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フランケン

夜の静寂を激しく切り裂き、屋敷の重厚な玄関ドアが突然、不躾な勢いで叩き鳴らされた。

不機嫌そうに眉をひそめたベロビーが部屋を出て、重々しい玄関の鍵を解除する音が響く。

一体、こんな深夜に誰がやってきたというのだろう?

扉の開く軋み音とともに、廊下の向こうから、聞き覚えのない必死な叫び声が聞こえてきた。

「無礼者! 僕は子供ではない! 天才魔導技師、フランケンである!!」

豪快で妙に甲高い声が夜の屋敷に響き渡ったが――次の瞬間、凍りつくような沈黙が訪れた。

ベロビーの冷徹極まりない視線と、どこか間抜けた空気が廊下に充満しているのが、部屋の中にいる私にまで手に取るように伝わってくる。

(……フランケン? 天才魔導技師……?)

私はベッドの上から身を乗り出し、廊下の様子を伺おうと息を殺した。

サモ様の不在、地下の不気味な泡立ち、そしてこの怪しすぎる訪問者。

この夜が、ただの静かな夜で終わらないことだけは、私の胸の動悸がハッキリと告げていた。

廊下からは、先ほどの大声が嘘のように、急激に元気を失った気まずそうなボソボソ声が聞こえてきた。

「……えーっと、ですね。その……僕は霊導族(エルフみたいな長寿の種族)でして。見た目はこうですけど、ちゃんと大人です……はい」

どうやら玄関口でベロビーに子供扱いされ、相当な冷酷ビームを浴びせられたらしい。

ベロビーが冷ややかに追い払おうとする気配を感じ取ったのか、その男は慌てて早口でまくしたて始めた。

「実は……今回『中央』からの依頼でして! あの、深きモノの奇病対策というか、心臓に難がある患者のための『義心臓』……まあ、心臓の働きを補助・補強する術式魔導具のようなものを開発しまして! それを大魔導師サモ様に納品に来たと言いますか……!」

「義心臓」――その言葉が聞こえた瞬間、私の胸がドクンと大きく跳ね上がった。

(……心臓の補助具……!?)

病み上がりで、なおかつ「精緻魔導」というイカれた術式で無理やり生命を維持している私の身体。自分の命の根幹に関わる単語に、私は思わずベッドから起き上がり、ドアの隙間から廊下を覗き込んだ。

そこに立っていたのは、両目の下にひどい隈(クマ)を刻み、ボサボサの頭髪を乱した小柄な男だった。いかにも徹夜続きで研究室に引きこもっていたような、怪しさ満点のオタク研究者といった風情だ。

「サモ様は不在です。お引き取りを」

ベロビーが容赦なくドアを閉めようとする。

「待ちなさい! 門前払いしたら君の上司だって困るんじゃないのかね! 見なさい、これが中央監察局の認可印だ!」

フランケンと名乗る男が必死で差し出した羊皮紙を、ベロビーは冷酷な手つきでひったくり、月明かりにかざして検分した。忌々しそうに眉をひそめるベロビー。本物の許可証だと認めざるを得なかったらしい。

「……チッ。入れなさい。ただし不審な動きをすれば即座に排除します」

「君、本当に口が悪いねぇ……」

ベロビーの舌打ちとともに屋敷へ上がってきたフランケンは、アタッシュケースを重そうに抱えながら廊下を進んできた。だが、部屋のドアの隙間からこちらを見ていた私と目が合った瞬間、彼の足がピタリと止まった。

「……君か」

フランケンの目が、これまでのオドオドした光から、一瞬で「偏執的な研究者」の鋭く研ぎ澄まされた色へと変わった。彼はベロビーの制止を無視し、吸い寄せられるように私の部屋へと足を踏み入れてくると、失礼なほどの至近距離から私の胸元を凝視した。

「すごい……なんだい、この異様な魔力脈動は? 心臓のポンプ機能が完全に不全を起こしているのに、外部から張り巡らされた精緻な魔導回路が、無理やり血流を押し流している……! まるで壊れかけた時計の歯車を、糸くずで繋ぎ止めて動かしているような歪さだ!」

「ひっ……!」

いきなり顔を近づけられ、私は思わず身を引いた。前世の知識があるとはいえ、この異様な観察眼を持つ男のプレッシャーには気圧される。

「これだ……これだよ! 10万レールを投じて作り上げた僕の最高傑作、魔導義心臓! サモ様に売りつける前に、こんな完璧な適合素体に出会えるなんて!」

彼がガチリと開けたアタッシュケースの中には、銀と真鍮で精密に組み上げられた、手のひらサイズの人工心臓が鎮座していた。カチ、カチと微かな金属音を立てながら、青い魔導回路が脈打つように光を放っている。

「被験者扱いはおやめなさい。サモ様の『資産』です」

ベロビーの手がフランケンの肩を強く掴むが、フランケンは引き下がらない。

「だがね、この子の心臓はもう限界だ! あと数日……いや、次に大きな魔力負荷がかかれば、その糸くずみたいな魔導回路が焼き切れて即死するぞ! 僕の義心臓を埋め込まなければ、この子はサモ様が帰ってくる前にただの死体になる!」

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