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死因 射殺

「大魔導師の方は、皆……不死身なのですか?」

ルクレチアは眼前の異常事態に一切の隙も見せず、刃を鋭く構えたまま冷徹に問うた。首を断ち切られて海水で再生するなど、人間に許された領域を遥かに踏み越えている。

サモは服についた血と水をパンパンと雑に払い、困ったように首を傾げた。

「んー、ほぼ。ほぼほぼ不死身かなぁ。少なくとも、こんな鉄の棒でちょこっと切られたくらいじゃ死なないよ」

冗談めかして言いつつも、サモは足元に転がる騎士たちの死体に視線を落とした。

甲冑ごと真っ二つにされ、水泡を吹いて物言わぬ肉塊に変ち果てた中央の精鋭たち。その遺体の表面は、いまだにぬらぬらとした謎の湿り気を帯びている。

「……まぁでも、この辺の騎士ちゃんたちはあっさり死んじゃってるけどねぇ」

サモは死体の一つの頭輪を足先でちょんと突き、クスクスと笑いながらルクレチアへ歩み寄った。その一歩ごとに、石畳の隙間からじわりと粘り気のある海水が滲み出していく。

「ルクレチアちゃんもさ、あんまりこの『水』を近くに押し寄せさせない方がいいと思うよ?」

サモの瞳から一瞬だけ道化の光が消え、底知れない水底の闇が覗く。

「中央の結界の内で、こんなに『水』が満ちちゃったら……地下で調べ物してる可愛い監察官さんまで、一瞬でプツンって泡になっちゃうかもしれないしね」

地下書庫で聞こえたあのカタコトの声と悪寒。そして目の前で転がる騎士たちの凄惨な死体。サモの発言は、明確な警告であり恐ろしい脅迫だった。

ルクレチアの額を、再び冷や汗が伝う。

「……サモ。貴女の目的は何なのです。あの村を消し去り、異形の『水』を抱え込み、そして……あの子(ヴェロニカ)に何をさせようとしているのですか」

問い詰めながらも、ルクレチアは間合いを死守していた。足元から忍び寄る粘着質な海水が、己のブーツを浸食し始めていることに気づいたからだ。

「ん? ヴェロニカちゃんのこと?」

サモは一転して、いつもの呑気な表情に戻ると、楽しそうにクルリと一回転してみせた。

「あの子はねぇ、大事な『鍵』なの。折れかけてたけど、フランケンちゃんが綺麗なネジ(機械心臓)を巻いてくれたから、もうしばらくは壊れないはずだよ。……ルクレチアちゃんが余計な手出しをして、あの子の糸を切っちゃわなければ、だけどね」

「鍵……?」

「そう。だからさ……」

サモの姿が、揺らめく水面のようにふっと輪郭を崩した。

次の瞬間、ルクレチアの真後ろ――耳元で、冷たい潮風とともにささやき声が響く。

「……これ以上潜ると、お溺れちゃうわよ、監察官さん?」

「っ――!?」

背後へレイピアを一閃させたルクレチアだったが、刃が裂いたのはただの水塊だった。

「……私に何の用ですか」

ルクレチアはレイピアの尖端をサモに向けたまま、静かに問うた。大魔導師がわざわざ中央の精鋭を惨殺し、自分の前に姿を現した理由。ただの悪戯で済む相手ではない。

サモは人差し指を唇に当て、「んー」と可愛らしく首を傾げた。

「警告……ううん、予言かなぁ。ちょっと『見えちゃった』から、教えてあげようと思って」

「予言、ですか」

「そう。ルクレチアちゃん、ここから10年以内に殺されちゃうよ」

サモは他人事のようにくすくす笑いながら、自分の頭に指をピストルの形にして突きつけた。

「死因はね……えーっと、ルクレチアちゃんが今よりずーっと偉い立場になっててさ。豪華な部屋の中で仕事してるときに、いきなり頭を撃ち抜かれてた。何にかは分かんないけど……バンッ!てね」

ルクレチアの表情が微かにピキッと硬直する。

「……それが、私への警告ですか」

「まあね! 予言なんて確定した未来じゃないから、避けようと思えば避けられるかも? 助言してあげたんだから感謝してよねー」

サモはひらひらと手を振ると、脚元に広がっていた水溜まりの中へ溶け込むようにして、その場から完全に気配を消していった。

あとに残されたのは、血と海水の重苦しい匂い、そして騎士たちの残骸だけだ。

ルクレチアは静かにレイピアを鞘に納め、サモが消えた空間を見つめた。

「……肝に銘じます」

呟いた声に震えはない。サモの目的が何であれ、ひとつだけ確かな事実がある。

(……少なくとも、あと5年ほどは確実に生きられる、ということね)

10年以内に殺されるという予言。それは裏を返せば「それまでの数年間は死なない」という逆説的な生存保証でもある。そして何より、サモの言う「予言」というものの不確定さ、グラつきをルクレチアは見逃さなかった。未来が固定されていないのなら、変えることも可能なはずだ。

(10年後の死……そして『何かに頭を撃ち抜かれる』という光景。……何を調べていたから、私はそこまで立場が上がり、そして消されることになる?)

地下書庫で聞こえた「追うな」という異形のカタコトの声。そしてサモの予言。

ルクレチアは固く拳を握り締め、夜の中庭を後にした。中央が隠す世界の真実を、もっと深く調べ上げるために。

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