乙女の心は複雑怪奇
「むかつく」
呟きは何時もの事だ。
張り飛ばして女の子の扱い方を叩き込みたくなるが、我慢だ。
そもそも誘ってお断りされただけだ。
と言うことは、逆恨みだ。
マロンは、ため息を長く吐き出した。
「良いじゃない。他の子もそうなんでしょ?」
同室のアンズはフフフと笑う。
「虫がつかないよう頑張っているのよ。一応」
「きっとほうといても何もつかないわよ」
「……それ何の用意?」
パチンとガーターでストッキングをとめたアンズに目を細めた。
「決まっているでしょ。勝負服。今日は少し攻めるのよ」
「はいはい、美味しくいただくのね」
「やあね、美味しくいただくのは高等科に入ってからよ?」
ニコニコ笑い、そして少し寂しそうに付け足す。
「そしてバイバイよ、愛しちゃダメなの」
契約。
彼女もそれに縛られた乙女だ。
「貴女は彼が望めば奥さんの一人になれるかも知れないのでしょ?」
その為の教育。教養。
「恋の一つと青春の一ページ。良い思い出」
そして別れ。
ドレスを着込むとフフフと笑う。
「月見デートなの。お留守番よろしく」
ふわりと楽しげな表情をして出ていく後ろ姿。
手を振り見送り、マロンは契約内容を思い出す。
悪い虫がつかないようにする。
これは男の見張りがバシバシ叩き折っているだろう。
他の近くにいる女子は多分許されて側に居られるのだ。
他の子が契約しているかは知らない。
なんとなくあれ?と思うぐらいだ。
護衛兼務で良い友達。
悪い遊びを多少教えても、危険な所には行かせない。
と言うか、私が側にいなくても大丈夫だと思う。
「バカ」
初等科を卒業する頃、就職活動をしていたマロンの所にその話は来た。
そのまま学園に通える事。
高等科も行って良いこと。
卒業後は就職先を斡旋してくれる事。
そして、恋の相手として彼を口説く事。
学園に残れるそれだけで十分だった。
そもそも彼はイケメンで、多少変人だが普通だ。
同室のアンズは同じような契約をした娘だと中等科に上がった顔見せで教えられた。
アンズはアンズで後輩の世話を契約していた。
それを最初知らずに、面倒見が良い人だと思った事がある。
「植物の研究出来るの、騙す男はたった一人よ」
難攻不落無頓着男は他の子も蹴散らしている。
報告書に唐変木の事を書く。
授業の様子、
「全く、何の報告よ」
ぐちぐちぐち
日記にマロンはため息をのせた。
「満月」
空の月を見上げ、目を細める。
確かに月見には絶好調な空だ。
しかし自然が多いのは良いことだが。
「蚊が多いわ」
しょうがない。
「虫除け草も植えようかしら」
ブチブチ呟きながら歩く。
「誰?!」
ガサリと音のした方に視線を向ける。
「……風かしら」
ふんふん鼻歌をさえずり、目を細める。
「野良……」
畑の合間に影か動く。
キャシャー! あたしの畑!
飛びかかってみました。乙女は真似しては駄目らしいですよ?
「あんた、何やってるの」
腕の下で焦った見知った相手。
「お前、男に飛びかかるなよ」
「痴漢かと思って」
「は?」
痴漢は私か?
何せ押し倒していますし。
「で、何やってるの? 夜のデート?」
いつの間に、そんな相手が出来たんだ?
「違う。ちょっと畑間違って」
「はん?」
ちょっと変人だとは思っていたけれど、本当に変だった。
「キャベツの妖精見に来たんだよ!」
バカだ。
「そもそも前提が間違っているわよ」
腕を組んだ私の前で、バカは首を傾げている。
バカだけど可愛いわ。
「キャベツ畑には二人で行くのよ?」
「二人?」
「そうよ。男女で見に行くのよ」
バカは少し考え、私の腕を掴んだ。
「よし、行こう」
「は?」
「これで条件OK」
やはりバカ。
キャベツ畑は私の薬草畑からそう遠くない。
月明かりの中、蛍が飛びかっているのはこの先に小川があるからだ。
だが、バカはそれを勘違いしている。
「え、あれじゃないの?」
「じゃ、側で見る?」
「うん」
可愛い。
しかし、ファンタジーな所はあれな事を忘れていた。
デートスポットなのだ。
バカはぜんぜん気が付いて居ないけど。
あちこちの茂みに人影がチラホラと。
それ以上そっちに近付くな!
「アル、あっちいこ」
腕をホールドして避けながら散歩。
翌日、私とバカのデートの噂話が流れたが、バカの耳には入らなかったらしい。
はあ。
バカは次の満月の日、キャベツ畑デートを誘って来た。
そして、茂みの影に気が付いたのは大分後だった。
可愛い生き物がいた。
腕の下で、それはもぞもぞしている。
「ええと? 薬草泥棒?」
一応聞いてみる。
時々、薬草採集の授業ノルマを達成出来ずに、こうしてこっそり取りに来るお茶目な子も出たりする。
「薬草? あれ?」
回りに生えているのに気が付いて、可愛い生き物が首を傾げる。
「キャベツ畑は?」
「キャベツはもっとあっちよ」
流行っているのか? と言うか、この可愛い生き物が一人で彷徨いていたら危ないわよ?
てか。
「あなた、幾つ?」
「え、十才?」
可愛い生き物。何故疑問系で答える。
「今回は案内するけど直ぐ帰るのよ? 夜はちゃんと寝ないと身長止まるわよ」
「うぇ? そうなの?」
可愛い。
「お、マロンこっち」
バカが呼んでいる。
「あれ? ビィ」
「にぃたま」
うん。可愛い。
可愛い生き物の兄はバカだった。
可愛い生き物が階段から降ってきた。
下で受け止めて、焦った。
可愛い生き物が小川で溺れていた。
何で溺れていた? 謎だ。
可愛い生き物が、森で迷子になって捜索隊が出た。
何故はぐれた? まあまだ土地勘のない子だからーー?
でも半年後、可愛い生き物がスキルに問題が有ることが判明すると、ピタリと何も起こらなくなった。
可愛い生き物?
食堂でバカを押し倒してみた。
「ビィが階段から降って来たり、川で溺れたりするのは何故?」
耳元でささやく。
それからチューをする。
「彼は私を抱き寄せて、優しくキスをーー」
「何の創作だ」
「脱マンネリよ?」
ペチペチ頬を撫でる。
バカは目を細めキスを返してきた。
バカは良く分かっている。
バカだから。
「バカ」
優しくて可愛い子。




