討伐者と冒険に出れることになった
「今回は交渉が上手く進んだようで何よりです、ディビエイル様」
洋館のリビングで食器を洗っていたフォロアに、先ほど訪れた討伐者もとい勇者達と共に帝国に向かう事が決まったのを報告しに行った。
「うむ、やっと一歩前進したと言ったところじゃな。で、一応聞いておこうと思うてのう、フォーよお前はこれからどうするのじゃ?」
主語のない質問だが、ディビエイルと共に冒険に行くか、ここに残るか、別の道を探すかの選択を聞いているのだろう。フォロアには前々から討伐者についての話はしており、帝国の教えについても話していた、交渉が上手くいけば一緒に帝国に向かうことになるだろうとも。
だがそれはディビエイル本人の考えであり、フォロアは家臣ではあるが無理やり旅に付き合わせる気は全くなかった。
フォロアの返事は
「勿論お供させていただきます」
そう言って柔らかい笑みを浮かべ、軽くお辞儀した。
「わかった、付き合わせてすまんのう」
「そのようなことは一切ございません、私はディビエイル様と共にあるのが一番生を実感する時ですので」
「そうなのか?それは嬉しいのう」
ディビエイルは素直に嬉しかった。この世界で一番付き合いが長いのがフォロアだ。
フォロアは主人と家臣の間柄と考えているかもしれないが、ディビエイルからしてみれば親友のようなものだ。
もし別れるとなれば勿論寂しいだろうし、死んでしまったら悲しいだろう。だから旅に同行することになった以上、ディビエイルはフォロアを本気で守ることにした。
と言っても、フォロアは別に弱くはない、普段はディビエイルのメイドとして世話をしているが、伊達に逸脱者の側にいるわけではない、いざ戦闘になれば人間相手など数秒もてば良い方だろう。それでもディビエイルには遠く及ばない、世界の理に縛られている限り永遠に超えられることはないのである、と言うより理自体を書き換えてしまうディビエイルがおかしいのだ。
「ではディビエイル様、私は旅の準備がございますので申し訳ありませんが少々お待ちいただけますか?」
「うむわかった、急ぐ必要はないからの」
そう言うとフォロアは自室に向かった。
「さて、次はあやつにも話をしておかんとの」
そう言うとディビエイルは洋館へ足を運んだ。ディビエイルの洋館には1階、2階、そして地下がある。
1階はリビングやキッチン、多くの書棚が置いてあり、2階はディビエイルとフォロアの私室が設置されている、
私室と言ってもディビエイル本人の私物はほとんどない、ディビエイル自身が物を必要としていないという事もあるが、世界の理に縛られた物体を手にしても特に意味を感じないのである。これまでもいくつか人間が使う道具や武器などを手にしてきたが、それらがどういう役割で生み出されたものなのか、調べて学習し、知識とした。それだけである。やんわり希望があるとすれば、この知識がいつかどこかで役に立てば良いなと思うくらいである。
そしてディビエイルが向かった先は地下。地下は簡単に言えば鍛錬場となっている、鍛錬場にはこれまで訪れた勇者達が残した武器や防具が収蔵されていた、以前勇者達にお前達が死んだ後の武器とかはどうすれば良いのか聞いた時に『迷惑じゃなければ使ってやってくれ、そいつらはその為に生まれてきたんだからな』と言われた。
なるほど、道具は使う事で価値を発揮するのだなとディビエイルは解釈し、それ以来鍛錬場で使っている。
勿論、鍛錬するのはディビエイルではない。ディビエイルは鍛錬場で大型の棍棒を振っているものに声を掛けた。
「今日の調子はどうじゃ?アントよ」
アントと呼ばれた大柄な肌が褐色の男性が大量の汗をキラキラと撒き散らしながら振り向いた。これがイケメンの好青年であれば絵にもなるのだろうが、目の前の光景はなんとも暑苦しいだけである。
「これはディビール様!このような暑苦しい場所へわざわざお越しに!」
「(暑苦しい自覚はあるようじゃの)ディビエイルじゃ、いつまでもその間違いを続けておるといい加減フォーに殺されるやもしれんのぉ」
フォロアは大抵の場合、洋館で何か問題が起こっても冷静に対処するが、ディビエイルに関連することとなると途端に沸点が急降下する。以前アントがフォロアの目の前でディビエイルの名前を間違えた時は瞬時に華麗な上段回し蹴りがアントの顔面に炸裂し、洋館から吹っ飛ばしていた。さすがに追撃まではしていなかったが小さな声で
「滅びろ」
と言って居住まいを正していた。あれは大丈夫なやつなのかのうと言ったが、フォロアが放っておきましょうと言うのでそうした。まぁアントは頑丈なのでこれも人間でいう教訓というやつなのだろうと思い様子を見ることにした。
その後、ボロボロのアントが匍匐状態で洋館に戻ってきたのは二日後だった。
「アントよ、お前には話しておらなんだが、儂は討伐者達と帝国に向かう旅に出ることになってのう」
「討伐者と帝国に・・?」
「うむ、十数年おきに度々ここを訪れておった人間達がいたじゃろう、あやつらと共にじゃ」
「そうなのですか!ディビール様のこと、何か自分にはわからない深いお考えがあるのでしょう!」
「・・・まぁ、それはお前にはそこまで関係ない事ではあるがのう。でじゃ、お前にもこれからどうするのか聞いておきたくての」
「自分がですか?ご命令いただければどこへでも!」
「儂が命ずればお前はそれに従うじゃろう、そうではないのじゃ、お前の希望を聞いておる」
「自分の希望・・」
「フォーにも聞いたが、あやつは自分の意思で儂について行くと言っておった、だがお前までそれに連なる必要もない、ここで別の道を歩んでも誰も一切咎めはせんぞ」
むしろフォーはそちらの方が喜ぶかもしれんがの、とディビエイルは苦笑いしていた。
そしてアントの方はと言うと、珍しく小声でしおらしくなっていた。
「その、ご迷惑じゃなければ自分も同行したく思います・・」
「無論構わん、じゃが良いのか?恐らくここには当分帰って来んぞ」
「ディビール様の居ない場所に自分だけ残っていても意味がありません!是非ご一緒に!」
「わかった、なら旅の支度をするが良い、まもなく出発する故のう」
「分かりました!」
そう言うとアントは鍛錬場の倉庫に走って行った。
アントも私物は多くないので支度はすぐに済むだろう。
あとはディビエイル本人の支度だが、地下からの階段を登りながら考える。
「(旅に出ると決まったまでは良いが、はて、旅には何が必要なんじゃ?討伐者達に聞いてみるかのう)」
そう考え、再び中庭に戻ってきた。
そこで討伐者達が今後について話しあっていた。
「待たせてすまんの、後のものの支度もすぐに済むであろう」
「あぁ、構わないさ。もともと俺たちはここで終わると思ってたんだ、それがこんな展開になるとは人生分からないもんだな」
サプルが軽く笑った。
「そうじゃな、ところでお前達に教えて欲しいことがあるのじゃが」
「なんだ?」
「もう知ったかと思うが儂は人間の生態に疎くての、旅をする際に必要な支度とは何なのじゃ?」
「ざっくりした質問だな、そうだな・・旅の目的やパーティの構成によっても変わってくるだろうが、最低限必要なのは衣食住の確保だな」
「イショクジュウ・・?なんだそれは、生物の名前か?」
「違う、衣・食・住。人間が生きるために必要な3つの事柄の事だ」
「ほぅ、続けてくれ」
「まさか衣食住の説明を凶魔の祖にすることになるとはな・・まずは衣、これはそのまま服の事だ俺たちは勿論、お前やあのメイドのような者も身に着けているだろ、これがないと人間は暑さ寒さにやられたり、裸だと怪我だってする可能性がある、人前にも出れやしない」
「なるほど、それでか」
「何がだ?」
「ふむ、今儂が身につけているこれは初めてフォロアに会った時にあやつが着せてくれたものじゃ」
「嫌な予感がするが、それまでは?」
「うむ、何も身につけておらなんだぞ」
「・・・・・・」
サプルはあのメイドが慌ててディビエイルに服を着させている光景が容易に想像できた。
そしてウォッツが氷点下すら暖かいと思えるような声と視線でサプルを刺してきた。
「サプル、それは犯罪です」
「・・・!?待て、俺は何も!」
「まぁサプル、いくら相手が凶魔の祖と呼ばれるものでも可愛らしい少女の見た目をされちゃ勇者だって考えちまう無理も無ぇよ」
「チルドフ・・」
「だがそれはやっちゃいけねぇ、人としてな!」
「チルドフ、お前もか・・」
サプルの味方はいないようだ。
「察するに今お前達は儂の見た目の話をしておるのじゃな?今の姿ではあまり良くないのか?」
椅子に座り込み儚い笑顔で灰色になっているサプルの代わりにウォッツが答える。
「良くないわけではありませんが、先ほどのように下賤な輩が不躾によってくる可能性も考えられます。貴方は女性である私から見ても愛らしいと思える見た目をしております。特に情操教育をまともに受けていない人間などは欲望に忠実な者もいますので、そういった観点からすると良くないと言えるかもしれません」
「なるほど、そういう人間もおるのか、やはり文献だけでは分からんこともまだまだあるのう」
ディビエイルは腰と顎に手をあて、ほーぅと感心していた。
そして思いついたように口を開いた。
「では、こうしよう」
そういうや否やディビエイルの姿がみるみるうちに変化していった。
背は伸び、髪も伸び、胸は膨らみ、腕や脚も伸び、あっという間に成人女性のような見た目に変貌した。
顔も変わっていた、先ほどまでは年端もいかない気の弱そうな少女のような顔つきだったが、今は鋭い目つきで小顔の美女になっていた。だが・・
「どうじゃ?」
幼い声で聞いてきた。声はまだそのままらしい。
ウォッツは目の前の光景に驚いていたが、どうじゃと声をかけられ慌てて返事した。
「あ・・えと・・こ、声はそのままなのですね」
そう言われてディビエイルは次は自分の声を書き換えたようだ。
「これでどうじゃ?」
見た目通り、少し低めの透き通った声が返ってきた。
ようやく落ち着いてきたウォッツは改めて返事をした。
「良いと思います。それにしても、姿形や声まで自在なのですね・・」
「うむ、わしを構成するこの姿も身長や胸の大きさや髪の長さ、声の高さも全て数値化されておる、それを書き換えるだけじゃ」
だけ、と言うがそれが出鱈目なんだとウォッツは思ったが、口には出さなかった。魔術にも幻術のように自分の姿を一時的に変えられるものも存在するが、これは根本的に違う。全く別のものに変わるのである。
そして1つ気になった事を聞いた。
「あの、お聞きしたい事があるのですが」
「なんじゃ?」
「自在に姿を変えられると言うことは、今は女性の姿をしておられますが、男性の姿にもなれるのですか?」
「書き換えればの」
「その、女性にはなくて男性にはあるものがあるじゃないですか・・」
「ん?あぁ、男性k・・」
「ああぁ!!言わなくて大丈夫です!・・あれも可能なのですか」
「そうじゃな、実際に見てみるか?」
「いいいいえっっ!!大丈夫です!また機会があれば!」
「自分から聞いておいておかしなやつじゃ、これも人間の生態の1つなのかのう」
ディビエイルはまた1つ学んだようだ。
「それよりもですね、先ほどから気になっていたのですが」
「む?」
「・・服の方がですね」
「おぉ」
そう。姿が変わったまでは良かった、だがディビエイルは着てる服までは気が回らなかったようだ。
その気になれば書き換えることは簡単なのだろう、しかし元々服に無頓着なディビエイルからすれば優先順位は低かった結果である。最低限必要なところはかろうじて隠されている、だが体型までは隠せることなく強引に押し広げられたワンピースがぴったり身体に張り付いているような状況だ、体型の良さがありありと見てとれる、と同時に服の限界も近そうだ。
「これが人前に出れないというやつか?」
「そうですね・・喜ぶものは多いかもしれませんが、普段であればやめておいた方が良いと思います」
「そうなんじゃな」
丁度そこへ支度を終えたフォロアが中庭にやってきた、フォロアは有能なのでディビエイルの姿を見て色々察したようだ。
「ディビエイル様・・!すぐにお召し物を・・!」
そう言うとまたすぐに洋館に戻って行った。
ちなみに、サプルはと言うと、ディビエイルが少女から姿を変え出したのを見て何かを察したチルドフが咄嗟にサプルを抱えて中庭が見えない場所へ退避していた。
チルドフ、ガサツなようだが変なところで空気が読める男である。
そろそろ良いかとチルドフとサプルが中庭に戻ってきた。
気力を少し取り戻したサプルが成人版ディビエイルを見て「誰だ!?」と言っていたがウォッツが説明してくれた。
服もフォロアが新しく用意してくれたものをちゃんと着ている。とは言ってもスタイルの良さは隠しきれないようだが。
「すごいな、そんな姿にもなれるのか」
「貴方のせいでもあるのですよサプル」
「わかったわかった、俺が悪かったよ・・で、その姿で旅に行くのか?」
「うむ、そのつもりじゃが、どうかのう?」
「良いんじゃないか、前の姿だと女子供と侮った馬鹿共に攫われて人質、なんてこともあったかもしれないからな」
「ほぉ、人間はそのような事もするのか、興味深いのぅ」
「興味を示さないでくれ、全然良い行いじゃないから」
「そのような事をする輩は私がすぐに滅ぼします、ですがそもそもディビエイル様に近づけもしないでしょう」
「そういえば最初に攻撃した時にそんなこと言ってたな、あれってどういう仕組みなんだ?」
「仕組みも何も、この世界が『そうなる』ように書き換えておるのじゃ、それが普通であるようにの」
「それって攻撃以外にも適用されるのか?」
「そうじゃのう・・実際にやってみるのがよかろう」
そう言うとディビエイルは歩き出し、サプルの正面に立った。
姿が変わり、ウォッツよりも背が高く、サプルよりも少し低いようだ。
サプルの目の高さにディビエイルの頭頂部がくるくらいだろうか。
立った距離は手を伸ばせば普通に抱きしめられる距離だ。
何か良い匂いがする気がする。
「この位置で儂に殺気を放ってみよ」
「殺気・・?わかった」
サプルは言われた通り、ディビエイルに向かって殺気を放ってみた。
次の瞬間、サプルとディビエイルが離れ、距離にすると5mの位置でサプルが、止まった。
正確には完全に停止しているわけではない、意識はある、音も聞こえる、生きてはいる。だがそれ以外の行動が一切出来ない、自分の意識と身体が切り離されているような感覚だ。
「(な、んだこれは・・身体が・・全く・・)」
「ふむ、では殺気を消してみよ」
声は聞こえているので言われた通りに殺気を消すとようやく身体の感覚が戻ってきた。
「わかったかの?最初に言ったと思うが、儂を害そうという意志が働いた瞬間に世界の理が適用される、今お前は儂を殺そうと考えたじゃろう、それも例外ではないのじゃ」
「とんでもないな・・だが意識はあったぞ?音も聞こえてたし」
「それは少し調整しておる、完全に止まってしまうと意思疎通も図れんからの」
「なるほど、優しい事だな」
言いながらサプルが戻ってきた。
「儂のことについてはその内理解が進んでいくじゃろ、それより」
「そうだ、俺何か説明してたような・・」
「イショクジュウじゃな」
「そうそう、服の話をしていた途中で・・・」
「どうしたのじゃ?」
「・・いや大丈夫だ、何も考えてないぞ」
さりげなくウォッツの様子を伺いながらサプルは続ける。
「まぁ服についてはとりあえずそれでいけるだろ、次は食なんだが、そういやお前は普段何食べてるんだ?」
「儂は何も食べとらんぞ、食事を必要としていないからの」
「そうなのか?何も口に入れないのか?」
「フォーが淹れてくれたお茶は飲むがの、勿論口にしたものの味はわかるし、それが美味いか不味いかもわかる。だが燃料的な意味での食事は必要ないのじゃ」
「じゃあ何故お茶を?」
「フォーのお茶が美味いからじゃ、あと儂が飲まないとみるとあからさまに悲しがるんでのう」
「ディビエイル様・・!私はそのような事は・・」
フォロアが珍しく狼狽えている。
「そうじゃったか?前に儂が今日は茶はいらんと言った時は、その後洗い物中にカップを3個も割っておったではないか、おまけに割れたことにも気づかず、割れた食器をずっと洗っておったぞ」
「・・・・・っ!!」
顔を隠して俯いてしまった。
「少し話が逸れてしもうたが、そういうことじゃ。あ、フォーには食事が必要じゃぞ?」
「そうなのか、お付きさんもてっきりいらないものかと」
「フォーは儂と違ってちゃんと理の中に生きておるからの、ただ人間よりはしばらく食事せんでも問題はないじゃろう」
「わかった、話を戻すが俺達は食わなきゃ普通に死んじまうから旅においても食は重要な要素だ、それにいざって時にも腹が空いてると本来の力を発揮出来ない場合もある」
「ふむ」
「時には人間同士で食料の奪い合い、略奪、殺し合い、最悪戦争にまで発展する場合もある」
「ほぅ」
「だから人間同士で争わなくて済むように組織化し規則を作り、習慣化する、それがやがて大きくなっていき国としての形を成していくんだ」
ディビエイルはサプルの話をちゃんと聞いているようだ。文献で読むのと実際に人間から話を聞くのでは理解度に差が出る。特にサプルは勇者として帝国から派遣され長い月日をかけここまでやってきた、まるで見てきたかのように話をするサプルにディビエイルは感心した。
「ま、逆に組織が大きくなりすぎると様々な思惑が内側で交錯する、誠実に国を良くしていこうとしている人間もいるが、いかに自分が美味しいおもいをして他人を蹴落とすかに躍起になってる上の連中もいる、だから国同士で諍いが起こる、愚かだがそれも人間ていうものだな」
サプルは自嘲気味に肩をすくめた。
「欲望に忠実になって行動するなんか動物と同じだ、帝国のお偉方連中はそんなのばっかりだがな・・本当に帝国の明日を考えてるやつなんかほとんどいない・・」
暗い雰囲気になったサプルだが、切り替えるように顔を上げた。
「すまない、これから旅に出るのに愚痴みたいになってしまったな。それくらい人間にとって食事が大切って事だ」
似たような話を先代の勇者達から聞いてはいたが、ディビエイルが聞いた頃の話と人間の世界はあまり良くなっていないようだ、悪くなっているという気さえする。
ディビエイルが話の続きを促した。
「次はなんじゃったかの?」
「次は住だな、これは住まいとか家とか隠れ家とか、呼び方はなんでもいいが俺たちは拠点と言ってる」
「拠点か」
「あぁ、予め寝泊まりする場所を決めておいてそこを起点に準備をし日中の活動をする、活動が終わればまたそこに戻ってきてその日の成果や情報を共有し翌日以降に備え食事したり就寝したりする、そういった場所だな」
「だが、それだとそこから動けないのではないか?」
「そう、だから俺達は拠点を移しながらここまで移動してきたんだ、おかげで10年も掛かってしまったがな」
お互い老けるわけだ、とチルドフと笑いあっていた。間違ってもウォッツの方は1mmも見ないようにしながら。
「この辺りにそう言った拠点と呼べるようなものはなかったと思うがのう」
「そうだな、ここに近づくにつれて何もなくなっていくから、最後の方はずっと野営だよ」
勝手にやってくる人間側の都合なので、別にディビエイルが悪いわけではないのだが、少しだけ申し訳なくなった。
「それは大変じゃったのう」
「まぁな、だがいざたどり着いて、最終目標にしてた敵がお前みたいなのだったとは、全く予想していなかったがな」
「残念がっておるのか?」
「いや、正直ホッとしてる。確かにお前は出鱈目だが、人間の敵じゃなさそうだ。それに今は、あのいけ好かない帝国の真相を暴こうとしてる、そっちの方が遥かに有意義な気がしてるんだ」
「それは話してみた甲斐があったのう」
「てなわけで参考になったら嬉しいんだが、旅に関する衣食住の話はそんな感じだ。お前もそれを踏まえて支度してみてくれよ」
「うむ、考えてみよう」
改めて今回の旅で自分が必要になってくる事柄を思い浮かべてみる。
まずは衣、服に関してはディビエイルは無頓着だ、必要ないとすら思っている。だが何か着ていないとフォロアがうるさいし、なんなら強引に着せてくる。前に他の人間の男性の前で〜やら、世間の目が〜やらの話をフォロアがしていた、今回の討伐者達の話と照らし合わせてもやはり着ないといけないのだろう。だが自分ではどんな服を着れば良いのかよくわからない、フォロアが着せてくれるのならここは任せておいて良さそうだ。
次に食、ディビエイルは食事をしない。食べる事は可能だが必要とはしていない。普段フォロアが淹れてくれたお茶を飲むのとフォロアが自分用に作った食事の味見を依頼され、その感想を言うくらいのものだ。フォロアは料理も美味い。これからの旅で必要になれば自分でなんとかするだろう。
最後に住、ディビエイルは寝ない、身体の活動力の値をあえて低下させて擬似的に睡眠の真似事をすることは可能だが、特に意味はない、洋館にフォロアが寝床を準備してくれてはいるが、ほとんどインテリアだ。この洋館に関してもディビエイルからすれば拠点というより文献を雨風から凌げるように置いておく物置のような感覚である。
この旅を機に、人間の拠点での暮らしというものを体験しておくのも後学の為に良いかもしれない。
必要になったら現地で作れば問題なさそうだ。
「儂の準備は特に必要なさそうじゃな」
「大丈夫か?ほぼ手ぶらだぞ」
「途中で必要になったらその場で調達するとしようぞ」
「そうか、そういうの行き当たりばったりっていうんだが・・、まぁお前ならホントになんとかしてしまいそうだな」
「何か困ったことがあれば儂に相談しても良いぞ」
「その時は頼むとしよう。さて、お付きの人も準備良さそうだし、そろそろ出るか」
「アントはどうしたのじゃ?」
「自分が居るべきゴミ山を見つけ嬉しくて飛び込んで帰って来れないんじゃないですか?放っておきましょう」
アントにはとことん厳しいフォロアだった。そうこうしているとアントが鍛錬場から何か焦りながら走ってきた。
「ディビール様〜〜!!この2つの武器だったらどっちの方が良いでs・・」
最後まで言い終わる前にフォロアの美脚による豪快な踵落としが綺麗に決まり、アントは顔から地面に深くめり込んだ。
「そのような名前の方はこの場に居ません、そのままミミズに肥やされて大地の栄養となりなさい」
冷たく言い放っていた。
ディビエイルはアントが手にしていた物を見ていた。
「この2つの武器か、知らぬ。好きな方を持っていくが良い」
特にアントを気にしている訳ではなさそうだ。
それを見ていた勇者一行は恐る恐る口を開く。
「その男、大丈夫なのか・・?」
「すげぇ音と勢いで地面に叩きつけられてたぞ・・」
チルドフも腕力に自信はある方ではあるが、それは人間基準の話である。どれだけ自分達が全力で敵を叩きつけてもあそこまで深く地面に人間をめり込ませられないだろう。
それを目の前の美人メイド、しかも体型は普通の、むしろ華奢寄りである女性が一蹴りでやってのけたのである。
やはり出鱈目な存在の側に居るのも出鱈目ということなのだろうとサプルとチルドフは思い知った。
ただウォッツの反応は少し違うようだ。
「フォロアさん!短いスカートでそのように脚を大きく開いたら中が見えてしまいます!今は男性がいるのですよ!」
「おや、そうですね・・ではその2人も大地に還してしまえば解決しますか?」
そう言ってスカートを軽く持ち上げ脚を覗かせた。
「解決しないのじゃ。儂の話を聞いておったのか?これからこやつらと旅に出るのじゃ、アントはともかく、こやつらをぞんざいに扱うならお前はここに残るよう命じるが良いか?」
「し、失礼いたしました!」
パッと居住まいを正し元の位置に戻った。
「すまんの、この子は素直なんじゃが、感情が表に出やすくてのう、根は悪いやつじゃない故、上手く折り合いを付けてくれると助かるわい」
先ほど、フォロアに見られただけで漏らしそうな殺気を向けられた男性2人は素早く頭を上下に動かした。
サプルは気を取り直した。
「あれは放っておいて良いのか?」
アントのことを言っているのだろう。まだ伸びているようだ。
「問題ないじゃろう、あれで頑丈だからの。後で追いつくじゃろうて」
「なら良いんだが・・」
「さて、お互い支度も整ったようじゃし、そろそろ行くとするかのう」
「そうだな、出発しよう、これからよろしく頼むよ・・えっと・・」
「なんじゃ?」
「何て呼べば良いんだ?仲間になったんだ、ずっとディビエイルって呼ぶのもなんだか気まずい」
「そうじゃのう・・ならディビーと呼んでくれんか?フォーはなかなか呼んでくれんでのう」
後ろでフォロアがハッとした顔でディビエイルの方を見てからアワアワしていた。
「承知した、改めてよろしく頼むよ、ディビー」
そう言って手を差し出してきた。
「おぉ、これはアレじゃな、人間がやる挨拶『握手』というやつじゃな、文献で読んで一度やって見たいと思っておったのじゃ♩」
ディビエイルは嬉しそうにサプルの手を握り、軽く上下に振った。
それを見てサプルは思っていた。
「(柔らかくて暖かい普通の女性の手という感じだ、これが帝国の教えに伝わる凶魔の祖の正体だとは誰も夢にも思わないだろうな・・、ディビーの期待に応える為にもこの者を必ず帝国に送り届けよう、そしてこの状況の元凶となった帝国の教えの真相を解き明かす、ディビーと一緒なら国自体が敵になったとしても何とかなる気がする、こいつはそれだけの存在だ、必ずやり遂げよう)」
握手していた手をお互いに放して居直った。
「よし、出発だ!」
ようやく出発した、討伐者と逸脱者のパーティ、帝国までの長い旅がスタートしました。
その道中で愚か者達がディビエイルの前に立ち塞がり、死ぬほど身の程を分からせられるとは露にも思っていないでしょうが、それはこの後のお話、どうなることやら・・




