竜と火山と
人間の大人と遭遇して、彼等は凄く喜んだ。
涙を流し懺悔をして、罪をペラペラ告白する。
改心したなら、まあ良いだろう。
「やだ、あのオジサンたち称号が ビィの下僕よ?」
「……苦労したらしいな」
「問題よ、効果はビィの役に立たないと フィリア様に叱られるよ?」
「………………それはビィと引き離すとかの乙女に連行されると見ていいのか?」
「そう思うわ」
「はぁ」
渋い顔を余計渋くした隊長は、中々苦労人だ。
「とりあえず次の街までは同行だな」
マロンは、にっこりと微笑み ビィの周りを埋めるムサイ集団を睨み付ける。
「フフフ、私からビィを引き離した報復の時間は沢山あると言うことね」
怖い。
「マロン、そのお手柔らかに……」
「ハッハッハ! 私のビィをーーブツブツ」
かの女神の前に、ミラクル乙女に連行されそうだと隊長はため息を吐いた。
☆ ☆ ☆
マロンの横でゴリゴリと種を潰す。
植物関係はマロンが一番!
現在調剤を練習中。
周りにムサイのがいなければ幸せなのにと、マロンに睨まれた男たちはビクビクしながらもマロンが教えている行程を食い入るように見ていた。
調剤の行程を丁寧に教えている。秘伝を公開しているのだ。
「あら、この自然薯立派ね」
「うん、頑張って掘ってくれたから」
「あら」
ビィの役にたっているなら多少難有りでも許容範囲である。
「まあ良いわ。見てないで手伝って」
マロンが微笑む。胡散臭いだろうが気にしない。
使えるものは何でも使う。
マロンの微笑みにいそいそとお手伝いを始めた野郎たちはしっかり調剤スキルを獲得できた。
マロンのスパルタの指導の賜物だ。
「……おかしい」
おっさんたちの方がニョキニョキスキルを伸ばしている。
首をかしげるビィを可愛いと、マロンは目を細める。
おっさんたちの称号が 女王の従者に成るのはもう少し先の事。
☆ ☆ ☆
他の竜達が妙に静かだと思ったら、広場で聖霊竜が甘えていた。
「生まれたの? どれどれ」
黒い鱗の雛はビィに張り付き甘える鳴き声をあげる。
「うん。元気。えーと」
レオンがフルフル身体を揺すると、羽の間から赤い鱗の雛が転がり落ちてきた。
が、親にすかさずへばりつく。
「くす、怖がりさんね?」
レオンが小さく威嚇した。
「ああ、そういえばあれに殺されたんだっけ? 食べる?」
野郎の集団が盛大に焦る。
子供が竜とじゃれあっている。
「こら、人肉の味など覚えさすな」
隊長がすかさず突っ込む。
「不味いし栄養ないしで、価値なしよ? でもね、レオンを磔にされて翼に大穴開けられたの。隊長はそれでも止めるの?」
寒い。ビィの密かな怒りが実感出来る。
「磔……」
レオンの見事な羽根の模様に隊長は絶句する。
銀色の魔方陣は、見事な出来栄えだ。
「……あれはビィが?」
「お裁縫スキルゲット出来たよ?」
何故に竜の羽根でお裁縫。
「食べてよし」
くわっ!
竜の反応に青くなって固まった男たち。
「よーく考えろ。ビィに背中を刺繍されるのと、あれに食べられるの、どっちがましだと?」
食べられた方がましなのかもしれないと、結構真面目に思う。
「食べちゃ駄目だって。3噛みぐらいで?」
にこにこ。ビィが一番黒い。
「まあいいや」
ビィが、すっと指を指す。
「どーん」
声とやや遅れて、遠くで上がる黒煙。
一同が固まっている中、赤い鱗の雛にビィが手を伸ばす。
「ほらほらおいで?」
自分に伸ばされた手と、遠くでもくもく上がる黒煙を交互に確認した雛は、ついっと指に頬を押し付ける。
すりすり
「可愛いね」
竜は雛でも、空気は読む。
きゅるる
「違うよ? ……ビィだよ」
……きゅる?
ますたーは僕の!
くわっ!
何やら攻防が始まったが、雛のご飯の取り合いは微笑ましい。
「で、何故に噴火」
「こいつらが、ガスの出口変えてくれたから、その修正。あ、雛が飛べるようになるまで此所に住むから」
キッと視線が集まる。聖霊竜が観察し放題だ。
が、他の竜の視線は それを招いた男たちに向けられた。
「あ、3噛みだからね、そこ」
どうやら、他の竜のターゲットにも認定されたようだった。
「やばかった」
アルがボロくなって帰ってきた。
「……内緒で抜け出したからよ」
右手にボロ雑巾、左手に玉子を抱えたアルに マロンは渋い視線を送る。
「ボロ雑巾?」
「違う。生きてるぞ」
「……卵?」
「どっちも」
ボロ雑巾を広げて、マロンは目を丸くする。
「お猿?」
「そいつが卵抱えて彷徨いてたのを見付けて、捕まえようとしたらドッカーンとだな」
「あ、あれに遭遇したのね」
あれ、もくもく上がる黒煙。
「そいつが、山の上に行くとか言って大変だった」
「抜け出すならね、ちゃんと言ってからにしてよ」
「ビィか兄貴に合流出来たら良かったんだよ」
マロンの監視を潜り抜けたのは、どうやら入れ違いにビィが合流したからだしい。
「それがガスで道はないわ、兄貴が何処から山に行ったか聞き込んだら壁登ったらしいし、山に近付くなとか警告されて猿は山頂に行くとか騒ぐし」
大変だったのに、マロンの瞳が冷たい。
「卵、生きてるの? 温めてないと駄目になるのじゃ?」
「!」
猿がアワアワしている。
「……知らなかったの? 卵はずっと温めるのよ?」
「とりあえず、卵は何処かの竜の巣に預けて……」
猿が卵を抱えて逃走した。
「ちょっと!」
猿が走る。
走る。
走る。
そしてこけた。
「あだ」
放り投げられた卵の先にはビィが赤い鱗と黒い鱗の雛と戯れていた。
「誰? 鸛?」
キョロキョロとビィが空を見上げる。
「あ、マロン! なんか空から卵が降ってきたよ?」
ビィが卵を撫でる。
「む? 冷えてる?」
卵は親竜の腹の下に納められた。
「……あれ、大丈夫なのか?」
「あらにいにい、お帰りなさい」
無邪気なビィがなんとも憎らしい。
「卵、生きていたのか?」
「生きてるよ?」
ボロ雑巾が横でほっとした。それをひょいとビィが抱き上げる。
「……はい、あーん」
「! こら待て。雛はまだ半分消化した肉だろ」
ボロ雑巾を雛がついばむ。
ビィが、あーんさせようとしたからだ。
「む? ならレオン、あーん?」
「うおおぉお」
雄叫びが乱入してきた。
「ビィ!」
タックル。をかけようとした脚に鞭が絡む。
盛大にムサイ男は転がった。
「マロン、また鞭が上達した?」
「おーほほ。それちょうだい?」
「これ?」
足元のぴくぴくしている男をつつく。
「いらないわよ、そんなの。そっちの肉よ!」
「肉?」
肉はビクッと跳ねた。
「私から逃げようとは良い度胸よ? ねぇ肉?」
「いいけど、これも持っていってね?」
足元の……。
「いらないわよ、さあ来なさい」
連行される猿を見送り、ビィは首をかしげる。
「猿は、薫製にしたら美味しいの?」
「やめろ。出てきたら泣くぞ」
「……さるぅぅぅ」
既に泣いているのもいる。
「ま、漢方に猿は使われるんだったかな?」
「!」
カサカサと這ったまま男が移動していく。
「…………あ、彼の猿だ」
「へぇ」
今はマロンの猿ーーをカサカサと追いかける野郎。
アルの瞳が細められる。
どうやらアルからのお仕置きもありそうだと、見送った竜たちの意見は一致した。
噛むまでもなく、酷い目に合いそうだ。
「さて、僕は卵とお昼寝かな?」
ビィが巣に入っていく。
竜たちの子守唄が始まり職員たちは記録に大忙しだった。
「ーーというわけで、卵は親に温められているのよ?」
猿は綺麗に洗われふさふさの毛並みにリボンが結ばれていた。
マロンの手元には、コッコとコッコの卵。そしてコッコの雛がピヨピヨしている。
「だからね、冷えたら駄目なの」
コクコクと頷く猿。
卵には二度と触らないと、誓う猿がいた。
マロンのスパルタ教育……。




