本能のまま
ますたーの匂い!
それは、ディジーの全て。
本能が告げる。
ますたーが側にいる。
側に来ている。
バリバリ壁を破る。
土木工事はもうかなり上達した。
キシャー!
狭い通路に飛び込み暴れる。
おや?
凍っています。
たらり
笑顔のマロンが鞭を奮う。
ぴぎや!
隠れないと!
隠……
こそこそ!
ますたードコ
ウロウロ
ぴぎや
見付かりました。
ますたーを見つけないと、ひどい目にあいます。
うわーん
しくしく
スライム発見!
ますたーは?
何故炙られているんですか?
たらり
「ふふふ、来たわね」
ぴぎや!
アチアチ!
燃える!
「ディジー?」
ますたー!
マロンがいじめる!
「ディジー、お留守番は?」
ぴぎや?
たらり
たらり
だらだら
マロン助けて!
「はあ、やあね、もう」
ぷるぷるとマロンの腕のなかで震えるディジー。
「お片付け手伝って」
コクコク頷く。
お片付け
お片付け
お手伝い
♪
「ありゃ 何だ?」
「ディジーでしょ」
「ディジーてあんなに器用なのか?」
学生の騒ぎにはもう反応すらしない。
もう慣れた。
その日、ディジーの果物がデザートに出た。
めったに見ない果物に騒いだ。
食事は最大の娯楽である。
☆ ☆ ☆
腕の中で震えるディジー。
ビィに怯えて逃げていた筈の乙女に助けを求める。
ちょっと頼られて不思議だ。
アチアチ騒いでいたスライムが飽きたのか火炙りから抜け出す。
まあディジーを誘きだす贄はすんだので逃げ出しても問題はない。
「ディジー、テント片付けて」
意外とディジーは器用に働く。
「もう許してあげなさいよ。肝っ玉の小さな男は嫌われるわよ?」
物陰からビィの機嫌を伺うディジーは可愛い。
「別に怒ってませんよ。考えているのはディジーはどうやって一晩で学園からここまで来たのかですよ」
「あはは、そこ?」
「転移でも覚えたら大変でしょ? スライムが覚えないように見張らないと」
「……スライムが転移? 無害だと思うけど」
害を考えて見ても、特に思いつかないマロンは首を傾げる。
「そうですか? 湯船にスライムが浮いていても気にしないと?」
「あら、それは歓迎よ? スライム風呂に入るとお肌ツルツルだもの」
「……」
何だか乙女たちに囲まれたスライムが浮かぶ。
「あ、ちなみにビィ風呂でも同じ効果があるのよ? 知ってる?」
「は?」
「だからお金に困ったらお風呂のお水で一儲け出来るかも」
ずっと御風呂に漬かって、出汁をとられるイメージにビィはスライムを煮込むのはやめようと思う。
「それに見張るなら側に置いときなさい。ほらほら」
マロンに急かされ、ディジーを呼ぶ。
「おいで、ディジー」
シューと萎れていたディジーが転がるように駆けてくる。
「ヨシヨシ。ええと呼んだら来る? 従獣躾その三丸っと」
「やだ、一年生のときに貰う躾実習評?」
「そう、中等科で召喚を習う前に初等科の時のこの評価が必要なんだけど、スライムで旅の間にやろうかと思ってたんだけどディジーでもやろうかなと」
「判定は隊長?」
「そう、後でちゃんとした判定して貰うの」
ビィは他にも色々と宿題が出されている。
「……大変ね」
スライムがビィをよじ登って来る。
「あ」
ピカリン
スライムが光る。
「剪定?がきた」
「あら、庭師になれるわ! で転移は?」
「……いや、後は養鶏?」
「まあビィ、御父様に郊外の土地もらって温に酪農生活ね」
にこにこ。
「農場王?」
「そうそう、食べ物に困らない生活よ? そう言うの好きでしょ?」
「う」
ディジーは実を大量に付けている。
「うふふ、お肌に良いのよ。その実」
マロンはディジーから収穫しながらつまみ食い。
「ねぇ、次の町に入る前に叱って、入ってから褒めて実を収穫して出荷しない?」
実に酷いことを言う。
「マロン。スモモがピピ見たいになっても知りませんよ?」
ピクン
「燃やすわよ?」
「あ、兄上! 昨夜はマロンと何してたのですか?」
通りかかったアルは転けた。
「ななな、何って」
「……バカ」
焦るアルと、ため息をついたマロンを交互に見てビィは微笑む。
「そうですか。お仕置きですね」
にっこり
青くなった二人にディジーをけしかける。
「のわぁぁっ」
「いやぁぁ」
誰も止めには来なかった。
学生の遊びに介入して録な事にならないのは学習済みだ。
「ディジーって本当に器用だな」
隊長は斜め上な感想を呟いた。
☆ ☆ ☆
「観察結果はどうだ? 保護区に連れていっても問題ないと思われるのは?」
隊長のソールは部下を前に渋い顔をしていた。
学生の質は良い。見ていても良くわかる。
個々の能力は高く、選ばれたのも解る。
「ほぼ問題はないと思いますが、ビィは山歩きに付いて来れるのかは心配ですが」
「騎鳥に乗せてテストか、……歩かせるか?」
笑う。
一日騎鳥に揺られると、慣れぬ者にはきつい。
次の日、騎鳥に乗るように言われビィは目を輝かせた。
「本気ですか?」
レーガルがため息をついた。
「保護区は歩きか騎鳥が中心になる。馬でも良いが」
「まあ、そうでしょうが。騎鳥が暴走しますよ」
「……は?」
ビィが近付く。
騎鳥の群れが固まった。
「なあ俺も騎鳥良いか?」
アッシュが眠そうにしながら来た。
「学生がどのぐらいの速度に付いて来れるのかの調査だから全員乗って構わない」
「じゃ、危ないのビィから奪うか」
「頼む」
ヒラヒラ手を振って、ビィが掴んだ綱の騎鳥を撫でる。
「良い騎鳥だ」
「うん。乗る?」
「ビィが乗るだろ?」
「ウーン。ディジーが頑張っているだよね」
「? ディジー?」
「そう、ディジーを騎鳥には無理って言ったら泣きながら走って行って」
がさがさ茂みが揺れる。
「なんか捕まえたらしい」
アッシュはひきつる。
「なんか群れ捕まえた?」
ビィは小首を傾げ、数を数える。
「では調教だね。マロン調教して」
マロンはビクッと反応した。
「……今日乗るつもり?」
「はい。スライム」
ポヨヨン。
スライムを頭に乗せられるマロン。
「……はあ、良いわ、私の言う事をお聞き!」
簀巻きにされた獲物は身動きも取れずーー。
ビカリンコ
「お、調教師来た。ディジー放して」
捕獲された獲物は、気が立っていた。当たり前だが。
だが。
「マロン、鞭かして」
ビィに鞭が渡ると一転した。
「マロン、お手本はもう少しソフトにした方が良いかと」
「……だってあれ人間用だもの」
「そうか」
ピチピチと鞭が振り回される。
「所で、あの鳥は何て言う種類だ? 騎鳥に向いてるのか?」
「向いてないわよ! そもそも鞍とかないし五匹もどうするのよ! ドゥロモなんか保護区に入れれるの?」
「ドゥロモも保護種ですよ。ビィ、気がすみましたか?」
「良い? 人の道の側に来たらダメ。人見かけたら隠れないと。狩られて唐揚げたよ?」
服従のポーズの下で、コクコク頷く鳥。
「……唐揚げ、お前たち美味しい?」
ビクッ
騎鳥も固まったまま、視線を反らす。
「まあ良いや。お行き」
鳥たちは茂みに入る。
「さて唐揚げはどの子にしようかな?」
タラリ
「美味しい子はだあれ? お前?」
騎鳥に指さしながら選ばれた鳥は飛び上がった。
「おー、ジャンプも高いの? 美味しい? あら?」
鳥は立ったまま気絶していた。
「ダメよ? 逃げないとすぐに捌かれちゃうよ?」
他の鳥がじりじりと下がる。
ますたーはお肉大好き
でも食べきれない量はいらない。
だからあんなにはいらない。だから逃がした。
ディジーは折角捕まえたでかい鳥が離れていくのを感じながら、コッコにしとけば良かったと少し思う。
学園にはコッコがいっぱい。
あれ?
お世話しないとすぐに死んじゃうよ?
タラリ
だって閉じ込めたのはわたし。
「……あ」
ビィが呟く。
スライムが輝き、ディジーがかき消える。
「転移来た。ってスライムも覚えた……か」
「ディジー消えたわね」
「ええと学園?に戻ったかな」
「……実の販売計画がっ」
マロンがブツブツ唸っている。
「鳥にプレッシャー与えるのもホドホドにしないと剥げるぞ」
「ピピ見たいに?」
アッシュがひきつる。
「どうでも良いが早く決めろ」
隊長の声に遊んでいたビィが、固まった鳥をペチペチ叩く。
その日の鳥は妙にキビキビ動いた。
わたしはディジー。
慌てて帰ったら、肝心なマーキングを忘れました。
大穴開けた壁が修理されています。
見張りが付いています。
大丈夫。小さくなりましょう。
勿論、お世話をチビ芽に割り振ったので少し抜けても大丈夫。
秘密の通路。
通路
つう……。
あ、マロン。
見つからないようにこっそりと。
ん?
何やってるの?
「……ディジー見たわね」
ひぃーーっ!
見てない! 見てない!
アルを踏んでたなんて知らないもん!
「しっかり見てるじゃない!」
ぎやー!
当分、あの通路は閉鎖です。
ますたーが居るときにいかないとマロンに殺されます。
「ディジーがマロンの部屋に居座っています」
またディジーの報告が始まるのかと、学園長はため息をついた。




