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22話 横穴

 採掘作業も順調に進み、モンスターとの戦闘でも誰も大きな怪我をする事無く8日目の朝が訪れた。鉄鉱石も予定量に到達したので、ここでも作業も予定通り今日で終わり、明日からは町に帰る事に決まっている。



「それにしても、本当にシン君の魔法って何なんだろうね。この食事って町を出る前に買ったやつだよね?」



 今は作業前に朝食時間だ。周りの人達は保存が効く堅い燻製肉などを食べているが、時間の流れがない僕の収納魔法《ストレージ》があるので、町を出て8日目になるのにパンに野菜と肉を挟んだ簡単なサンドイッチを食べている。

 魔法の事を聞かれたくはないので、依頼人はもちろん、他の冒険者にも食料を出す所見せてはいない。ただ一緒のチームで、細かい内容は分からないでもストレージの存在を知っているミーシャさんには、とくに隠す必要がないので同じ物を用意していた。



「普通に広がっている6属性の魔法じゃないってだけは言っておくけど、それ以上は秘密です」


「もう、少しぐらいヒントをくれたって良いじゃん。……でも、堂々とわたし達の前では見せてくれるんだから、もうちょっとで教えてくれそうだね」


「甘いですよミーシャさん。僕はそんな簡単に気を許しきる事はありません」


「なんでそんなに断言しちゃうかな。わたし達との関係は、これ以上進まないって言うの?」



 ちょっとミーシャさん……そんな言い方をしたら、事情を知らない人は男女の関係を想像してしまいますよ。



「前から言っていますが、これ以上僕は手の内を晒す事はしません。ミーシャさんやマリアは僕に何かをやらせたいようですが、僕は簡単に死ぬわけにはいかない理由があるんです。だからトラブルに巻き込まれそうな事からは身を引きますし、危険に飛び込むなんて事は絶対にしません。……もし……もしもミーシャさん達に危険が迫ったとしても、僕は平気な顔をして逃げ出すでしょう。僕はそんな最低な奴なんです。だから、勇者から逃げるにしてももっと頼りになる本当の仲間を探してください」



 そう、それが一番良いんだ。ミーシャさん達はもっと大きな事が出来るだけの力を持っているはずなんだ。自分の命が最優先なんかの僕なんて、さっさと見切りをつけてほしい。



「ふふ、シン君はそんな事を言ってても、わたし達のピンチの時には助けに来てくれそうなんだよね」


「そうですね。シンさんは変態さんですが、自分で言うほど最低ではないと思います」


「だよねー。本当に最低な人だったら、こんな事を言わないでわたし達を利用し尽くせば良いだけだもんね」


「そんな過剰な評価をしないでください。ミーシャさんでも敵わないほどの強い敵が出て来てからでは、もう手遅れなんですよ?」



 そう、もっと頼りになるような仲間がいれば助かるかもしれないんだし、レベルに見合った人が集まった方が良いに決まっている。今の僕達にはない連携して戦えるだろうしね。



「例えどれだけ強い仲間が集まったとしても、それ以上のモンスターに出会う可能性はあります。そして……死ぬ時は何をしても死にます。それが運命です……」


「マリア……そんな運命なんて言葉で人の生き死にを諦めないでくれ。そうならないように危険な事から離れたり、それを打開する方法を探してほしい。だいたい、回復魔法の使い手であるマリアにかかれば、どんな怪我でも治せるでしょ。だからミーシャさんが怪我をしても安心だよ」



 マリアは何か不安そうな声で死と言ったように聞こえたが、ミーシャさんが戦って怪我をしたらマリアに変わって回復魔法を使えれば、まず死ぬ事はないだろう。


 僕はそう楽観的に考えていたのだが、マリアからは良い返事を聞く事は出来なかった。



「シン君……それは出来ないよ」


「え?」


「シンさん、わたしが引っ込んでいる時はミーシャさんには触れられません。また、当然ですが魔法も使う事が出来ません」


「あ!?」


「そうです。わたしが表に出ている時は逆にミーシャさんには触れる事が出来ないんです。つまり、わたしがミーシャさんに魔法を掛ける事は出来ません。それにわたしの回復魔法では傷は癒せても欠損部分は再生出来ませんし、血を流し過ぎた場合もどうにもなりません。その程度の回復魔法なので、あまり過信しないでほしいです。……もしミーシャさんが怪我をした場合は、シンさんの回復魔法を頼りにさせてもらいますよ」


「ぼ、僕の魔法こそ期待しないでほしい。いろいろ条件があるし、自分用に編み出した魔法ばかりだからね」



 そう、《自動修復(オートリカバー)》は自分用で、一応他にも使う事が出来る魔法はあるけど、他人は自分とは違っていろいろ制限が付いてしまった。

 覚えた時に思ったのは、魔法とは言え何でも出来る訳ではないと言う事だった。



「ちょっと待ってください!? 今、魔法を編み出し━━」

「さあ、今日の作業に入るぞ。皆、持ち場に着いてくれ!」



 マリアが何かを言いだしたのだが、それを遮るように冒険者リーダーが声を上げて知らせて来た。どうやら朝食の時間は終わりのようで、依頼人も動き始めているし、僕達も早めに動いた方が良さそうだ。



「じゃあ、ここでの作業も最終日だし、気をつけて頑張ろうか」


「待ってください! それより━━」

「おーい、お嬢ちゃんが先に行ってくれないと皆移動が出来ないぞ。急いでくれ」


「だってさ。何か聞きたい事がありそうだけど、それはお昼休憩にでも聞くよ」


「っ! ……約束ですよ! 絶対に話してもらいますからね」



 ミーシャさんはマリアが何を聞きたいか分かっていないようだが、仕事が始まったのでさっさと洞窟に向かって行った。

 僕も依頼人のグループに合流し、採掘された鉄鉱石を馬車に運搬をしていく。


 本当は重たい鉄鉱石でも、リュックに入れるフリをして《ストレージ》に放り込んでいますよ。

 一度に運ぶ重量は、だいたい20キロってところかな。一緒に仕事をしている双子はレベル8がなので普通に運んでいるが、レベル1の僕には同じ量は無理だからね。2人の真似をして同じぐらいの鉄鉱石を運んでるんだ。





「おい! こっちに横穴が出て来たぞ! 急いで火を離すんだ!」



 順調に仕事をこなして来たが、昼前ぐらいの時間に差しかかった時、依頼人の1人が洞窟の先に横穴が見つかったと声を上げた。山を掘り進むように洞窟を掘り進んでいるので、たまにこうやって自然に出来た空間に出くわす事があるそうだ。

 そしてそういう横穴には可燃性のガスが溜まっていて、松明などに引火し爆発する事もあるので、急いで作業を中断して火を離したのだ。


 ひとまず状況の確認をするべく、連れてきた小鳥が入った籠を放り込んだが、無事に泣き声が続いているので一安心する。



「悪いがお嬢ちゃん達が先行して、内部の状況を確認して来てくれ」



 空気があるって事はどこかに繋がっており、モンスターが住み着いている可能性もある為、内部の確認は冒険者が行なう。

 もちろん、その場合は実力が高い人が一番に最初に入るのだが、このメンバーで一番と言えばミーシャさんだ。


 確かにミーシャさんの実力から考えて、少しぐらい後手に回ったとしても対応出来るだろうと僕も安心して見守る。依頼人は万が一の時の為に、逃げ出す準備は万端だ。



「大丈夫かな、お姉様……」



 依頼人の傍にいる双子の姉は心配そうにミーシャさんの方を見ている。



「この辺りのモンスターで女神に敵う奴がいる訳がないだろ。心配するだけ無駄だよ」


「馬鹿! 洞窟内での危険はモンスターだけじゃないのよ! 手付かづの空間は天井が脆いだろうし、突然巨大な岩なんかが落ちてきたら、いくらお姉様だって対応しきれないわよ」


「そ、そっか!? 確かに俺の考えが甘かった。そうだな、自然の脅威に対して人では対応できない事も起こりえるんだよな……」



 そんな事がいきなり起こる訳がないとは思うが、そう言われると僕も不安になってしまう。


 全員が沈黙して事の成り行きを見守っていると……



ゴトッ。



 ミーシャさんの入った穴の方から、石が落ちるような音が響く。嫌な予感がする。今まで静かだったから余計にこの小さな音が不安をかき立てる。


 それでも今の僕が出来るのは、何事も起こるなと祈るだけだった。



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