27話 加速する戦い
「お前を倒して、この神の画いた理不尽なシナリオを書き直す!」
「は!? ククク、ハハハハハハハ」
僕の言葉は虚勢としかとれなかったのだろう。ダンジョンコアは驚いたような顔をした後に、腹を抱えて大笑いをしだした。
だがこんなのは想定内。そんな笑い声は気にならない。
好きなだけ笑うがいいさ。もうお前との会話は終わったのだから。
「僕の本気で全力の魔法を見せてやる。マキシマムモード! 《際限なく湧き出す魔力》!」
僕は全力で戦うための基盤ともいえる魔法を使う。それと同時に僕の後方に時計のような魔法陣が浮かび、その表示されている時計の針は徐々に戻っていき、0時に向かっていく。
最初に表示されている時間は0時5分。これは僕が最初に設定した時間で、針が0時を差した時、魔法は解ける。
「な!? な、なんだ……突然魔力が膨れ上がった!?」
他人の魔力量を見えるダンジョンコアは驚いただろう。僕の魔力がいきなり膨れ上がったのだから。まあ、膨れ上がったと言っても、元々の最大値より少し多い程度なのだが。
この世界での魔力は、ある程度時間と共に自然回復していく。何もしなかったら体力が回復していくのと同じだと僕は認識している。
僕の使った魔法。《際限なく湧き出す魔力》とは、未来の複数の自分との繋がりを持ち、将来自分が自然回復する魔力を今、この5分にすべて集める魔法だ。
この魔法で繋げたラインは2000人分の未来も僕。すなわち僕の魔力は通常の2000倍の速さで回復していく。魔法を使ってもすぐに回復するので、魔力を気にしないで好きなだけ魔法を使える戦闘モードだ。
「《認識出来ない遅滞》」
続けてダンジョンコアを中心とした周囲に魔法を放つ。透明で空気の流れもなく、無音で敵の周囲に広がる広範囲魔法なので、避ける事も認識する事も出来ずに直撃した。
ダンジョンコアは何かが飛んでくると少しは警戒しただろうが、実力の差を考えて目視してから避けようとでも思っていたのだろう。だから、僕が手を横に振ったようにしか見えず、避ける事が出来なかったのだ。
「ミーシャさん。僕の魔法の属性に興味があったよね?」
僕はダンジョンコアから視線を離しはしないが、僕の後方に浮かぶ魔法陣に驚いているミーシャさんに話しかける。
生命力は体力と、魔力は精神力と深い関係があるので、魔力切れを起こすと頭が回らなく無気力状態に近くなり体がだるく感じる。だが今の僕は通常以上に魔力が溢れかえっているので、先程までのだるさはなくなり、逆にテンションは少し高くなっていた。
「……シン君、今はそんな話をしている時じゃないよ。何か魔法を使ったみたいだけど、ここまでレベルの差があったら、どんな攻撃も通じない。もう、勝ち目がないんだよ」
「ハー、僕は今からダンジョンコアとはいえ、命を奪う事に気持ちが押し潰されそうなのに、少しぐらい違う話をして気分を紛らわしてくれてもいいじゃないですか」
それでも今からの事を考えると、やっぱり気分は滅入っている。
ただ、覚悟は決めた。僕は自分の命とミーシャさんとマリアを守るために、ダンジョンコアの命を奪う。その事を考えるだけでも足は震えて心臓は激しく脈打ってる。たぶん顔色も死体のように青白くなっているだろう。
魔力のオーバーフローで少しはマシだが、それでも軽口ぐらい叩かないとすぐに気を失ってしまいそうな程だった。
「命を奪うって……シン君にはアイツに勝てる方法を持っているの? わたしの剣でも斬るどころか、傷を付ける事も出来なかったのに。それに動きもきっと早い……シン君のレベルでは着いて行く事も……」
ダメージで動けないミーシャさんを守るように前に立っているが、震える足や体を見て、更には出会ってすぐの時にモンスター相手に気を失った時を思い出し、心配してくれているのだろう。
そんな風に話をしていると、ダンジョンコアが動き出した。
「シン君! 奴が動き始め、た……よ?」
ミーシャさんは凶悪そうな笑みを見せながら襲いかかって来るダンジョンコアの動きを見て、不思議そうな顔をして驚いている。
「な、なんで? どうしてあんなにゆっくり動いているの?」
ミーシャさんの目から見るとダンジョンコアの動きはゆっくりに見えるのだろう。それでもレベル1の僕の動きよりは少し早い程度で向かって来ている。
力強い蹴り足と巨体が更に大きく見える威圧感を纏ってはいるはずなのにゆっくりな移動速度と、見た目と動きとが比例していない不思議な現象が起きていた。
確かに相手の素早さは格段に落ちている。ただそれでも僕から見ればまだ十分素早い。僕の体調は最悪と言う事を考えれば、まだ確実に対応出来るとは言い切れない。
なので僕はこの最終手段として用意していた魔法を完成させる。
「僕自身が長く持たないから一瞬で終わらせるよ。《加速する別世界》!」
僕は右手を上に上げて魔法を発動させる。その後すぐにダンジョンコアに向かって駆け出し、相手が鋭い爪で串刺しにでもしようと、無造作に前に出している腕に向かって木刀を振り下ろす。
「《ディメンション・リッパー》!」
更に僕は魔法を使う。魔法を纏わせた木刀は、まるで何の抵抗も受けていないようにダンジョンコアの腕を通過する。
~ダンジョンコア視点~
「僕の本気で全力の魔法を見せてやる。マキシマムモード! 《際限なく湧き出す魔力》!」
ゴミが何らかの魔法を使ったようだが、いったい何の魔法なんだ。
どうせ大した事のない魔法だろうと見ていると、突然魔力だけが一気に回復したように見えた。まあ、先程の魔力に比べると格段に多くはなっているが、それでも俺が相手では結果は変わりない。
少し驚いてはしまったが、それほど気にする必要はないだろう。
「《認識出来ない遅滞》」
ゴミが魔法名と思われるものを呟いて手を向けて来た。
動きは遅い。そんな遅い動きから放たれる魔法など、見てからでも十分対処できる。
しかし、ゴミの手からは何も放たれる事はなかった。
不発か? それともハッタリでも言っているのか?
ゴミの魔力を見てみるが、先程とは少しも変わっていない。魔法を使う以上、多かれ少なかれ魔力の消費は避けようがない。にも拘らず魔力量に変化がないところをみると、魔法を使ったフリをしただけだったのだろう。
つまらんゴミだ。結局大きな事をほざいていた割に、やれる事と言えばハッタリをかますだけだったか。
もういい。さっさとこいつ等を殺して食ってしまおう。その後はダンジョンとしての機能を再開させないといけないからな。
俺はこいつ等を殺そうと走り出した。
…………何かがおかしい。ゴミは顔色は悪いがその口の動きが読みとれない程早く動いているように見える。それに剣闘姫の表情も一瞬で変わった。
俺が認識出来ない程のスピードを出せるはずがない。それはレベルの差から考えても絶対的な事のはずだ。
そのはずなのに、何故剣闘姫は驚いて気の抜けたような表情をしている。
奴らとの距離を半分ぐらいまで詰めた時だろう。ゴミが動き始めた。
「ば!?」
「デ━━━━」
何なんだ! 突然信じられないほど素早い動きをして距離を詰めたと思ったら、見たところ木の棒にしか見えない物で俺の腕を斬り落とした!?
まるで最初から俺の腕に乗っていただけのように、さっきまで自由に動かしていたはずの腕は滑り落ちるようにして地面に転がっている。
ゴミは攻撃をしたとき何かを叫んだようだったが、言葉として聞きとる事が出来ない。
何が起こっているんだ?
なぜゴミのくせに、こんなに早くて鋭い攻撃が出来るんだ?
それにあの武器は何なんだ?
━━まったく理解出来ない?
「いったいお前は何をしたんだーーーーー!」
俺は体裁も気にせず、思わず叫んでしまう。だが言葉を聞きとれないのはゴミも一緒のようで、一瞬で耳を向けるような体勢になったが、次の瞬間、今度はもう片方の腕も斬り落とされてしまった。
~シン視点~
ダンジョンコアが何かを言いたそうに口をゆっくり動かしているが、あまりに遅いために言葉として認識出来ない。
この魔法を使ったらお互いの会話など不可能だという事は分かっていたので、僕は気にせずもう片方の腕も斬り落とす。
魔法。前にミーシャさん達には木刀の説明で冗談のように話したが、実際にこの魔法は武器に別時空へ向かう空間を纏わせているので、触れた場所だけが飛ばされ、綺麗に切り取られたように見えてしまう。
問答無用で一部だけ別時空に飛ばすので、僕の攻撃は防御不可能な斬撃と化し、自分のなかでは最強と認識する攻撃なのだ。
そして《加速する別世界》。この魔法は相手の時間の流れをゆっくりにして、自分は早くする。
《認識出来ない遅滞》は指定した範囲の動きをゆっくりにするだけだが、こっち魔法は自分と相手の個人に範囲を限定する事で効果は高まり、相手は10分の1程のスピードになり、僕は10倍の速さに加速する。
つまり、相手との時間の流れの差は100倍となり、お互いの言葉が通じないのも当然の結果と言える。
ただこの魔法は絶えず莫大な魔力を消費し続けるし、ディメンションリッパーの方も多大な魔力を使うので、両方とも普段の状態で使う事は不可能だ。
ミーシャさんは魔法の効果を受けていないので正常な時間の流れにいる。僕達の戦いを見て驚いたような表情をして何かを言っているようだが、彼女との時間の速度の差も10倍あるので、何を言っているかは分からない。
それに僕の精神状態が長くは持ちそうにないので、さっさ気を失う前に勝負を付けるつもりだ。
「出来れば殺しはしたくないけど、お前を倒さないと俺やミーシャさんが死に、今後他の犠牲者も出てしまうだろう。……だから、これで終わりだ」
ダンジョンコアはゆっくりな動きで驚き戸惑い、後ろに跳んで距離を離そうとしている。
だが遅い。まるで風船がゆっくりと後ろに移動するのを見ているようだ。
僕は普通に駆け出して懐に入り、《ディメンションリッパー》を纏わせた木刀を頭上から振り下ろす。
手応えはまったくない。ただダンジョンコアは抵抗も出来ずに真っ二つに斬り裂かれてしまっただけだ。
地面に崩れ落ち、動かなくなったダンジョンコアの切断面を見て━━僕の意識も遠のいてしまった。




