
「何故に皆が赤毛のウィッグなんだ」
女たちが赤い。
「お前が赤毛が好みだっていったからな」
人数も多い。
これでは相手が判別出来ない。
そして怖い。
「ロイ、国に恋人がいないって本当なの?」
「待ってる幼馴染みもいないってーー」
女は怖い。
何故に国とかばれている。
は。
視線が集まる。
スライムがモゾモゾしてーー。
「いやはや、毒草やら実やらヤバイのが混ざってたらしいが、どうやらスライムが中和していたらしい」
ゲフ。
「へぇ」
スライムが味見していく端から、女たちが群がっている。
「じゃ、普通の食事になったらスライムが鍋に落ちなくなるのかな?」
渋い顔を見せる。
「……スライムスープそんなに旨いのか?」
「いや、色々スキルが手にはいるからな」
「へぇ」
スープを飲んだだけで、手にはいるスキルなど信じられない。
「まぁ、何が来るかは解らんがな」
戦闘馬鹿たちが、楽器を手にしている。
「あいつらも、あんなのを扱えるようになるとは思わなかっただろうな」
楽士の才。そんなもの役には立たない。
しかし
奏でる。歌う。そして踊る。
まぁ酔うには必要な要素かもしれない。
しかし。
連絡員は誰だ?
憂鬱だ。
「ロイ、お前、青い目だよな?」
なんの確認だ?
「ああ」
「……俺は赤毛だ」
ゲフ。
「赤毛のかわいこちゃん?」
「青目の美女」
思わずまじまじと見合う。
「マジか」
「美女、美形だな。うん」
何か納得している。
上からスライムが降ってくる。
「……盗み聞きか、スライム」
ぷるぷるしてスライムが飛びかかる。
「あだっ」
「磔にしてやる」
どうやら、かなり酔っているらしい。
投げナイフで、スライムを追い回し出した。
多分相棒。あれが?
「スライムが何言ってるか判らんだろ。ナイフ振り回すなよ」
「あら、スライム語のスキル持ち以外といるわよ?」
「持ってても、喜怒哀楽が何となくわかる程度だけどね」
「切り刻んで、サラダにしてやる❗」
しかし。スライムはひょいひょいかわして飛び跳ねる。
「そこはスープじゃないのかよ」
ホップ、ステップ、ステップーー、モソモソ、ステップ、ステップ、ツル。
「……」
「ーーっ」
「プ」
奥の方で、失笑が聴こえる。
「今、吹いたやつにスープはやらん」
鍋にプカプカしているスライムをチラリと見る。
「スライム、神酒いるか?」
「あ、それ竜殺し」
スライムにプスリと酒瓶を逆さまにする。
「げふ」
カラフルに色が変わるスライム。
「はぁ」
スライムはこれでおとなしくなるだろう。
しかし、他はーー。
「スライムスープ食い放題だ。ほらよ」
怖い。
鍋に群がる乙女たち。
酒盛りなど、1人のんびり飲んだ方が良い。
「はぁ」
ふらついているスライムの弾力を確認しながらため息が出る。
横でスライムが光っている。
「ーーっ」
スライムは大人しくなってくれなかった。
俺はロイ。朝から軽快に野菜を刻んでいる。
鍋に野菜を投入してスライムが湯だっているのを無視して蓋を閉める。
「ちょっと待て。何か毒になるものあったのか?」
使った素材を吟味していると「看破」が降ってくる。
「うわ」
オールレッド。
「スライム。全部食べて良いぞ」
スライムは喜んでいる。
「そうか、調子が悪かった原因か」
どうやら送られてくる食材はすべて問題ありだ。
ほどなくして、スライムは鍋から這い出てくる。
艶々した透明な皮膜。十分水分を含み弾力のある丸み。
鍋を覗き込んだまま息を潜める。
看破は鍋の中身は安全だと告げている。
スープを器によそり、スプーンを入れる。
美味い。
これなら目の色を変えて奪い合うのは理解できる。
「ロイ、俺にもスープ」
二日酔いでへばっている同僚は無視する。
スライムにペシペシされている。
何をしたいのか。マゾか?。
「それより野菜がほぼ毒草なんだが?」
「お前、今頃気がついたのか?」
やはり気にくわない。
「いていて、痛いぞ、スライム」
スライムを捕まえて、楽しく戯れている。
「いてて」
なんかむかつく。
「スライム、骨いるか?」
魚の背骨と尾頭付きをふると、スライムはキランと目を光らせた。
餌付けの結果、反省をした。
後悔もしっかりした。
二度と、野生動物に餌はあげません。
何故ならば、スライムは俺を見かけると走って来るようになった。
そう、可愛い。
いやいや、可愛いのだけどね?
走ってくる度にこれですよ?
ホップ、ステップ、ジャンプーーツル。
そしてスープ皿にドボン。
はぁ。
魚の骨はもう勝手に食べる。
うん。
看破が安全な食材だと報せてくる。
そう、スライムも安全な食材だとーー。
今日もお残しはいけません。




