12.籠城戦
「まったく、昼夜問わず、攻めてくるなんて。いけませんわね。こう睡眠時間が不規則だと、お肌の調子が……」
夜遅くまで、防衛戦を指揮したタマ子であるが、まだ日も明けたばかりだというのに、敵が城壁に押しかけて来た。あわてふためいた当直兵がやって来て、布団から出ないといけなくなる。
「せっかく蒔いた種は、全部、捨てられちゃいましたし……綾野常識、落ち込んでいても、ひとかどの武将というわけですね」
気力が回復した常識は、直接城攻めを指揮すると宣言するやいなや、タマ子に籠絡されていた指揮官を片っ端から見抜いて、処分していた。
昨日までと同じ軍隊だとは、考えない方がよい。
ここまで、10日かけても落とせなかった矢倉が、昨日だけで2つ落ち、最外の城壁も占領された。
兵の死傷率も上がってきている。本丸のそばに設けた療養所の空きスペースが減ってきたのだ。そのうち満員になる。
タマ子が籠絡で攻撃の手が緩んでいる間、土壁の補強や空堀を造っておいたおかげで、まだ抵抗はできている。
が、5,000の敵に囲まれて、こちらは500もいないのだ。
要害にこもる防衛部隊が耐えられるのは、3倍までの戦力差だ。けれど、今の戦力差は10倍、とっくに許容値を超えている。
ああ、今、また一つ矢倉が燃えている。
防御の中核である矢倉が燃えたことで、弓の防御網に死角が生まれた。
敵は、その隙を見逃さず、死角となっている場所に押し寄せ、梯子をかけたり、壁のくぼみに手をかけて登ったりと、一気に攻め寄せてくる。
こうしてまた、一区画が陥ちた。
タマ子得意の搦め手は、すでに目の前で戦いが始まっている以上、効果的ではない。
「相手の弱みを探ろうにも、時間が足りませんわね……」
国人領主たちに内応をかけてはいるが、綾野優位の状況下では、わざわざ三流側につく者はいない。
「まあ、わたくしだけなら、逃げることは容易いこと。ただ、今、わたくしが砦を捨ててしまえば、ご主人様が困ってしまいますわ。お互いに硬い紐帯で結ばれた夫婦。仕方ありませんわね。あまり、この姿は好きではないのですが……」
タマ子は、城壁の上に登ると、ぱらりと着物を脱いだ。
その美しい裸体が露わになる。豊満な胸部装甲、プニプニ感を太ももに残しつつもスラリとした脚。
下方で、城壁を登っていた敵兵は、見惚れている。妖狐の色香に耐えられる者など、そうそういない。
「ふんっ……!!!!」
その美しい体に、筋肉がボコりと露わになり、太い血管が浮き出る。身体中から黄金の獣毛が生えそろい、顔にはキツネ特有の先端が丸い鼻が飛び出している。
1,000年生きた妖狐のなせる技だ。
背後には、紫色のオーラがゆらゆらと揺れている。
妖狐の獣毛が空中に、ふわりふわりと浮かんだかと思うと、紫色のオーラを吸収し、毛先は邪悪にとがった。
「百式黄金針っ!」
無数の針が、城壁を登っていた兵たちを襲った。
兵たちは為す術もない。身体中、穴だらけ、血まみれになって、壁から落ちる。防具を着用していた者も、貫通している。
「この化け狐めがっ、綾野家一の武芸者として名高い、この無双三郎左衛門が退治してくれるわっ!」
なかなか骨のある男もいた。
黄金針をすべて刀で撃ち落とし、城壁の上まで登って来た人間が1人。
筋骨隆々の肉体を派手な蛍光色の鎧に身をつつみ、上物の刀を差しているのは、ハッタリではない。
タマ子は、思わず舌なめずりしてしまう。
「せっかく、この姿になったんですもの。全体攻撃だけで、終わっちゃたら、もったいないなと思ってたところですわ」
「ふん、ぬかせ。貴様の皮を剥いで、綾野様に献上する時が楽しみだ。俺は貴様よりもずっと大きな化け狐を倒したことがある。調子にのるなよ」
城壁には、逆さ吊りにされた一つの影が、風に揺られて、ぷらんぷらんと動いている。
「どっ、どうして……」
「小型化もできない若狐と一緒にしないで欲しいわ」
ロープが切れ、重力にそって、影は落下し、地面にぐしゃりとぶつかって動かなくなった。
「ふう、一仕事終わりですわね」
ボンッ
白い煙がタマ子を包む。
そこには、全裸のおっさんがいた。
「あーあ、今日はもう、女体化できねえや。仕方ねえなあ。おい、お前ら、敵はビビらせたから、今日中は大丈夫だ。俺は、帰って寝る。あとは、よろしく」




