水際作戦はお好きですか?
ナナオ島には、兵員をまとまって上陸させられる場所は、港周辺の一箇所しかない。他の場所では、島にたどり着く前に、岩に乗り上げて座礁してしまう。
聖王国軍が上陸するのは、この港だ。
「って、上陸地点を予想できるのはありがたいけどさ」
「数が違いすぎますわね。敵船で水面が見えませんわ」
上陸予想地点の砂浜と港周辺に、掘った塹壕から、俺たちは海の様子を眺める。
「だが、こんなこともあろうかと、港や砂浜には、大量のブビートラップと妨害用の柵を仕掛けてある。
塹壕に篭りつつ、敵を攻撃して、水際で阻止するしかあるまい」
「水際作戦。古今東西、ほとんど成功していませんわね。
それでも他に手がありませんものね」
ナナオ島の港が位置する湾に、聖王国海軍の船が侵入する。
「花鳥院家の意地を見せてあげます!
各砲座、攻撃を開始しなさい!」
戦艦から降ろした砲は、エリカの指示によって、砲撃を開始する。
聖王国側より性能は優れているので、見事命中し、何隻かは沈んだけれども、反撃はそれまでだった。
「第2撃を加えますよ!」
「いけません!エリカ様、お逃げください!
敵の砲門がこちらに向いています!」
花鳥院家の家臣が、方向転換してエリカたちへ砲門を向けつつある戦艦を指差す。
「あんな旧型砲が精密射撃をできるわけが」
ドドドドド……
あたり一面をはげ山にするつもりの、鉄量だ。
精密射撃はできていないが、大量に砲弾を撃ち込み、目標のブロック自体を殲滅するつもりの様だ。
エリカご自慢の砲兵陣地は、沈黙した。
「期待はしていなかったが、ここまで簡単に砲兵陣地が崩されるとはな」
「ちょっと、ご主人様。なんで人ごとなんですか?
ほら、現実逃避しないでくださいまし。
こっちに、戦艦の砲門が……」
ギギギ……とまるでホラー映画のゾンビが、人間へと顔だけ振り返るように、砲兵陣地を殲滅した戦艦はゆっくりとこちらへ、大砲が覗く窓を大量に備え付けた側面をさらす。
砲撃が始まった。
砂浜にも、港も、掘り返され、破壊される。
あっというまに塹壕の前には、トラップは全て掘り返されて安全なビーチが広がった。
「ああああああっっっっ!なんで!どおしてぇぇぇぇ!!!
せっかく何日もかけて、作った陣地が、一瞬で壊されるのおおおお!!」
「確かに、使用している兵器は旧型ですが、あれだけ揃えられると驚異ですわね。
それに、砲弾の不足も気にしていない様子。聖王国の生産力をわたくしも見誤っていましたわ」
「こっちは塹壕掘りのスコップすら不足してるのに、この差はなに?
くっそ、金持ちめ!清貧ぶって、金満の資本家がっ!」
港に、砂浜に、聖王国海軍の小型船が乗り上げる。
船からドタドタと重たい足音を立てながら、ビシャリビシャリと浅瀬に足を入れて、敵兵たちがわんさか上陸してくる。
三流軍も、上陸させまいと、残った火砲を敵兵へぶち込み、塹壕から頭を出して、マスケット銃で狙うが、大した数は、倒せない。連続射撃なんてできない代物だ。弓兵たちも奮闘しているが、大兵力の前には限界がある。
「転進!森へ、急げ!」
俺たちは、物資を持てるだけ持って、港を捨てて、森へ走った。
港に降り立った総指揮官ガレッダ・デリーニには上機嫌であった。
彼の上陸とともに、軍楽隊がラッパを鳴らし、通り道の両端では、兵士たちが、身じろぎもせず、敬礼している。
「田舎大名の三流家と落ち目の花鳥院家、負け犬どうしが組んでも我ら聖王国に勝てるわけがない。
ふふ、いい気味だな。
先日のカムラ侵攻戦では、異端者どもが指揮を執っていたために失敗したが、次は、陥ちるだろうよ」
「そうでありますな。デリーニ長官。
信者のなかでも最も信仰深いあなたのことだ。必ずや聖女スティア様のご加護があります。
聖女に逆らう三流家と花鳥院家の命運も長くはありますまい」
庶民あがりの副官が、うんうんと感心した様に頷く。
革命の最初から参加していた軍人ということで、高いポストについているが、軍人の能力としては、ありふれた程度とデリーニは判断しており、高い信仰心を評価された人物だ。
「そうだな。聖女様のご加護があってこその我々だ
(ふん、神なぞいるはずがない。あの男狂いが、神なら俺だって神だ)」
いや、それにしても聖王国の連中は使いやすい。
信仰しているモーションさえ取れば、後は、死を恐れず狂信的な兵隊のゴリ押しでいける。
既存兵器の量産化を得意とするデリーニのスキルと、兵の値段が安い聖王国は相性がいい。
今回の作戦だって、狂信者どもが撃沈覚悟で、艦隊が湾に突撃したから成功したのだ。
「不信心者どもは山中に逃げ込んだ様ですが、港を占領した以上、これ以上の深追いは不要では?」
「いや、ここで手を緩めてはいけない。
捕虜の話では、三流安具、花鳥院エリカ、七尾マリイと、敵上層部が森林に逃げ込んだと言っている。
一気に、敵上層部を壊滅させる良い機会だ。
ただ、七尾マリイだけは、生かしてとらえるように」
「七尾は生け捕りとは、どうしてでしょうか?」
「七尾の持つ、研究データは聖王国の発展に役立つはずだ。必ず生きた状態で、私の前に引き出せ!捕えた者には、聖女と謁見の機会を与える」
「はっ!全軍に伝達いたします!」
マリイの持つ、研究データが手に入れば、さらに自分の地位は盤石になるはずだ。
今後も、デリーニが権力闘争に勝ち続けるためには、政治力だけでは限界がある。何か、実績が欲しい。
マリイの研究データさえ手に入れば、デリーニは永久的に、功績には困らない。
適度なタイミングで、新開発することで、発言力のコントロールすら可能となる。
政治屋としての才能と、技術屋としての才能の双方を兼ね備えた自分に、デリーニは、一瞬、恍惚とした表情を浮かべるが、すぐさま、冷徹な鉄仮面に戻り、指示を下していった。
「とのおおおおお!!!!!」
本陣に泥だらけになった武者が駆け込んでくる。
「三の砦、陥落しました!守将のフンセン・ムナシク殿は、討ち死に!」
その報告を聞いて、タマ子は地図に描かれた三の砦にばつ印をつける。
「タマ子の予想通りだな。聖王国軍はだんだんと山を包囲する様に侵攻している」
「幸い、水源も物資もあります。しかし、ご主人様、島唯一の出入り口である港を抑えられている現状、ジリ貧になりますわよ」
「じゃあ、港まで、お散歩する?船を奪って、脱出すればいいじゃん!」
まとまらない軍議の場に、ぬっと、幽霊の様に、疲れ切ったマリイがやってきた。
「新開発……完成した」
目の下にクマをつくって、薄汚れた白衣を着たマリイは、新兵器の重さに負けてフラフラしながら歩き、諸将集まっているの中央で、鉄砲を置いた。
現在、採用している銃の改良版のようだ。
「お姉様、今さら、銃なんて開発しても……」
「げえっ!これは後装式ライフル銃!」
マップ兵器でも作ってくれるのかと、期待していた安具は、銃を見た瞬間はがっかりしたが、その正体に気がつくと、思わず尻餅をついた。
「……この銃のすごさに気がつくとは、さすが安具様。見る目ある」
「何挺あるんだ?」
「今、工場で急ピッチ生産してる。50挺は用意できる」
「この銃、そんなにすごいのですの?」
「精密射撃はできるし、射撃の姿勢も低くとれる。連射速度もマスケット銃とは比べ物にならないぞ」
流石は、研究バカ。
自分が代わりに雑務を引き受けた甲斐があったと、安具は思う。
「研究所の首尾はどうだ?」
「マリイを甘く見ないで。もちろん、完璧」
楽しいパーティーの始まりだ。




