30話 ここは何処?
最近は仕事が忙しく、執筆が出来ない日が続いています。この話から新章と鳴りますが、更新が遅れがちになりそうです。
時空の歪みに巻き込まれ、出口と思われる光に包まれた。
暗い所にいて急に包まれた明るい光に、僕達はしばらくの間、目を開ける事が出来なかった。
「ここは……何処でしょう?」
僕より少し早く目が慣れたマリアは周囲を見回してそう呟く。
「太陽の下って事は、あのダンジョンからは出れたようだけど……マリアに見覚えがない所となると、僕には想像もつかないな」
ようやく目が慣れ出した僕もゆっくりと周囲を見るが、分かった事と言えば軽く整備された道の上って事だけだ。
まあ僕はこの世界に来て半年も経っていないし、積極的に町や村の外に出ようともしていなかったから、全然地理には詳しくないんだけどね。
「おそらく町と町をつなぐ街道だとは思うけど、周りに人影も見えないね。せめて人がいれば聞く事が出来たんだけど」
あんな異常事態に巻き込まれた後だ。出来るだけ早く情報は欲しかったのだが、ここにいて得られる物は何もなさそうだ。
「それはそうですが……シンさんは何時までそうしているつもりですか?」
「……ここがどこか分からないし、危険があるかも知れないじゃないか。だからマリアを守るためにだよ」
僕は時空の歪みに巻き込まれる時、マリアを守ろうと抱きついた。歪みの中でも何があるか分からないのでそのままでいたし、マリアもとくに拒絶していないかったので意識はしていなかった。
でも、改めてマリアに言われて我に返ってみると、柔らかい温もりが僕の胸に当たっている事に気付いた。
それに良い匂いがする。ミーシャさんとはまた違った柔らかな匂い。基本町ではお風呂の時以外はマリアに変わる事はなかったので、お風呂上がりに抱きついているようなものだった。
だから一秒でも長くこうしていたいと下心が働いてしまっている。
「先程までなら感謝してお礼を言いましょう。ですが、見る限りここに危険はありそうではありませんので、もう離れてください」
「でも━━」
「だいたい、レベル1で魔法も使えないシンさんに守られるより、自分で何とかした方が安全です」
「あー……はい、そうですね」
確かに今の僕は魔法が使えない。ダンジョンコアとの戦いで10日分の魔力を全部使い果たしてしまったので、魔法によるチートがない僕は正真正銘ただの最弱キャラだ。
少々……いや、かなり名残惜しいけど、これ以上粘ってマリアの攻撃を受ける訳にはいかないので、諦めて離れる事にする。
《自動修復》が使えるだけの魔力があれば、一撃貰うぐらいには駄々をこねても良かったんだけどな。あんなモンスターに出会ってしまったから……まったく間が悪いことだ。
「わたしはそのままでも良かったんだけどなー」
ミーシャさんは呪いの影響が出ていますね。もちろん呪いに身を任せて行く所まで行くのも魅力的ではあるけど、本人の意思とは別の力で好きにするのは、僕の求める物ではない。もちろん、一心同体であるマリアがいるので、そんな事は不可能だし、彼女を不快にはしたくないのが本音だ。
……このチャンスを逃したら、僕みたいな平凡な男がミーシャさんみたいな美人とそんな関係になる事はないだろうけどね。
「まずは状況を整理しましょう」
僕達は今置かれている状況をまとめていく。正直、あまり良い状況だとは言い難かった。
まず、僕は当分魔法が使えないお荷物。ダンジョンコアを倒した事で手に入った吸魔の腕輪でゆっくりだが魔力は集まっているのだろうが、攻撃や防御、回復の魔法を使える程魔力が回復するには、まだまだ時間が掛かりそうだ。
まあ、魔力の消費が比較的少ない《ストレージ》の魔法は使えそうだから、数日分の食料には困らないだろう。
そしてミーシャさん。利き手の怪我に加えて、ダンジョンコアに吹き飛ばされたダメージがあるので、本来の実力の3割程度しか出せない。
さらに過去に受けたと思われる呪いのせいで、表に出て来ると僕に過度のスキンシップを迫ってくるので、マリアとしてもあまり好ましくないと思っているだろう。
もちろんミーシャさんは出たがっているのだが……
最後にマリアだが、戦いには参加していなかったので、体力、魔力共に全開に近いのだが、勇者に求婚を迫られている件で教会に追われている。あまり表立って人目に着くと、更に厄介な敵を引き寄せてしまう危険がある。
そして僕達は迷子の最中。少なくともマリアが知らない場所となると、2人が今まで通って来た道ではないので、すぐに追手などと出会う可能性は少ないと楽観視もできた。
「少々危険ですが、しばらくはわたしが前衛に出て戦います」
「ご迷惑をおかけします。でも、戦闘は極力避け、無事に町か村まで着きたいものだね。それで、進む方角はどっちにする?」
僕達はそもそも立っている位置すら分かっていない。
「ひとまずはこっちへ。南に向かいたいと思います。ここがどこかは分かりませんが、下手に北に向かって魔族の領地にでも着いたら、それだけで不味い状況になってしまいますからね」
今も昔も人間と魔族は敵対している。そしてこの大陸の南北で領土が分かれており、相手の領土ではほぼ助けが来ないと思っていて良い。
もちろん境界線に近いほど小競り合いが頻繁にあるので、危険を避けるなら近づかない方が良いのだ。
「なるほど。確かに出来るだけ魔族の領地から距離を離した方が安全だね。それじゃあ、早速移動を始めよう。もしかしたら途中で人に出会って詳しい情報を得られるかもしれないしね」
これ以上のトラブルは避けたいと思う気持ちは一緒なので、僕達はすぐに歩き始める。
太陽の傾きを見ながら歩いたが、どうやら南に向かって歩いているのは間違いなさそうだ。ただ時刻はすでに3時を回っている。
こんなチームの状況では夜営は厳しいので、出来れば他の移動している行商などと出会いたかった。だが、見通しの良い荒野の道を歩いていても、それらしい人達……いや、それどころか人影すら見つける事がなかった。
そうして日が暮れはじめた頃、僕達は1つの建物を見付けた。
見た目は石造りの2階建ての丸い建物。おそら屋上に槍を装備した男の人が立っている事から、見張り役だろう。
それらから考えて、この建物は砦の一種だと思われる。
どちらにしろ、ようやく出会えた人だ。僕達は助かったと思って建物に向かって歩き続けた。
「そこで止まれ! お前達、どこからやってきた!」
屋上の見張り役の人から連絡がいっていたのだろう。僕達が近づくと、数人の兵士風の人達が武器を向けて止まれと言って来た。
「ぼ、僕達は怪しいものではありません! シルフィーの町で登録した冒険者で、トラブルに遭遇してここに来てしまったんです」
明らかに敵意を込めた目で見られ、僕は慌てて両手を上げて抵抗の意思がない事をアピールした。
「シルフィー? 聞いた事がない町の名前だ。だが、冒険者と言うのなら、ギルドカードを持っているだろう。それを見せなさい」
「は、はい。これです」
僕はすぐにギルドカードを取り出して、武器を向けている兵士に見せる。
「……どうやら本物のように見えるが……今から確認しに行く。不審な動きを見せたら、即攻撃をするからそのつもりでいろ」
「は、はい」
ゆっくりと武器を向けたまま進んで来る1人の兵士。僕はギルドカードを持ったまま両手を上げたままで固まる。
そしてマリアと言えば、僕の後ろでわざとらしく怯えたフリをして隠れている。顔を見れれたくないからと言って、そのギャップのある行動は見ていて可愛く思えた。
「どうやら本当に冒険者のようだな。……それにしてもランクがFか。登録したてだろうが、そのランクでこの辺りに来るのは危険過ぎるぞ。もう少し鍛える事を勧める」
「ハハ、モンスターと戦うのが怖くって……」
「そんな事でその子を守れるのか? 可哀想に震えているじゃないか。見たところ妹かなんかなんだろ。お前を頼りにしているようだし、魔族と出会ってからでは遅いんだ。守りたい者がいるのなら、守れるだけの力を身に着けておけ。あとから後悔したくないのならな」
「そう……ですね」
兵士の最後の方の言葉は間違っていない。確かに過去の僕は後悔した。それを思い出すと気分が沈んでしまう。
それに今の僕は、その可哀想に思われている少女に守られている立場なんですよねー。かなり情けなく見えるかもしれないけど、レベルの差も含めて、僕は彼女に頭が上がらない状態なんですよ。
夫婦だったら尻に敷かれている状態?
そんな事を思いながらも、僕達に対する警戒は解かれ、ようやく普通に話が出来る状況になった。
聞いた話によると、ここは魔族との境界線上に近い場所で、僕達が進んで来た道を逆に進んでいたら魔族の領地に入ってしまうようだ。
なので、そんな道から歩いて来た僕達を警戒して武器を構えたらしい。
何故そんな道から歩いて来たのかと聞かれたが、良く分からない魔法で飛ばされてしまい、気がついたらここにいた。と説明したら簡単に納得してくれた。
どうやらこの辺りの魔族は、人を転移させる魔法を使える者もいるようだ。
「それで君達はこれからどうするんだい? シルフィーの町については俺の記憶にないから、道のりの説明はしてあげれないのだが」
「では、ここから一番近い町か村の場所を教えてください。僕達はこの辺りには来た事がないので、全然土地勘がないんですよ」
「そうか、それは災難だったな。なら、明日には消耗品の補給係が馬車で町からやってくるはずだから、それに乗せてもらって町に向かうがいい。ここはむさ苦しい所だが、食料と寝る場所ぐらいは用意してあげよう」
「ありがとうございます。とても助かります」
僕のギルドカードを確認しに来たのは、この砦のトップである兵士長だった。最初はいきなり武器を向けてきたので印象はかなり悪かったが、どうやらこの人は良い人のようだ。
僕達はその言葉に甘える事にして、この砦で一晩を過ごす事にした。




