表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/87

女神の微笑み

見渡す限りの湿地帯を前に、マロンは振りかぶる。

「てりゃ」

投げられたスライムは、ちゃぼんと着水した。

「今は水あるけれど、乾季に干からびたりしないわよね?」

「冬季に来ないからなぁ」

凍ってそうである。

「……ま、いいか」

言いながら、もう一匹のぷにぷにを投げる。

「いいこと、スライム! 彼女と仲良くして増えるのよ」

タラリ。

増えるの?

「そう、沢山増えてビィが遊びに来たときにお迎えするのよ?」

にゅ?

「……だから絶滅シナイでーーあら」

視界の端を、別のスライムがふよふよ泳いでいく。

「大丈夫みたいね」

「あっちにもいるみたいだし」

「一時期は酷い水質だったんだが」

きれいな水面だ。

「てりゃ」

マロンはディジーも投げ入れた。

「ディジー寝腐れ起こさないか?」

「ダメかしら?」

チャプチャプディジーが暴れている。

「……平気みたいだな」

スライムと追いかけっこを始めたのを見ながらアルは苦笑う。

「ビィ、見たがってたのにいないわね」

少しだけビィと離れた生活が寂しく思う。

「ビィを抱っこしていたら、お肌ツルツルなのに。あ、スライム放したらお手入れどうしよう」

マロンの呟きは聞こえなかったことにするアルだった。




☆ ☆ ☆



崖を下りて、狩りをして戻る。

獲物は容量底無しのリュックの中だ。

「はあ。毎日これか」

レーガルはなだらかな尾根を行くビィをうらやましいのか、かといってビィの体質には成りたくないという矛盾もある。

リリンが背中にくっついて重い。

重いと言えぬ自分に竜に気を使うべきなのか悩める。

竜とは言え女性である。

家の女性に重い等と言えばどうなるか、よく知っている。

そろそろ独り立ちの年齢なら人に置き換えれば少女で間違いない。

「ん? どうしてあの巨体が飛べるんだ? 風魔法か?」

小さくなった姿でも、羽根との比率が微妙すぎる。

「リリ、お前重力とか変える魔法使っているのか?」

竜は優雅に飛行する。あの巨体が飛べるんだ。

滑空でなくーー。

ふわりと浮遊感が体にかかる。

崖に写る影が竜が大きくなったことを確認出来た。

羽ばたきと同時に、風が舞う。

グワンと上昇してひとっ飛びで壁が消える。

「!」

こんなに軽々と越えられるなら崖下にいたときに実行して欲しいと思ったが、次いで目に入った景色に目を疑った。

朝出掛けたときは長閑な頂上。仲つむまじくツガイの竜に巣。

それがーー。


巣の中の卵がひとつ割れていた。

黒っぼい塊がみえる。もう事切れている。

レオは張り付けになっていた。地面に倒され羽根に杭が打ち込まれている。

もう一頭のリリスは踞ったまま、癒しの光に覆われていた。

「ビィ」

ビィが治療をしている。

「怪我はーー」

金色の瞳。リリスの魂が離れかけている。

それをビィが身体に留めようとしていた。

「リリ! レオの杭を抜けるか?」

竜は器用に、杭を引っ張る。

レーガルは回復魔法をかけながらレオの痛みを和らげようと視線を巡らし、空から降りてくる女神に気が付いた。

ーーこんなときに!

こんなときだからこそ来たのだろう。

女神の周りには、彼女の支配下にある魂がふよふよしていた。



「フィリア様」

輝く女神は、美しい妖艶に微笑みビィの前に降りてくる。

「ビィ、愛しい妾の……」

言葉が止まる。

「ねぇこんな紐パンでお腹冷えないの?」

にっこりと、天の邪鬼な微笑みをビィが浮かべた。

ビィの手元には、可愛らしい刺繍を施された小さな布切れ。

「いやあぁぁーー」

ビィの手元からそれを奪うと、フシュンと消え去る。

「ビィ、乙女のスカートの中のものを勝手に剥ぐんじゃない」

「えー、だって降りてくるときに丸見えだったけど?」

「それでもだ」

大人なら見えてもみなかった振りで乗りきる。

「だってフィリア様との交渉は嫌がるでしょ?」

子供が笑う。

「あれでダメならこっちも見せて、それから膝にのってチューのひとつでもしないと……兄上?」

頭痛がする。こっちと見せたのは、ブラだ。

よもや変なスキルも開眼したのかもしれない。

「ビィ、乙女の下衣には手を触れてはダメなのだよ」

何故こんな場所で性教育を始めなければならないのだ?

「乙女は好きな相手の前では自分で下衣を脱ぐものだ」

「マロンがよくアル兄の前では下衣になってるような感じ?」

アルにも再教育が必要みたいだ。


ビィがふよふよしていたひとつを呼び寄せる。

「お前はあっち」

魂をコショコショ撫で回した上で、いきなり放り投げる。

投げ込まれた先は、割れた卵。

「ピキャ」

黒い塊が飛び出してくる。

ビィの背中に張り付き、プルプル震えている。

「はい、張り付くならこっちでしょ」

リリスの羽根の隙間に子供を押し込む。

「暖まってね?」

言いながら別の魂を呼び寄せる。

向かった先は卵だ。

リリンが卵にふわりと覆い被る。

「……温めてね」

リリンも撫でると、クルリとレオの側に行く。

杭をカコンと斧で砕き治療を始める。

「ええと縫う?」

ビィにチクチクお裁縫されている竜は始終ビクビクしていた。

傍目には可愛らしくみえるが。

「ふんふんふんふん? こんな感じ?」

ビィがお裁縫スキルに目覚めるまであちこち縫われた竜は疲れはてていた。

「で、他の魂は?」

「人間のだね」

残っていた魂を瓶に詰めている。

「……」

そんなので魂が捕獲出来るのが不思議だった。

「卵ひとつ持っていかれたの」

「全部持っていかないのは親の追手をそらすためだろう」

残った卵の世話もしなければならない。

例えそれが中々孵らなくても、卵を温め大切にしただろう。

残った最後の卵なら尚更だ。

「お行き、お前たち」

ビィが微笑む。

ゾワリとしたレーガルだったが、そんな素振りを見せず視線を移す。

カサカサと地面を虫が走る。

「僕の竜の卵を見つけておいで」

それは絶対の命令。

「ビィ」

「あの子は真っ白でふわふわに産まれて、アル兄に隕石を落とすんだよ?」

後半、ワケわからない台詞が出る。

「……隕石?」

自分の竜が隕石を落とす竜なら注意しなければならない。

「あ、レーガル兄のリリンは、気に入らなかったら頭から噛みつくだけだから大丈夫だよ?」

大丈夫じゃないことをさらりと言われ、レーガルは乾いた笑みを浮かべた。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ