討伐者が久しぶりにきた
とある洋館。中庭にて、少女のような外見をした者が本のページを捲りながら口を開く。
「なぁフォー、最後にあいつらが来てからどれぐらい経つ?」
フォーと呼ばれたメイド姿の女性が優雅な仕草でお茶の用意をしながら答える。
「およそ15年程でしょうか。サイクルを考えるとそろそろ次が来る頃ではないかと、ディビエイル様」
「その呼び方やめろ、距離を感じてなんだか寂しい気がする・・」
「しかし、貴方様がお命じになった呼び方ではその・・距離が近くなりすぎてディビエイル様の威厳を損なう恐れも・・」
「別に構わんじゃろう、そんな威厳とか調べても特に実りのなかったものの為に何故儂が気揉みせんといかんのじゃ、よいからホレ、ディビーと呼んでみぃ」
「はぁ・・では、ディビー・・様・・」
「・・まぁ、これも追々じゃな」
2人でそんな会話をしながらフォー(本名はフォロアというがディビエイルが愛称としてフォーと呼んでいるだけだが)が用意したお茶を飲みながらディビエイルは本に目を落とす。
「次はうまくできるとよいな・・」
「今回も交渉なさるおつもりですか?」
「うむ、こうも続けられると人間側はどうなっておるのかと、いよいよ気になってしもうた。直接確かめに行かねばな」
「左様ですか、私めはディビエ・・ディビー・・様に従うまでですので。」
「なんだか強引に呼ばせとるみたいで逆に悪い気もしてきたわい・・とりあえず次のをもう少し待つとするかのう」
そうしてまたお茶を飲み、カップをテーブルに置いた。
ここは帝国の遥か北にある森林地帯。
隠れ潜むように森の中を進む3人がいる。
その中の1人、片眼鏡を掛けた銀と黒髪の女性が小さな声を出す。
「サプル、ここはもう凶魔の祖の領域の中にあります、油断してはいけませんよ」
サプルと呼ばれた男性も小さな声で返す。
「そうだな。ここまで結構遠かったが、後は凶祖を倒すだけだな。二人とも今日までよくついて来てくれた、先に礼を言っておいた方がいいかもな」
それに続くように残る一人の男性も言葉を返した。
「やめとけ、お前それ死ぬヤツだ。後で飯でも食いながら聞かせてくれ」
と、少し笑いながら言った。
彼の名はチルドフと言う。サプルとは幼馴染でサプルが5歳の頃から数えて20年ほどの付き合いである。
そして女性の名はウォッツ、帝国から派遣されたサプルの教育兼世話役でもある。
「にしても、まさかサプルが帝国に凶祖討伐を任命されるとはなぁ、おまけにこんな美人の世話役までつけてもらえて、人生何が起こるかわかんねぇもんだ、幼馴染みの俺も鼻が高ぇよ」
「いえ、私は必然であると思っています。サプルの家系は歴代勇者を派遣し続けていますから。・・・見方を変えれば呪いと言えなくもないですが」
そう、サプルは帝国が凶魔の祖を討伐する為に派遣した勇者である。
そしてサプルの家系は代々勇者として派遣され続けている、その理由はもちろん、誰も討伐を成せていないからである、更に誰一人帰還していない。凶魔に殺されたと考えるのが妥当であろう。
サプルの前に派遣されたのはサプルの父であるガイツ、例に漏れずガイツが家に戻ることはなかった。
サプルは討伐の旅に出る父から聞かされていた、サプルの家が勇者の家系であること、父が戻れなければ次は自分の番になるだろうと。
それからしばらくして自宅に帝国からウォッツが赴いた時には特に驚きはなかった、遂に自分の番がきたと。
いや、その場に一緒にいたチルドフは驚いていた気がする。
そこでウォッツに聞かされた凶魔の祖討伐の依頼、二つ返事とまではいかないがこれも運命かと思い引き受けた。
チルドフに一緒に行かないと尋ねると彼は特に逡巡する事なく「いいぞ」と言ってくれた。
そしてサプル、ウォッツ、チルドフの3人でパーティを結成し、討伐の旅に出て今に至る。
「それにしても・・・もうすぐ凶祖に辿り着くってのに、なんだかやけにスムーズに進んでないか?」
サプルが言う。ウォッツがそれに反応した。
「いつも言ってるでしょう、先手必勝だと。魔物を見つけ次第やられる前にやる。戦闘が長引けばそれだけ消耗して、いざ凶魔の祖と戦う時に大変ですから」
「(ウォッツて考え方が割と脳筋寄りなんだよな・・)確かに先に攻撃してどんなものか様子を見るつもりでいるんだが、最初の攻撃を繰り出してから相手が直ぐに撤退するんだよ、どう見てもバリバリ戦闘できますって見た目のやでも毎回そうだ・・なんか妙だよな」
「考えすぎじゃねーか?こっちも怪我しないし、寧ろラッキーじゃねーか」
チルドフも軽く返した。
「・・まぁ警戒はしながらとりあえず進もう」
サプルは頭を切り替えた。それからも森の中で魔物には遭遇するが特に戦闘に持ち込むわけでもなく、サプル達は森の奥深くでそこまで大きくない洋館に辿り着いた。大きさで言えば、家族4人程で暮らすのにちょうどいいと言ったところだろうか。
洋館を見渡しながらサプルが言う。
「ここ、か?」
「恐らくそうでしょうね、それらしきものがここぐらいしかありませんから」
「そうなんだろうが、これが凶魔の祖と呼ばれる物の館か・・思ってたよりも」
「なんだか小せぇ気がすんな」
「それに軽く中を見てみても、書棚?が多いような・・図書館か?」
「もしかしたら魔術の本かもしれません、凶魔の祖がどのような力を持ちどのような外見なのかも、我々は未だ知りませんから」
そう、帝国には凶魔の祖の情報がほとんどと言っていいほど無い。
それもそのはず、討伐に向かったものが誰も帰還していないので、もちろん情報も帰ってこないのである。
「まぁ実際会えば嫌でも分かるか、行くぞ」
3人で頷きあい、洋館の敷地に入る。
罠が仕掛けてあるかもとも思っていたが、すんなり中庭と思しき場所に出た。
そこに、居た。
「・・アレだよな」
「サプル、見た目で判断してはなりません。相手は凶魔の祖、何があってもおかしくありません・・」
「確かにそうだが、いや、そうだな・・なんの為にここまで来たと思ってる」
「やったろーぜサプル!」
「よし、行くぞ!」
そして3人はもう潜まず、堂々と中庭へ足を踏み入れた。
それに気づいた少女のような外見を持つものがそちらを振り向き、持っていた本をテーブルに置いた。
「あ、きた!おいフォー!やっと来たぞ!」
何故か嬉しそうだ。
「そうですねディビエイル様、如何様にも」
ディビエイルは呼ばれ方に少し不満そうだがとりあえず流し、勇者一行に向き直った。
「お前達が次の討伐者か?そうであろう」
勇者一行は油断なく武器を構えながら答える。
「討伐者・・?我々は勇者と呼ばれているものだ」
「勇者?そうか、今回の世代ではそう呼ばれているのだな」
フムフムと頷きながらディビエイルは勇者たちを見ていた。
「(なんだコイツは・・?ホントに凶魔の祖か?それとも油断させる為にワザと・・?)」
「よしわかった!では勇者達よ、儂と少し話を・・」
「いけませんサプル!相手は得体の知れない凶魔の祖、どのような甘言を振りまくのかわかったものではありません!先手必勝ですよ!」
「そうだな!最初から全力だ、チルドフも頼むぞ!」
「おうよ!」
3人とも戦闘体制になり、サプルは持っていた大剣を最上段に構え、ウォッツは魔術杖の先を真っ直ぐディビエイルに向け、チルドフは腰を落としガントレットのついた右手を深く後ろに引いた。
「もう遅い凶祖!喰らえ!『断海』!」
サプルが剣を振り下ろした、それは文字通り海をも切り裂こうかという圧縮された魔力の刃である。
「私も行きます!風よ彼のものを風塵と還せ『ヘルウィンダー』!」
ウォッツが掲げた杖をもとに魔力の奔流が解き放たれ、洋館諸共ディビエイルを粉々にしようと吹き荒れた。
「ダメ押しだ!ありがたく喰らいやがれよ!『圧拳』!」
チルドフも我もと言わんばかりに引いた拳を勢いに任せて前に突き出すと圧力が増された空気の壁が音のような速度でディビエイルに向かった。
全ての攻撃がディビエイルを木っ端微塵にしようと迫る中、当の本人はそれを見てやや困り顔を見せた。
「むぅ・・やはり最初はこうなってしまうのかの、仕方あるまいか」
そう言いながら何をするでもなくただ見ていた。
「(避けようとも防ごうともしない!?それだけ自信があるのか・・だが)俺たちの全力だ!いい加減滅びてくれよな!」
サプルが叫んだ。
確かに3人の攻撃はディビエイルに向かっている、だが考えていたような手応えが感じられない。
「・・・・・?あれは、どうなってる・・?」
恐らく3人ともが同じ感想を抱いたのだろう。
「何でしょう・・止まってる?ように見えますが・・」
「何だぁありゃ?」
ディビエイルに向かっていた魔力の刃も魔力の奔流も空気の壁も全て、ディビエイルの数メートル手前で時が止まっているかのように静止しているのだ。
そしてそれが普通だと言わんばかりにディビエイルは勇者達に問いかけた。
「どうじゃ勇者達よ、お前達の目的は儂を倒すことじゃろう?ならお前達の旅の終着点も一旦ここでゴールじゃろ、
時間はまだあるじゃろうから儂の話を少し聞いてみんかの?と、その前にこれらは何とかせねばな」
そういうとおもむろに右手の人差し指と親指を前に出し上下に開いてそっと閉じた。
それだけで静止していた勇者達の攻撃達が小さくなっていき、やがて消えた。
ウォッツが驚きつつも冷静に口を開いた。
「・・今、何をしたのですか?私たちの攻撃が止まっていた事といい、高位の魔術ですか!?」
「魔術?いや。儂は魔術は使えんのじゃ、最初にお前達の攻撃が止まっていたのはあれが『そういう攻撃』だったからじゃ」
「何を言って・・?」
ディビエイルの説明にいまいち要領を得ないといった様子で勇者達は顔を見合わせた。
そんな様子の勇者達を見てディビエイルは更に続けた。
「うむ、お前達は今、儂を倒そうと全力で攻撃を仕掛けてきたじゃろう?攻撃自体に儂を害そうという意志が乗っているんじゃ、そういったものは全てわしの前で止まるんじゃ、理由は単純、『儂に害をなそうとする事象は儂の5m前で止まる』というふうにこの世界の理を書き換えておる、だからこれは魔術ではない、分かるかの?」
「いや、待て・・じゃあ止まった攻撃を消したのは?」
「あれはもっと単純じゃ、万物は全て数値に当てはめる事ができる、剣の攻撃と杖の攻撃、それと拳の圧縮された壁にはそれぞれ魔力と気圧が込められていた、それを両方とも数値をゼロに下げたのじゃ」
こうやっての、と言いながらディビエイルは人差し指と親指を閉じたり開いたりしてみせた。
それを聞いたサプルとウォッツは愕然とした、この世界に存在しながら魔術ではない世界の理自体を自ら書き換えられる力、最早力と呼んでいいのかすら怪しいが実際にこの目で見せられた抗いようのない事実、そんな正体不明のものが目の前に確かにいる、そんなもの・・・
「逸脱者だ・・!」
サプルは思った。こんなものが存在していて良いのかと、今なら分かる、これまでの勇者達が戻らなかったこと、帝国が何世代も掛けて討伐しようと躍起になっていること、放っておけばこの物の意思一つで人類が滅びることも眉唾物ではないことも。
だが、どうする。世界の常識の枠に治っている自分達ではどうしようもないのではないか、歴代の勇者が出来なかったことが出来るのか、仮に自分達がダメでも次の勇者で何とかなるだろうか、しかしサプルは子供を残していない、自分が死んだら次は誰が勇者としてこれと戦うことになるのだろうか、と色々な考えが頭に浮かぶが歴代の勇者と考えて思い出した・・
「・・俺の前の勇者は、どうなった?』
サプルは先代勇者、ガイツの事を思い出した。ここについてからも希望的観測ではあるがサプルはガイツがもしかしたらまだ生きているのではないかと考えていた、帰ってこなかったのも凶祖に捕えられて帰れなかったんじゃないかと、そう思い聞いてみたが・・
「前の勇者?ここには何人も討伐者が来ているからの・・名前はなんという者じゃ?」
「ガイツ、俺の父親だ」
「おぉ、お前はあやつの子孫か!確かにどことなく面影があるのぉ」
「どうなった?」
「すまんが、もう死んでおる」
予想していた答えではあったが、いざ直面すると何とも言えない喪失感が込み上げてくる。
だがもっと聞かねばならない、これまで挑み帰らなかった勇者達の真相を。
「殺したのか・・?」
「いや、皆寿命じゃ」
「・・寿命だと?」
「うむ、これまでの討伐者達も見てきたが、お前達の種族の寿命は大体40年程といったところじゃの、でここにくるまでにお前も含めてじゃが10から15年ほどかかっておる、仮にもっと若い時に出発しここに辿り着いても、残り数年で寿命が尽きるんじゃな」
初めて聞いたことではあるが、言われてみればサプルは思い当たる節があった。
まだ帝国にいた頃、周りの大人達は働き手が多かった、父と同世代の男性達もせっせと仕事をし長く働き続けるのだろうと思われる働き好きの者も沢山いた、だがあんなに元気に働いていたのにそいえば最近見ないなという人物の事を周りに聞いてみると既に亡くなっていた、という話を少なからず耳にしていた。死因を聞いてみても怪我や病気ではなく、亡くなる1ヶ月程前から活力が無くなり、そのまま眠るように穏やかに息を引き取るそうだ。
あれは皆、寿命で死んでいっていたのかとサプルは理解した。
「今までの討伐者達の墓もあるぞ、見てみるかの?」
思いがけない話がきた。
凶魔の祖と呼ばれ自分を倒しにきた歴代勇者の為に敵本人がその墓を作る・・
にわかには信じがたいが嘘を言っている気配もない。
「・・・わかった、見せてくれ」
そこでようやくサプルは剣を収めた。
「良いのですかサプル?」
「あぁ、どのみち俺達ではアレをどうこうすることはできないと思う、なら最初に言われた通り、話をしても良いんじゃないか」
「貴方がそう言うなら・・」
ウォッツは杖の構えを解き、チルドフも同じタイミングで普段の体制に戻った。
「よし、話を聞いてくれるようになったようじゃな、ではこっちじゃ、と言ってもすぐそこじゃがの」
ディビエイルは先導するように歩き出し、中庭から洋館の横を通り過ぎ、裏庭に出る。
サプル達も後に続いた。
「ここじゃ」
サプル達は案内された裏庭を見渡した、広いわけではないが鬱蒼と生い茂っているわけでもなく手入れはされているようだ。その裏庭の一角に地面に縦型の石がいくつか並べて置かれているのが目に入る。
あれが勇者達を埋葬している墓だろう。
「お前達は死んだらあのように地面の中に埋めてその上に石を建てて弔うと文献に書いてあっての、ここにきた他の勇者達に聞いてみても大体合ってるそうじゃが、どうじゃ?」
「そうだな・・」
そう言いながらサプルは一番端に建てられた比較的新しそうな墓の前に立つ。
しゃがみ込み石に刻まれた名前を見る。
「ガイツ・・親父、ホントに死んじまったんだな・・」
サプルはそのまま目を閉じ少し黙祷を捧げたあと、他の墓を見ていった。
そこには歴代の勇者の名前が刻まれていた、ガイツの父親、サプルにとっては祖父の名前である墓もあった、会ったことはないが名前は聞いた事がある、それより前の名前は見ても分からなかったが全員自分の家系のものだろう。
いずれにせよ全員丁寧に供養されている、何なら帝国にある民間の墓の方が扱いがぞんざいな場合もあるくらいだ。
そう思うとサプルは凶祖に感謝の念すら湧いてくる。
「凶魔の祖、ディビエイル。先代達を供養してくれて感謝する」
サプルは素直に頭を下げた。
「よいよい、あやつら皆良いやつじゃったからの、少しの間しか一緒に居れんかったが、死んだ時は毎回儂も寂しいんじゃ」
「それにしても、どうして俺達人間の為に墓を?」
「あぁそれはの、一番初めにここにきたお前の先祖討伐者の時の話じゃ、そいつもお前達のように最初は攻撃してきたんじゃが、儂を倒せないと悟り、話をするようになった。その時儂はまだ人間についての知識があまりなくてのう、死ぬという状態は分かるのじゃが、その後どうすれば良いのか知らなかったのじゃ」
ディビエイルは少し懐かしみながら最初の勇者の事を話す。
「そのうちそ最初の討伐者の寿命が近くなってきおったので聞いてみたのじゃ、お前が死んだ後のその体はどうすれば良いのかと、すると其奴は『好きにしてくれ、だが出来ればぞんざいに扱わず処分してくれると有難い』と。」
「初代がそんな事を・・」
サプルは自分も勇者としてここに来たのだから分かることがある、元々片道だけの旅になるだろう覚悟をして帝国から出てきた、故にこの身体や命惜しくなく、差し違えてでも凶祖を倒すと。
だから初代が死の間際に自分の身体を丁寧に処分して欲しいと敵側に頼むとは、それだけこの凶祖なら自分が死んでも悪いようはしないと言う信頼を築けたと言う事だろう。
その結果、今までの先代の墓がこうして建てられ続けているのだろう。
ディビエイルが話を続ける。
「それから儂は調べてみたのじゃ、 人間 死んだ後 どうする みたいな感じで文献を漁っておった」
「(そんな感じの調べ方あるのか?・・いや、こいつは色々と規格外なんだろう、考えるのは止そう)」
「そうやって人間の埋葬や供養の仕方を見つけこれまで続けておるのじゃ」
「そうだったのか・・」
サプルはひとまず納得した。それを見てからウォッツが次に聞いてきた。
「その、文献を漁ると言うのは?」
「ん?洋館の中を見なかったか?」
「いえ、書棚が多く並んでいるのは見ましたが、魔術書か何かの類かと思っていました」
「儂は魔術が使えんからの、あそこに置いてあるのはほとんど史学の本じゃよ」
「史学・・歴史の資料ですか、何故それを?」
そう聞くとディビエイルは思い出したかのようにパッとサプルに振り返った。
「そうそうそれじゃ!それが儂が話したかった事じゃ!」
「と言うと?」
サプルもディビエイルに向き直した。
「お前達にも聞きたいのじゃが、お前達人間は何故儂を討伐しにくるのじゃ?」
「何故ときたか・・帝国の任命で俺たちは代々凶祖を倒すように派遣され続けている」
「それは今までの討伐者達にも聞いておる、そこではなく、何故帝国は儂に討伐者を派遣し倒そうとするのじゃ?」
「それは帝国に広く伝わる教えがあって・・どんな感じだっけウォッツ?」
「そうですね、かいつまんで言えば、遥か昔に帝国の辺境地域で人間の大虐殺が行われ、その地域での繁栄が見込めなくなり、帝国並びに人類に対して甚大な被害を及ぼした、それを引き起こしたのが凶魔の祖である、故に人類は一丸となりこれ以上の脅威を許す事なく元凶を討伐すべし、といった感じですかね」
「そうそうそんな感じだ、帝国の人間は幼い頃からその教えをずっと聞かされて育つんだよ」
「それじゃ」
「何?」
「その遥か昔に虐殺云々の話じゃ、悪いが儂、全く心あたりがないんじゃ」
「どういう事だ?」
サプルは思い返した、ここにくるまでは帝国の教えを長年聞き、凶魔の祖を倒すことが絶対だと思いやってきた。
しかし、実際に会ってみると規格外の逸脱した存在である力を持っているということ以外は穏やかそのものだ、何なら人間の方が悪党極まりないやつも少なからずいる。おまけに人間の為に墓まで建てるような存在だ。例え人間を大虐殺できる力があってもそれを無意味に行使するようなことはそうそうないだろう。そう考えると心あたりがないという言葉も信憑性がある。
「儂もそれがどういうことなのか知りたくて史学の本を漁っておったのじゃ、だがそうしているうちに一定の周期で討伐者が送られてくるでのう、儂は時間はあるから来るのは別に構わないんじゃが、その度に儂の存在の影響で寿命で死んでいくお前達を見ていると少し不憫になってきてのぅ・・」
確かに言われてみればおかしな話だ、今まで盲目的に帝国側は国の教えに従い勇者を派遣し続けてきた、そして勇者達は誰も帰ってきていない、だが帰ってこなかったから討伐に失敗したと考えるのは少し早計ではないだろうか。
失敗の報告も成功の報告も来ていないけど、多分失敗したから次の人いってきてね、と言っているのである。
サプルの中で信じていた帝国の教えに不信感が募っていく。
仮に帝国の教えの通り、昔に大虐殺があったとしよう、だがその根拠は?実際に虐殺された地域は?辺境としか聞いていないが具体的には?それほどの大惨事が起こっていたならば資料が残っていそうなものであるが、実際には帝国の教えと言う形でしか国民には知らされていない、そしてそれが起こっていたとしてその後の歴史で同じような事が起こったとは一度も聞いた事がない。
考えれば考えるほど怪しい教えである気がしてきた。
元々サプルは帝国自体にそこまで思い入れがあるわけではなかった、勇者の派遣も歴代の親達がそうしてきたから受けたと言うのもある、だがその行動基準の根底でもある帝国の教えにここまで不信感を抱くことになるとは思ってもみなかった。
「嘘だろ・・ここまできて帝国の教えがこんな考えに変わるのかよ・・」
「サプル、落ち着いてください、結論を出すのはまだ早いですよ」
ウォッツに肩を軽く叩かれる。
「そうだぜサプル、正直俺はそんな信憑性の無ぇ教えなんざどうでも良いんだが、お前のやりたいようにすりゃいい」
チルドフが身も蓋もないことを言っているが、それも一理ありそうだ。
それぐらいの気軽さの方が今のサプルには有り難かった。そして改めてディビエイルに向き直った。
「話はわかった、それでディビエイル、貴方の希望はなんだ?」
「うむ、ようやく話が繋がったのう、もう分かるとは思うが、儂の希望は帝国の教えの真相を解明し、儂の影響で死んでいく者たちをなくすことじゃ、その為に儂は帝国に行きたい、儂らをお前達のパーティに加えてもらい共に帝国を目指して欲しいのじゃ」
「わかった、こちらこそよろしく頼む」
即答だった。
「良いのですかサプル?帝国の教えは帝国に生きるものにとっては絶対のもの、それに異を唱えると言うことは国家反逆罪と言うこともあり得ますよ?」
ウォッツが注意してくれる。
「構わないだろ、どの道このままここにいても俺たちが寿命で死んで、その後はまた新しい勇者が派遣されてそいつも死んでいく・・その繰り返しなだけだ、なら生きているうちに帝国の真相暴いて歴史をスッキリさせてから死んでいこうぜ」
「おいおいすげー分かりやすい考えじゃねーか、そうそうそう言うので良いんだよ、最後まで付き合うぜ!」
そういうとチルドフは自分の拳を突き合わせていた。
「まぁ、サプルがそう言うなら私も最後まで付き合います、大変でしょうけどね」
ウォッツも了承してくれた。
「話はまとまったようじゃのう、では儂も家臣達に話をしにいくとするかの」
そう言ってディビエイルは洋館の中に向かった。
かくして勇者と逸脱者による歴史の真相を解明するための旅が始まったのである。
旅の道中でディビエイルの逸脱ぷりをサプル達は目の当たりにすることになるのだが、それはこの後のお話。




