記憶の渦
年の離れたビィが産まれたとき、レーガルは学園にいた。
長期休みには家に戻ったが、会うたびににょきんにょきん育っていく姿は不思議だった。
子供の成長は早い。
ある日帰ると、ケルベロスを撫でていた。
腹を見せぱたぱた尻尾を振って喜んでいる。
そんな姿は知らない。
何時もツンと素知らぬ装いが格好良かった姿があれである。
アルはビィの横で、ケルベロスを撫でていた。
ワタシはナデタコトナカッタノニ!
中々のショックを隠して、近付く。
ビィを抱き上げると、ケルベロスが待機の姿勢になって見てくる。
見られている。見られてーー。
あれ? ケルベロス撫でるのが先だった?
あれ?
次に見かけたときビィは父上のドラドラを撫でていた。
ドラドラは地面に埋まりながら、甘える声で鳴いている。
鼻先をペチペチされて喜んでいる。
なんで?
危ないから側に行ってはいけないと言われている。
側に大人が居ないよ?
何時も遠くから見るだけだった竜に触っている。
む。
変なジェラシーを覚えた。
ビィは弟。
ビィは幼い。
ビィはーー。
可愛い。
可愛い。
うん。あんなのに、つんとかできないよね。ケルベロス。
なんか変なジェラシーだ。
はあ。
うっかり愚痴をこぼしたら、アルは叱られていた。
ビィをドラドラの所に連れて行ったらしい。
アハハ。馬鹿だ。
池の鯉を荒らしたり、いたずらを披露したらしい。
チクったんじゃないよ?
愚痴っただけだ。
☆ ☆ ☆
竜の保護区は色々竜がいた。
可愛い。子どもも沢山いた。
相性が良ければ、貰えるかもしれない。
欲しい。
竜のような大型獣は遭遇は皆無で、コネ頼り。
何年か前はまだ自分がまだ子供過ぎた。
獣の世話を一人でやらなければならない。
だから今回は頑張って雛を口説かなければならない。
しかし。雛の視線が。
ビィ。
きらきらのビィがいる。
ビィ。
嫉妬。
いち速く執事が気が付いた。
ビィがそれとなく離されたが、雛がソワソワしている。
みな、ビィを見る。
ビィは、手がかかる子供だよ?
お前たちの世話など出来ないのに。
なんで?
ビィ。
ビィは年の離れた弟。
幼い。
可愛い。
目が離せない。
可愛い。
弟。
幼いーー。
ワタシはチョウナン。
ワタシはーー。
みな、ビィを見る。
しくしく。
うまくいかなかった。
当たり前だ。
自然の子達は敏感だ。
嫉妬に狂った相手など御免こうむる。
その日、護衛をまいてぶらぶらとしていた。
そこで傷付いたレオを見つけたのだ。
人間に狩られ、ひどい目に遭ったレオはボロボロだった。
ビィをまだ見ていない竜なら自分を選んでくれるかもしれない。
ただそれだけで、その竜に近付いた。
僕なら君を大事にするよ?
僕を見て?
竜の事などこれっぽっちも考えなかった。
人に怯えた竜は、興奮していた。
運悪く、そこに探しにきた護衛が姿を表せた。
怖い
怖い
怖い!
竜の中はそれしかなくーー、拒絶された混乱。
要らないよ! お前なんか!
それは竜を余計に暴れさせた。
ロープをかけられ、地面に倒された竜は苦しさから逃げようとした。
それだけだ。
たまたま暴れた尻尾の軌道に子供がいた。
ビィ!
護衛は剣を振るい、竜の叫びか響く。
混乱の最中、僕はそれを見ていた。
女神が言う。
お前の弟を助けたいかとーー。
固まったままの僕の髪に触れる。
助けて!
なんでもする!
ビィを、竜を助けて!
心の叫びに、女神はにいと笑った。
「対価を忘れるなーー」
言いかけながらビィの魂を腕に抱いた女神は固まった。
『お姉ちゃんとってもきれいね』
ビィがきゃっきゃとはしゃぐ。
ビィ。
魂なのに、なんてはっちゃけて。
『あ、にいたま! 僕飛べるよ!』
ふわふわ。お願い。飛ばないで。
『あ、ドラドラ怪我してるの?』
いや、それドラドラじゃいし。
『女神さまの髪の毛きれいね?』
うちゅ。
「いやあぁぁーー」
女神は消えた。
ビィのちゅうで。
『まてーー、ドラドラ、お前の体はあっち』
小さい竜を捕まえて、伸びている竜に放り込む。
『怖くないよ? ねぇドラドラ。大丈夫』
大丈夫。
大丈夫じゃない。
床に転がったビィの身体はーー血溜まりの中に倒れていたのだから。
☆ ☆ ☆
気がつけば、屋敷だった。
ビィは眠り続けていること、暴れた竜は処分されたと聞かされた。
「ビィに会いたい」
無理を言って、ビィの部屋へ。
ビィはベッドに寝かされていたが、魂は床でお絵描きしていた。
「ウワーーン、ビィが死んじゃう」
と、大泣きすると ビィはきょとんと首を傾げた。
『にいたま! 僕ここにいるよ? あれ、さわれない?』
ビィは、はじめて自分が体から離れているのに気が付き体に戻った。
目覚めたビィはしばらく赤目だった。
父親から赤目について聞かされた。
赤目の覚醒者。
それは死にかけ女神と遭った証拠。
ビィはもう普通と違うのだとーー。
僕のせいだ。




