決戦
聖王国軍がナナオ島に上陸して、すでに2週間が経っていた。
三流・花鳥院・七尾軍は、港の防衛をあきらめ、島の中央にある標高500メートル程の小さな山に篭っている。
金属音と、馬のいななきと、人の叫び声が聞こえる。
「なんだ、喧嘩か?」
「デリーニ様!三流家の騎馬隊が襲撃!包囲網を突破し、軍艦を占領されました!」
「なんだと?防衛部隊は何をしていた」
デリーニが司令部を置いている建物から出ると、すでに大型艦数隻の艦隊が港を出ようとしている。
甲板を見れば、兵員で一杯になっており、三流家、花鳥院家、七尾家の旗がなびいている。
「副官を主将として、追討艦隊を派遣しろ!大型戦艦に大量の人員を乗せているんだ。追いつけるはずだ!」
「了解致しました。至急、艦隊を出港させます。デリーニ長官は、どうなされるのですか?」
「私は、山に陣取る残留部隊を殲滅する!」
「しかし、安具たち上層部がいるのは先ほど逃げた部隊では?
長官みずからが出陣された方が、兵の士気も上がるかと」
「七尾マリイを生け捕りにしておけ!後は、どうでもいい!」
副官は言いたいことがあったが、ぐっと堪えて命令にしたがう。
「ふふ、聖王国は俺のものになる……」
山頂の研究施設らしき建物が無事なのを確認すると、デリーニは小さな声で呟いた。
「ぬう……想定していたが、もぬけの殻だな」
デリーニは、敵一人いない砦のなかを、護衛部隊とともに巡視する。
「施設を破壊する時間もなかったものと思われます。
物資も燃やされず、そのままです」
護衛部隊の隊長であるルイスが答える。
腕利きの剣士で、政敵の暗殺等の汚い仕事も、きっちりこなしてくれる有能な人物だ。
狂信者である点を除いては、完璧な護衛だ。
デリーニたちは、砦の奥へと進むと、コンクリート製の建物の前で立ち止まる。この建物だけが、にわか作りではなく、非常に堅牢に建てられている。
「ほう、コンクリート造りの研究所か。敵の攻撃から研究を守るためだったのだろうが、裏目に出たな。逃げる際に、破壊できなかったわけか。おかげで、助かった」
デリーニたちに慢心はない。
護衛に命じて、扉を破壊させ、敵がいないことを確認すると、研究所へと入った。
長い廊下には、書類が詰まった木箱が乱雑に放置されている。
デリーニは、木箱の1つを叩き割り、中に入っていた書類を手に取る。
「新型野砲についての研究……ぬっ、既存兵器に多少の手を加えるだけで、ここまで変わるとは。
この研究ひとつで、大砲開発の大家になれるな」
デリーニは、隣の木箱を開けてみる。こちらにも無造作に書類が詰め込まれている。
「こちらは、弾丸の形がもたらす空気抵抗についての研究。常人なら一生かけてやっとたどり着く成果だ……
悔しいな。マリイ、技術者としての貴様は、私よりも天才だ。
けれど、その才の使い道を知らぬ。
この研究は、私の糧とさせてもらうぞ!
ふははははは……」
その時だ。出口付近に積み上げられていた木箱の山が突然崩れ、出口が塞がれる。
「デリーニ様、敵かもしれません!出口を塞ぐ、木箱を破壊しますので、至急脱出してください」
「ならん!この書類1枚とっても、聖王国の発展に必ず必要なものだ!傷ひとつ、つけることまかりならん!」
金銀財宝よりも、価値のある情報がここには眠っているのだ。破壊してなるものか。
ドウンと発砲音が廊下に響くと、護衛の一人が倒れた。
「研究成果につられて逃げるのが遅れたようだな。
聖王国一のキレ者と呼ばれるデリーニ長官らしくもない」
「……あと、その研究成果、持って帰っていいよ。全部、駄作だから」
廊下の向こうからライフル銃を装備した集団があらわれる。
「貴様ら、三流安具と七尾マリイだな!
それにマリイなんだ、強がりはやめろ。この木箱に入っている研究は、全て失敗作とでも言うのか?」
「うん。そうだけど。捨てるつもりで、積んでた」
「貴様、昔から、そうやって私をバカにして!」
「バカにする?してないけど」
「その態度が、バカにしてると言うんだ!
気が変わった!ルイス、あいつらを殺せ!」
「了解致しました、長官」
ルイスたち護衛は、デリーニを守りつつ、安具たちへと近く。
安具たちとルイスたちは、銃撃戦に突入する。
木箱を盾にして、撃ち合う。
「連射速度が違いすぎる!」
狭い廊下では、兵力の優位が生かせない。
互いに集団の先頭にいる数人が撃ち合っているが、ルイスたちは劣勢だ。
それにルイスたちの装備しているマスケット銃では、装填の際に、少し姿勢を高くしないといけない。そこを狙い打たれて、すでに数名が負傷している。
「こちらの方が、人数が多いのだぞ。なぜ、押されているのだ」
「デリーニ様、大変申し上げにくいのですが、兵器の差ですな」
「ルイスっ!私の仕事が怠慢だとでもいいたいのか!
ならば、突撃しろ!白兵戦でカタをつけられなければ、貴様の怠慢だぞ!」
「……御意」
ルイスは一列になって、一斉に突貫する。
一人、また一人と、倒れていくが、狂信的な信仰心に支えられた彼らは、ひるまず前進する。
「……想定外。損害を恐れずに突撃してくるのは予想していなかった」
「同じく。あいつら、笑いながら突っ込んできてるぜ。ほら、今、当たったけど、笑ってる。痛みを感じていないのか?」
「多分、興奮して脳内物質がドバドバ出てる……」
安具とマリイは、話しながらも装填しては撃ち、装填しては撃ちを繰り返すが、勢いを止めることはできない。
「うげえええ!白兵戦なんて、できるわけないだろう!」
「同じく。
これ死んだかも」
一人だけ生き残ったルイスが、安具たちへ向いて一直線に、やってくる。
安具はステータスをチェックしてみる。
『ルイス・モール
政治 32(E) 軍事 87(C) 知力 40(D)』
強い。安具では、防御すらままならない。
が、戦うしかない。
安具もしぶしぶと扱い慣れていない刀を抜いて抵抗の構えだ。
「神敵、三流安具、七尾マリイ、覚悟ぉぉ!!!!」
「少々準備に時間がかかり、遅くなり申し訳ありませんわ、ご主人様。前回の失態は繰り返しませんわよ」
タマ子がその尻尾で、剣を受け止める。
普段はふわふわだが、戦闘モードのため、剣をはじき返した。
「ちっ、妖狐だと!
妖狐のような、民草のことも考えず己の快楽をむさぼる化物もいるとはな。ますます、生かしては置けぬ」
ルイスは剣を構え直し、体を捻ると、まるでロケットのようにタマ子の首めがけて、突きを放つ。
「人間にしては、訓練している方ですが、所詮はただの突き。これなら鉄砲の弾の方が、よほど恐ろしいですわ」
ルイスの放った渾身の突きは、タマ子の首筋まで届かなかった。
タマ子が尻尾を一振りすると、ルイスは頭から真っ二つにされ、肉塊が地面ぶちまけられた。
「次は、デリーニさんの番ですわね。あら?逃げ足は早い様で……」
タマ子が先ほどまでデリーニがいた場所を見ると、いない。
木箱を爆破して脱出口をつくり、逃げた。
「護衛を時間稼ぎにして、脱出か。書類にこだわらず逃げた判断力もいい。クソ野郎という点を除けば、なかなかやるじゃないか」
命からがら、研究所から脱出したデリーニは、急いで兵を集結させる。
「マリイを生け捕りになどしようとしたから、死にかけたのだ。
研究データさえ無事であればよい。
私としたことが、目の前の利益に目をくらまされて、わざわざ危険地帯に踏み込むなど、バカなことをしてしまった」
砦を解体した資材を使って、研究所のまわりをぐるりと囲むバリケードをつくる。
これで、マリイたちは逃げ出すことはできない。
「各砲、撃てぇぇ!!!!
壁を破壊後は、歩兵部隊が突撃し、書類の確保に務めろ!」
二階から階下をのぞくと、大砲によって壁にぶち開けられた穴から、聖王国兵が侵入している。
研究所の一階は、大騒ぎだ。
「総大将のデリーニは、バリケードの向こうにいるな。自分は安全圏からご苦労様というわけか」
外の様子を伺うと、将兵に命令を下している男がいた。
ステータスをチェックしてみる。
『ガレッタ・デリーニ
政治 92(A) 軍事 68(C) 知力 72(B)』
強キャラだ。
けれどもただ強いだけだ。
「マリイたちの銃撃を見ても、既存のマスケット銃の延長としか、感想を持たなかったのが、敗北の原因。
申し訳ないけど、技術者としては、デリーニはその程度のセンス」
安具たちは、デリーニを標的に、ライフル銃を構える。
「超強力な寄生虫さんよ、ばいばいだ」
安具は引き金を引いた。
デリーニの眼下には、大量の木箱が積まれている。
兵士たちが運び出した木箱には、研究データがつめこまれている。
「ふはははは……
私の量産化スキルを使って、この研究データを利用すれば、私の発言力は、永遠に強大なまま。
私に逆らえる者は、誰もいなくなる。
なんてったって、聖王国を維持するためには、これから私が開発する兵器たちが必要なのだからなあ!」
得意の絶頂にあるデリーニに、突如、激痛が走る。
「なんだあ!肩が撃たれて……はっ!」
デリーニは、走って物陰に隠れようとするが、遅かった。
研究所の二階から、射程の長い、ライフルで狙撃される。
必死に逃げるも虚しく、蜂の巣にされ、地面に這いつくばる。
「私の聖王国を……」
デリーニが倒れたのを見て、兵士たちにも動揺が走る。
「ふふっ、今、声を荒げているのが、指揮官さんたちのようね。自分達から、撃ってくださいと宣言していらっしゃるのだから、撃たないのは失礼ですわ」
狙撃され、指揮官たちが倒れていく。
「隊長殿、しっかりしてください。
仕方がない、ここは私が指揮を……ぐっ、無念」
「敵だ!敵から離れろ!狙い撃たれるぞ!」
「離れるな!敵は少数、このまま攻撃を続行するんだ!」
聖王国軍はパニック状態だ。
正反対の命令が飛び交い、右往左往している。
ナナオ島、沖合。
「ええい!こちらの方が、船は軽いのだ。なぜ追いつけないのだ!」
追討艦隊は、船を奪って、島を脱出した三流家の艦隊を追いかけるが、まったく追いつけない。
みるみるうちに距離が離され、水平線の向こうへと消えていく。
エリカは、甲板から海を眺める。
はるか後方に見える敵艦隊に、もう追いつけなだろうと、安心した。
「ナナオ島は、そろそろ正念場ね……」
「さあ、行くよ!みんな、殺っちゃって!!!」
島を脱出したフリをして、森に潜んでいたサノ姫の騎馬隊が、敵に襲いかかる。
もともと混乱していたこともあって、あっという間に敵は、壊滅する。
「降伏するっ!助けてくれ!」
一人の兵隊が逃げ出す。
「貴様、信仰を忘れたのかっ!!!」
隊長と思わしき人物が、彼を引き止める。
隊長の胸には、自費で作成した聖王国のペンダントがぶらさがっている。
「俺は食えると聞いたから、聖王国についただけだ!聖女に殉じる気などないっ!」
「死ねっ!この不信心者が!」
隊長が、ナイフを投げると、彼の腕に刺さる。
「やりやがった!聖女にイカれた野郎め!
てめえに付き合って、くたばりたくは、ねえんだよ!」
兵隊は、剣を抜いて、隊長の首をはねた。
無茶苦茶だ。
聖王国は味方で殺し合いをしている。そんな状況で、サノ姫の騎馬突撃を防げるわけがない。
戦いは終わった。
聖都メキア。
謁見の間に、戦場帰りの伝令兵がやってくる。
「聖女様、ガレッタ・デリーニ長官は戦死されました。
遠征軍の多くが壊滅し、多くの艦船を失いました」
「……そうですか。
帰還した将兵のみなさまには、十分に休息をとってもらうようにお伝えください」
「なんとお優しきお言葉……」
責任を追及されるものだと思っていた伝令兵は、聖女の慈悲あふれる対応に涙をながさんばかりだ。
(ふん……邪魔なやつは消えた。
増長しすぎだバカめ。まあいい、敵が始末してくれたんだからな。
幸い、ヤツの作った生産設備は生きている。
当分のあいだは支障はあるまい)
聖女の美しい微笑みの裏には、エゴが潜んでいることなど、デリーニのような同類しか知らない。
帝歴560年の12月を迎えた。
12月は、3ターン目である。三流家もなんとか、生き延びて新年を迎えようとしている。
デリーニ死後の聖王国は、内輪の権力争いで、三流家にまで関心が向いていない。
安具たちは、戦火で荒れ果てた土地の復興に取り組んでいる。
内政ターンというわけだ。
なんとかここまで生き延びることができた。
あいかわらずの弱小勢力だ。
これからもギリギリの戦いを続けていくのだろう。
きっと、また一波乱あるはずだ。
「ご主人様、どうしましたの?黄昏てしまって」
「ああ、ちょっとこれからのことをな」
「結婚式をいつ挙げるかということでしょうか?」
「はは、それもいいな」
きっとこいつら変人たちと一緒なら、滅亡の危機を避けるなんてちっぽけなことじゃなく、天下取りだってできるはずだ。




