死ぬ気がする?
サモ邸の廊下に、靴音が重々しく響き渡った。
「そこまでだ」
廊下の両端から姿を現したのは、鎧を身につけていない軽装の騎士たちだった。サモ邸へ気配を殺して侵入するため、防具を脱ぎ捨てて足音を殺していた中央の刺客たちである。
その中心に立つのは、監察官ルクレチア――そして、彼女が自らの権限で引き連れてきた信頼できる直属の部下たちだった。
(サモが中央の上層部に連行され、拘束された……。あの化け物が手枷をはめられ、自由に動けないこの一瞬こそが、最初で最後の勝機……!)
ルクレチアはサモが完全に拘束され、護送馬車へ押し込まれたことを自身の目で確認していた。サモという絶対的な脅威がこの屋敷から排除された今なら、中央の上層部やサモの威光に怯むことなく動きを見せられる。これは、ルクレチアが己の立場と命を賭けた大博打だった。
「部隊、入れ! 現場を確保し、ヴェロニカを保護しなさい!」
ルクレチアが一閃するように指示を飛ばすと、部下たちが一斉に屋敷の中へ雪崩れ込んだ。
「な、なんですか貴方たちは……っ!?」
狼狽するベロビーを部下たちが素早く制圧・制止する。その隙にルクレチアはヴェロニカのもとへ駆け寄り、不安に震える彼女の細い肩を抱き寄せた。
「大丈夫よ、ヴェロニカ。貴女を保護するわ。……ベロビー殿、貴方はそのまま待機していなさい!」
「ルクレチア……様……? 私……」
「心配いらないわ。外の馬車に乗って。貴女の身の安全は、私が責任を持って保証する」
ルクレチアの手によって手際よく馬車へと乗せられるヴェロニカ。
サモの拘束を確認した上での電撃的な保護工作――ルクレチアの命懸けの賭けは、見事に功を奏したのだった。
一方、同じ頃――別ルートで中央へと向かう、重厚な護送馬車の中。
サモは両手両足を頑丈な魔力封じの枷で縛られ、さらに目元には厚手の目隠し布を固く巻かれていた。視界は完全に奪われ、暗闇だけが広がっている。
(あーあ……目隠しまでされちゃって、外がぜんぜん見えないよぉ……)
だが、サモの顔に焦りや恐怖の色は微塵もなかった。
その時、サモの脳内に、サモ邸に残されているベロビーからの焦燥に満ちた「心話(念信)」が直接響き渡った。
『――サモ様! 聞こえますかサモ様! ルクレチア監察官が部下を連れて踏み込んできました! サモ様が拘束されたのを確認した上で、ヴェロニカ様を「保護」すると言って馬車に乗せ、連れ去っていきました!』
「あ、ベロビーちゃん? うんうん、聞こえるよー」
サモは心話で呑気に返答を返した。
「そっかぁ、ルクレチアちゃん賭けに出たんだねぇ。私が捕まって動けない隙を狙うなんて、なかなかイイ度胸してるじゃない」
『サモ様! ご自身は大丈夫なのですか!? どのような勢力が同乗しているのです!』
サモは目隠しの下で、クスクスと笑いを漏らした。
「うーんとね、目隠しされてるからハッキリとは分からないんだけどさぁ……たぶん、馬車の中には中央のナンバーズ……第2位から第6位までの幹部騎士のうち、誰か『一人』が同乗してると思うんだよねぇ」
『……第2位から第6位の誰かが……!? 第1位ではないのですか? 最強である第1位の騎士が護送の指揮を執っていないなど……』
ベロビーの疑問に対し、サモは軽めのトーンで事実と自身の推測を口にした。
「ベロビーちゃん、第1位はほら……あいつ『死んだ』って噂、有名じゃない? もし第1位が相手だったらね、私なんか一瞬で殺されてるよ。というか、たぶん今回の件でも私は殺されるんじゃないかなぁ」
『なっ……!? サモ様が殺される……!?』
ベロビーが絶句する気配が伝わってくる。サモはまるで他人事のように淡々と分析を続けた。
「それにさ、ルクレチアちゃんがそこまで大胆に動けたってことは……たぶん中央の『上の連中』も、もう誰かにやられちゃったんじゃないかなぁって思うんだよねぇ」
『中央の上層部まで……やられたと……!? 一体誰に……』
「さあねぇ? でもまあ、そういうわけだからさぁ、ベロビーちゃん。私の心配はいいから、ヴェロニカちゃんの方をよろしくね~? ルクレチアちゃんに任せておけば、当分は安全だろうしね」




