2ターン目に滅亡する花鳥院家
8月上旬、カムラに向けて、聖王国の大軍が出発したとの情報が入った。
8月といえば、ちょうど2ターン目である。ゲームでは、聖王国の圧力に耐えられなくなった、花鳥院家が滅亡するターンである。
カムラが陥落すれば、ラカーク半島を統一した聖王国は次はアソノ国を狙ってくる。
三条家のためにも、カムラは死守しないといけない。
先日、花鳥院家が退却したヨーク穀倉地帯を接収した聖王国軍は、そのままカムラへ向かって、進む。
総勢20万人だ。大国は、スケールが違う。
花鳥院家が掌握していたカムラ近辺の村落は、救世主がやってきたと次々と、聖王国への帰順を表明。花鳥院家が派遣していた代官は、追放されるか、殺されるかした。
周辺地域を一気に喪失したカムラは、いよいよ陸の孤島と化した。
けれど、制海権は掌握しているため、ナナオ島とトナミマチから、食料等の補給は順調に進んでいる。
俺も、サノ姫の騎馬隊1,000と歩兵部隊2,000を呼び寄せた。
トナミマチは土居さんに任せている。
土居さんは、凡庸な武将だけど、信頼して任せることができるのは、裏切りばかりの乱世において、とんでもなく貴重だ。
輸送任務も、平凡だけれど堅実にこなしてくれるだろう。
俺は土塁を積み上げた胸壁陣地から上半身を突き出して、敵の様子を見る。
望遠鏡の覗き口越しに見えるのは、大地いっぱいに広がった敵の歩兵。左右、奥行きともに果てしない。
20万人が進んできているせいで、土埃が立ち上り、後方は見えない。
数は力だ。
その圧倒的な姿を見ただけで、兵のなかには怯んでしまっている者もいる。
現在、俺たちは、複数陣地でこの大軍に対抗する予定だ。
カムラに続く回廊に、4層にわたる複数の陣地を構築している。
塹壕を掘ったり、土塁を並べたり、古城壁を活用したりと、足りない資材を引っ張り回して、涙ぐましい工事の末に完成した。
「敵が来るぞ!引き付けろ!まだ撃つんじゃないぞ」
俺たちは、第一陣地の一区画を防衛している。他の箇所は、エリカが指揮を執っている。
なんで総大将が、前線かって?ウチみたいな小勢力には、指揮官がいないからだ。使えるものは総動員で、陣地入りしているのだ。
「よし、撃て!」
俺の合図とともに、兵たちが胸壁から顔を出し、射撃を始める。
花鳥院家の兵器工廠があるナナオ島から輸送した最新式のマスケット銃だ。
カムラに派遣している三流軍には、全員装備させている。
ダダアンと、銃声が響く。バタリバタリと敵兵数人が倒れた。
けれど、相手は怯まない。仲間が倒れても構わずに、前進してくる。狂信的な動きだ。興奮が痛みと恐怖を、忘れさせている。
「散弾砲を出せ!」
こんなこともあろうかと、散弾タイプの青銅砲を用意しておいたのだ。
砲兵が大砲を動かした時だった。
大砲を乗せているのは、古城壁だ。古いレンガ造りの壁である。ピシリピシリとヒビが入り、崩れた。大砲も埋まってしまう。
「やばい!!!!!」
思わず、少し声が出てしまった。けれど、将が動揺していては、まとまる兵もまとまらない。
敵兵をミンチにしてくれると思っていた大砲が、使用不可能になったことで、兵たちの士気が落ちていくのが分かる。
ここはハッタリでも、いい。なんか威勢のいいことを。
「むう。まあ、想定の範囲内だ。みんな、連中はおもちゃの鉄砲を頼りに突っ込んできている素人だっ!落ち着いて、射撃すれば必ず勝てる!」
俺は、銃の込められた鉄砲を兵から受け取る。
大量の敵がこちらに向かっているんだ。適当に撃てば当たる。
引き金をひくと、敵の1人がバタリと倒れた。
「お屋形様に続け!敵を殺せ!」
士気の高い兵が、俺が命中させたのを見て、負けずと撃つ。当たる。的がいくらでもあるので、いくらでも当たる。おもしろい。
「一方的に撃てるぞ!ははは、敵の弾は届かない!科学の勝利だっ。信じるしか脳のない敵に、合理的精神を叩き込んでやれ!」
近習とともに、一斉射撃。また、敵がバタバタと倒れる。
一方的に撃たれる恐怖に耐えられなくなったのか、敵も打ち返してくるが、旧式の青銅製の銃だ。こちらまでとどかない。
運良くとどいても、土塁を抜くことはできない。
「お屋形様、散弾砲の準備ができました」
先ほど、崩れた壁に埋もれてしまった散弾砲が瓦礫から引っ張り出され、ごろごろと前線へ運び込まれる。
直接射撃しかできない、単純な砲だ。射程距離も短く、重たいので、平時は兵隊から嫌われている。
だが、敵が目前に迫っている今は、火力は神様だ。
神は、聖王国ではなく、こちらに味方してくれる。
じゃあな、神に見放されし、狂信者ども。
「撃てえええええ!!!!!」
鈍い轟音とともに、散弾砲が放たれる。
陣地に迫りつつあった敵は、一斉にミンチになる。
「殺せ!殺せ!殺せ!狂信者どもの神は死んだ!戦場の神はこっちに味方しているぞ」
一気に士気が上がった兵たちは、土塁から顔を出して、撃つ。
が、聖王国兵は、ゾンビのように、損害を気にすることなく前進してきている。
ただひたすら、前進。前進。
あるタコツボに聖王国兵が入ってきた。
逃げ遅れた兵士は、弾を込めていた銃で1人を吹き飛ばすが、隣から別の兵士が侵入してくる。重たい銃で頭を叩きつけてやった。
けれど反撃はそこまでだった。
「うわああ、来るなあああああ。ぐっ」
全方位から、一気に襲いかかられ、タコツボから逃げ遅れた兵士は、死んだ。
最前線に配置したタコツボ網が崩れ始める。
おまけに、そろそろ敵の装備する旧式青銅銃の射程範囲に入ったのか、精度は悪いが、猛烈な射撃が加えられる。
土塁から顔を出していた、数名の兵がやられた。
「姿勢を低くしろ!最低限しか顔を出すな」
土塁の向こう側で、ヒュンヒュンポスポスと、土塁に鉛玉が吸い込まれていくのが分かる。この壁が、なければ既に何回も死んでいる。
突如、敵の動きが弱まる。
「よし、敵部隊が伸びきった絶妙なタイミング。さすがはタマ子」
聖王国の側面から、隠れていた三流軍による猛烈な射撃が加えられる。
おまけに、鹵獲されるのを覚悟で、青銅砲も加えているため、効果は抜群。
いくら士気が高い聖王国兵でも、無警戒の側面からの攻撃には耐えられない。
逃げ出す者。その場に立ち止まって、戦う者。
どちららを選んでも、運の良いヤツには弾は当たらず、運の悪いヤツは銃弾にはらわたをえぐられて死んだ。
「ヤストモ様、見ててね〜!!!いっぱい、殺すからねえええ!!!!!」
大地を揺るがす、騎馬の足音。
同じく側面に配置していたサノ姫率いる騎馬隊が、敵に突っ込む。
面白いほどに、敵は逃げ惑って、殺されている。
勝利だ。
とりあえず、初戦は乗り切った。




