29話 脱出?
この話で一区切りとなります。ブックマークや評価をしてくれた人達。ありがとうございました。
これを励みとして、これからも頑張って書いていきたいと思います。
「マリアの魔法でミーシャさんの呪いを解く事は出来ないの?」
僕は呪いについての知識が皆無なので、どうする事も出来ない。ダンジョンコアの話によると、この呪いが掛けられたのは数百年前。いろいろチートのような事の出来る僕の魔法でも、この状況は何の役にも立たない。
「無理です。昔ならまだしも、今の時代にはこんな変な呪いは聞いた事がありません。つまり、解く方法が存在しないかもしれないんです。……少なくともわたしは知りません」
「そう、なのか……なら、どうしようか? このままって訳にもいかないでしょ」
「そうですが、ここにいても手がないのは事実です。早く町に戻って解呪の方法がないか探すしかありません」
「それが今やれる最善の行動か…………ん? そう言えば、マリアはやけにこの状況を把握しているよね。まさか少し前から意識を取り戻していたの?」
と、普通に話の内容を切り替えたけど、僕の気持ちはマリアの意識の有無の事実より、別の事に大半を割り当てていた。
それは僕の頭に感じる感触。
ミーシャさんの膝枕も良かったがマリアの膝枕も寝心地がいいので、僕は何時まで経っても起き上がる事はせず、その後頭部に感じる感触を堪能していた。
だって膝枕なんて初めてやってもらっているんだよ。出来るだけ長く堪能したいと思うのが普通でしょ。
僕は少々やましい事を考えながらも、表情は真面目な顔をして話を続ける。
「ええ、このダンジョンコアの部屋に入る前に意識を取り戻しました」
「なら、すぐにでも声を掛けてくれれば良かったのに。結構、僕達はピンチに追い込まれていたと思うんだけど」
「ですからです。あそこで何の打開策もないわたしが声をかけていたら、きっとミーシャさんはわたしの事も気遣い、強敵を前にして戦いに集中出来なくなってしまいます。そして死を覚悟した時、申し訳ない気持ちに押し潰されてしまうかもしれないと思ったんです」
ああ、そう言う事か。確かにあの時のミーシャさんは絶望に染まっていたから、僕だけではなく、マリアも守れないと思い出したら、あれ以上に気持ちが沈んでいたかもしれないな。
そう言う事ならマリアの判断は正しいと言えるね。
「ひっどーーい。わたしはマリアの事を忘れてなんていないよ。黙っていたのだって気付いていたもん」
「そうだったんですか? やっぱり一心同体って、お互いの状態まで分かるもんなんだね」
「ごめんなさい。嘘です。わたし達はお互いに声を掛け合って確認する以外、確認をする方法はないんだよ。シン君……ごめんね、嘘ついて。お願いだから嫌いにならないで……」
「だ、大丈夫ですよ。そんな小さな事でミーシャさんを嫌いになんてなりませんから」
「良かった~。そんな心の広いシン君も好きだよ」
「ハハハ・・・」
僕は乾いた笑いで誤魔化す事しか出来なかった。
恋愛は惚れたもん負け、と聞いた事はあったが、ここまで僕に下手に出ている所を見ると、この呪いの極悪さが良く分かる。
きっと最低の人格者が相手でも、きっとすべてを受け入れてしまうだろう。……それこそ命を奪われる結果になろうとも。
僕はミーシャさんに惚れられた嬉しさよりも、この呪いに対しての嫌悪感が大きかった。
「それにしても、シン君にその腕輪は良く似合うよ。やっぱり神託は正しかったのかもしれないね」
いったい何の事を言っているのだろうと首を傾げたが、マリアの視線の先に目をやって気付く事が出来た。
僕が意識を失っていた時に装備させてくれたのだろう。左腕にはダンジョンコアが最初に見せていた、吸魔の腕輪が装備されていた。
ただ、まだ魔力が集まっていないのか、僕の魔力が増える感覚はなかった。
「……ところで、シンさん」
「どうしたんだい?」
「あれは……いったい何なんでしょう?」
マリアは顔はダンジョンコアと戦った場所に向いている。その表情は、得体の知れない物を見るようで、目が一点に集中して驚愕しているようだ。
僕もその視線の先に目をやると、そこには光を通さないような黒い靄のような物が集まって、徐々に丸い球体になろうとしている。僕はそれの正体を調べようと集中すると━━
時空の歪み ・・・ 加速した時空と遅滞した時空がぶつかり合った結果、世界の修正力を上回った力が歪みとなって集まった物。これが限界に達して破裂してしまうと、別の時空に飛ばされるか永遠に時空の狭間を漂う事になる。もうすぐ爆発するので、見かけたらすぐに逃げ出そう。
「まっずーーーい!!! マリアの膝枕の感触を堪能している場合じゃなかった!」
僕はその正体を知り、慌てて立ち上がってマリアも立たせる。
「マリア! あれはかなり危険な物だった! あれに巻き込まれると最悪死ぬ可能性があるから、急いでここから離れるよ!」
僕の突然の行動に理解が着いて行けず、キョトンとしているマリアの手を引く。その慌てようを見て、マリアも危険な物と理解したようで、すぐに駆け出してくれる。
━━が、走り出したとすぐに、そのタイムリミットは来てしまった。
黒い球体はハッキリとした小さな玉となって、甲高い音と共にヒビが入る。
「ごめん、マリア、ミーシャさん。もう爆発する!」
そしてついにそれは弾けた。
僕はせめてマリアだけでも守ろうと、抱きかかえて時空の歪みの爆発から身を挺して盾にする。しかしその爆発による衝撃はなく、一瞬で視界に映るすべてが闇に覆われてしまった。
「ここは何処何でしょうか……始めて訪れましたが、何もない場所ですよね」
「マリア……結構落ち着いているね」
「まあ、今日は2度ほど死を覚悟しましたから。痛みがない分、まだマシだと思いまして……。それに、こんな経験はそうそう出来るものでもありませんからね」
まーそうなんだろうけど……もう少し怖がってくれても良いんじゃないかな? 慌てていた僕が小心者か馬鹿みたいに見えちゃうじゃないか。
「それにこの現象はシンさんの魔法が原因のようですし、シンさんがどうにか出来るのでは?」
「ちょっとそれは無茶な相談ではないでしょうか。僕自身、この状況自体が想定外もいいところなんだよ。それに今の僕は魔法を使えないんだ。魔力がスッカラカンになっちゃったからね」
「それは仕方がないでしょうね。あれだけの戦いを魔法の力だけで成し遂げたのですから。まあ此処はモンスターがいなさそうですし、シンさんの魔力が回復するのをゆっくり待ちますよ」
「……………」
僕はそんなマリアの言葉に顔が引きつったまま、何も返事が出来なかった。
「 ? どうしました? 何か気不味そうな顔をしていますが」
「……実はね……僕の魔力は当分回復しないんだよ」
「当分……ですか? それはどれくらいでしょう。丸一日ぐらい掛かってしまうのでしょうか?」
普通は丸一日も経てば魔力は回復しているよね。
「……約10日間」
僕は状況が状況なので少し申し訳なく感じ、小声で告白する。
「はい? 良く聞こえませんよ?」
「……大体10日ぐらい」
「はい? ……いったいどうしてそんな長期間掛かってしまうんですか?」
マリアは予想以上の長い期間に驚いている。
「僕の魔法に大量の魔力が必要なのは前に説明したよね。あの時に使った魔法は、どれも前に見せた事がある魔法以上に魔力を使い続けるんだよ。その大量の魔力を集める為に、僕は約10日分の魔力の自然回復分を5分に集約したんだ。だから、これから10日間は魔力が回復しない」
「それが《際限なく溢れ出る魔力》……あの異常な状況を作った魔法の連続使用には、そんなリスクがあったんですね」
一時だけ無限の魔力を手に入れる事の出来る魔法。もともとは効率良く魔力量を上げる為に編み出した魔法だ。
魔力は激しく使えば使うほど、その総量が増えていく。激しい運動をして体力を上げるのに近いイメージだ。
なので、魔力量が少ない時は寝ている間や働いている時の自然回復分が勿体ないと感じ、魔力を使えない時間の自然回復分を前借りする事を思い付いたのがキッカケだった。
おかげでレベル1だけど、魔力量だけは自信がある。
「そう言う事で、この状況を僕の魔法でどうにか出来るとは期待しないほしい。さっき手に入れた魔導具は、周囲の魔力を集めて自分の魔力として使えるようになるらしいけど、ここは魔力が少ないのか、元々そんなに早く集める事が出来ないのかは分からないが、全然貯まった実感はないしね」
「なら、今は打つ手がない状態ですか」
ここが時空の狭間だとは分かるが、それが分かったからといってどうにかなる状況でもない。僕は内心動揺しまくっていたが、マリアはいつもと一緒のように見える。
それを見ていると僕も少し落ち着く事が出来て、パニックにならないで済んだ。
「わたしはシン君と一緒なら、どんなところに行っても嬉しいよ」
「あー、ミーシャさんは呪いが発動していなくても、きっと同じような事を言うような気がしますね」
「そう? フフ、シン君に褒められちゃった」
……ミーシャさん、僕は全然褒めていませんよ。
でも……やっぱりこの呪いを解く方法を探さないといけないな。掛けた本人に解いてもらうのが一番だろうけど、数百年前だと記録が残っている可能性も低いか。
でも、こんな人の意思を奪うような呪いを放置しておけない。……まあ、少し惜しいと考えてしまっている僕がいるのは内緒だ。
「シンさんもそんなに悲観的に捉える必要はないのでは? ほら、何やら光が見えてきました。きっと出口ですよ」
「ほんと!?」
マリアの指差した方向。その先には確かに光が見えた。それが出口かは分からないが、僕達は明らかにそこに向かって飛ばされているようだ。
上も下も分からない状況ではされるがままなんだよね。これが無重力体験なのかも。
僕もこの状況はどうしようもないと諦め、流れに身を任せるようにした。
しばらくすると、僕達はその光の中に包まれる。その先が何処で何が待ち構えているかは、この時の僕達は想像もつかなかった。




