火の山の王
「で、お前は何処に行きたい?」
隊長の言葉にアルは首を傾げた。
「ええと? ビィと兄が下りてくるまで待機では?」
「待機は無しだ」
ふうと、ため息をだす。
「もし三兄弟がバラけたときは、残っている者の行きたい方向に進めと指示が出ている」
「は?」
親父は変な指示を出していた。
「いやそこ、探しにいくとかでしょ」
「竜が付いている。帰る気なら一っ飛びだろう」
「兄はチビが張り付いていると思いますがビィはーー」
「あれが困ったら獣全てが走り出しているわ」
例え残るよう言われているあれやこれやでも。
「……俺の行きたい方向」
アルはぐるりと見渡し、聳える山を見上げる。
「……呼ばれてはいない」
山は自分を呼んではいない。
呼ばれているのは。
すっと指差す。
「あの先の湿地帯」
「……スライムの住み処か」
「とりあえず、スライムを水場に放牧して」
スライムがビクンと跳ねる。
「……そのまま竜の保護区の視察を」
そこはビィも見たがる筈だ。
「卵が山ほど、ビィが釣れる」
フフフとにやけた口元。
「……アル。ビィの前でその顔はやめろよ」
竜の保護区は、保護された竜のリハビリやらを兼ねた施設だ。
繁殖もしている。公爵家のドラドラもそこで生まれ、公爵に貰われていった。
☆ ☆ ☆
リリンの言う通り、道なき道を突き進むレーガルは必死の思いで崖を登ってきた。崖にへばりつきながら、カラカラどこかで崩れる音に背筋を寒くする。
頭上でチビ竜がぱたぱた飛び回って、一応の警戒はしている。
しかし誰が攻撃してくるんだ?と一人突っ込みをしていた。
ロッククライミング擬きで、建物の壁に張り付き抜け出した経験はあったが最初の竜との冒険が断崖絶壁の制覇。
いや違う。最初は餌付けだった。
餌付けをして、新密度を上げた。
触れるようになったら意思疏通。それが出来たら親へ挨拶だ。
でないと親が捜しに出て街で遭遇とか過去にあった。
「……は、薬草」
壁にもっさり生えた薬草と遭遇。
一株採取して背中のリュックに突っ込む。
しばらく登ると、亀裂に竜が首を突っ込んでいる。
ガリガリしていたので、何かと思えば紅石だった。
苦労して剥がした塊をリュックに。
と採取して回り、平らな場所に出た頃にはお土産は山になっている。
「なんか献上品が溢れているのに貰って嬉しいのか?」
ごろんと大地に寝転び、はーと息をつく。
が、チビ竜がすつとんで行った先を目で追う。
可愛い姿で岩に頭突きをかませている。
「なにして?」
レーガルが身を起こすと、岩山も動いた。
「は?」
岩に見えたのは竜だった。
あれに、ご挨拶をするのである。
レーガルは固まりかけ、視線を泳がした先に見知った姿が目にはいる。
竜の足元にビィが絡まって寝ている。
どうやら竜は迂闊に動けず困っていたみたいだ。
☆ ☆ ☆
定期的に卵をひっくり返す竜。
ビィは無邪気に卵をつつく。
にへらとするビィの笑顔を見ながらレーガルは親竜を気の毒に思う。
腹の下に卵と一緒に収まり、ビィは隙間から顔をだす。
山頂は寒いのだ。
卵と一緒に暖められ、ビィがうとうとはじめる。
あれは暖かそうだーーとレーガルは思考を巡らし自分にくっついている竜に視線を動かす。
「なあリリ。お前普通に戻ったら暖かい?」
きょとんとした小首を傾げて辺りを見回した竜は、おもむろに変化を解いた。
にょきんと普通サイズになったままスリスリ甘える。
「アだ、下の岩が痛い」
卵を抱いている場所と何が違うかと言えば、きっちり均された大地に枝で編み込まれた巣。
レーガルは魔法を使う。自分達が寝床にしていた場所をきれいに均す。
じっと見ていた竜が枝を集めてきた。
はじめてながらどうにかまともな巣を組み立てる。
「後はデコボコを埋めてか」
「もふもふいる?」
ビィは雷獣の毛の詰まった袋を持ってきた。
「……ありがとう」
もしかしてこのためにこの毛は刈り取られたのだろうか?
レーガルはあまり考えないようにしながら毛を敷き詰める。
もふもふ。いい感じである。
寝転び当たるところがないか確かめていると、リリンがのし掛かって来た。
暖かい。
「にいにいのお嫁さんは、リリンに嫌われたら頭から食べられちゃうよ?」
ビィは爆弾宣言をした。
竜と巣作りするというのは番になると言うことで、やらかしたらしい。
しかも巣も気に入られた。
もふもふの敷物効果補正も……て、ビィよ。確信犯かよ。
娘さんを下さいと言う前に、目の前で巣作りした。
どっちもやらかしたである。
親が二頭揃ったとこで、ご挨拶である。
リュックからリリンが色々漁る。せっせと貢ぎ物を列にして並べ食いついたのはビィだ。
もう諦めたような竜たちの視線の中、ゴメンと呟く。
☆ ☆ ☆
「ビィ、お前何処から登ったんだ? あの壁を張り付いたのか?」
死ぬかと思いながら登った崖。
気がつかなかったが、上を登っていたのだろうか?
「んと、僕はあっちからだけど?」
指差す先は、なだらかな斜面が見えた。
ははは。
そんな道があったのか。
「あ、でも毒ガスの谷間通るからにいにいだと死んでたよ?」
ずる
「お前、そんな危ない所通ったのか!」
「でもレオが言うには、こっちの道から来た人間は食べられる所だったんだよ。にいにいはセーフ」
「ンア?」
ご挨拶に伺う道の選ぶルートで既にバッドエンドがあったらしい。
「ははは。レオって?」
「レオパパ」
卵を抱いていた竜だ。
ビィが覚醒した原因になった、俺が失敗した竜だ。
「竜の保護区にいるのかと思っていたが」
「ああ、逃げたらしい」
街にでなければ別に問題はない。実際にちゃんと繁殖しているし。
「人に危害を加えた竜は処分されるとか聞かされていたが」
「うん。処分前に逃げたんだよ」
野に放たれた竜が捕まるはずもなく、人里に出てこなければ問題にはならないらしい。
「すまない」
あの頃は、無理やり支配すればすむと思っていた。
なんか今もやらかしているーーが。
リリンに餌付けして、以前が無理やりだったのがよくわかる。
拒否されて当たり前だ。
そっとレオに触れる。古い怪我の後が残っている。
それは自分が付けた跡だった。




