21話 採掘現場での護衛依頼を受ける
下水道での災難の後はとくにトラブルも起こらず、順調に互いの依頼をこなし続けた。ミーシャさんは1つ上のランクの依頼を受け続けていたので、その成果と実力を認められ、冒険者ランクがEへと上がる事だ出来た。
ちなみに僕はGランクの依頼ばかり受けているので、今でもFランクのままだけどね。
「シン君、わたしの冒険者ランクがEに上がったんだよ」
「そのようですね。おめでとうございます」
冒険者カードの更新が終わり、ミーシャさんは嬉しそうに僕に見せて来た。
「ねえ、シン君。わたし、ランクが上がったご褒美が欲しいなー」
急に何だろう? ……まるで恋人に甘えるような態度は? 実際に恋人がいた事はないので、想像だけどね。ただ、妹に何かをねだられる時に見せる雰囲気に近い気がする。
「な、何でしょう……僕に出来る事であれば、善処しますけど……」
「わたし、そろそろ一緒の依頼を受けて欲しいなーと思うんだけど? ……例えば、この鉱山での護衛依頼でもどうかな?」
最近一緒に依頼を受けようと言ってこなかったミーシャさんだったが、自分のランクが上がったご褒美として言いだしたのだ。
何時もなら簡単に断る事が出来たが、ついさっき善処すると言っちゃったのでとても断り難い状況が出来上がっている。
これは間違いなくマリアの作戦だろうと確信出来た。だが、ミーシャさんは乗せられているだけだろうから、嫌だと言って悲しませるは気が引けた。
「……僕は鉱山での荷物持ちしか受けませんよ。ミーシャさんは僕と同じか、護衛の依頼の方にするのなら受けますが……どうでしょう?」
いくらGランクでの依頼とは言え、町の外に出て危険なところに行くのは勘弁してほしい。これでも僕なりに譲歩したつもりだから、その意を汲み取って欲しいなー。
「ほんと!? じゃ、早速依頼書を出しにいこ!」
一緒が良いと駄々を捏ねるかと思ったが、僕の杞憂だったようだ。嬉しそうにしているミーシャさんは、まるで何処に今回の依頼書が掛かってあるか分かっているように手早く持ちだし、空いている受付に手を引かれて連れて行かれた。
「そんなに慌てなくても、今更断りませんよ」
だってGランク依頼の荷物持ちは、報酬はもちろん少ないけど集団の中心を歩くので安全ですから。もちろん絶対ではないけど、今回はミーシャさんもいる事だし、そう簡単に護衛依頼を受けた冒険者達を抜けて、僕の方にモンスターが来る事はないだろうしね。
今回の仕事は今日の昼までに集まり、顔見せと人数を確認したら始まる、移動込みで10日の依頼だ。冒険者が受けたランクによって仕事の内容が変わり、Gランクは荷物持ち、Fランクは雑魚処理、EランクはFランクでは手間が掛かりそうなモンスターの処理と、護衛対象の身辺警護だ。
もちろんランクが上がるにつれて依頼料も上がっていく。
結局、僕はGランクの荷物持ち、ミーシャさんはEランクの護衛依頼を受ける事になった。これから10日間の依頼として町を出るので、泊っている宿に事情を話してチェックアウトしておく。
宿のおばちゃんは「帰って来たら、またよろしく」って言ってくれた。実際、床で寝る事になったと話したらすぐに一組の布団を用意してくれたのもあり、泊り心地は良かったので、またお世話になるとだけ告げておいた。
集合場所に行くと、そこには20人ぐらいの炭鉱夫っぽい依頼人と、10人ぐらいの冒険者が集まっていた。
依頼人の代表者とこの依頼を何度か受けた事がある冒険者で話が進み、僕達の立ち位置と役割が説明されていった。
冒険者10人中3人は、僕と同じで荷物持ちとして依頼を受けている。僕が言うのもなんだが、残りの2人はまだ幼さが残っている男女で、顔立ちや背丈が似ているので双子なのだろう。どちらもまだ前線で戦えるようには見えない。
その子達に親しく話をしている冒険者がいる事から、同じチームメンバーに経験を積ませるのが目的のようだ。
そしてEランクの依頼を受けたのはリーダーを受け持った経験者とミーシャさんの2人だけで、残りの5人は僕と同い歳ぐらいのFランクの冒険者だった。
そのせいもあってか、僕を見る目が少々冷たいような気がする。……まあ、そうだよね。10歳ぐらいの子と一緒の依頼を受けて後方で荷物持ちなんてやっていたら、「大人なのに何をしてんだよ」って目で見られるよね。
それに加えてミーシャさんが親しく話しかけてくれるもんだから、余計に男性陣の視線は厳しいものになってるよ……。
「それでは皆さん、最終確認です」
冷たい視線に耐えながらも、だいたいの役割と移動時のフォーメーションと戦い方が決まったところで、依頼人の代表者が声を大にして全員に話始める。
「今回は北の採掘場での鉄鉱石の採取が目的です。日数は最低10日間。現地までのモンスターからの護衛と採掘中も護衛もやってもらう事になります。主に戦うのはEランクの依頼を受けてくれた冒険者さんで、Fランクの方々も一緒に戦ってもらう事になります。もちろん、Gランクの依頼を受けてくれた冒険者さんは緊急時以外は戦う必要はありません」
その言葉を待っていました。そりゃ、死にたくないから緊急時は戦うけど、出来れば前戦に出たくないのが本音でからね。
「それと夜営の番ですが、それはFランクの冒険者さんが交代で行なってもらいます。何かあった時はすぐさまEランクの冒険者を起こし、それに対応してもらいたいと思っております。そして食事は各自用意してもらい、持って来ていない人や足りない人がいれば少し割高になりますが私共が販売しますので、どうするかは各自の判断にお任せします」
食事が各自持ち込みなのは依頼書にも書いてあったからね。忘れるような人はいないでしょ。
「それでは出発しますので、遅れないように着いて来てください」
依頼人達は馬車5台に乗って移動を始める。馬車の中身は人と食料と採掘道具が乗っており、帰りは依頼人も歩いて中は鉄鉱石をいっぱい積み込むそうだ。その馬車を囲うように守るのがEランク以上の依頼を受けた冒険者で、僕達Gランクの荷物持ちは、馬車の近くを歩くだけの簡単なお仕事だ。
ただ僕以外の2人は、先輩達の動きや視線の先に何を見ているかを覚えるようと、真剣な眼差しで見つめている。
僕はどうなんだだって? そんなの決まっているよ。今は馬車に乗って、少々お尻が痛くて冷たい視線を浴びせられる事に耐えているよ。
僕達Gランクの依頼を受けた冒険者は戦う必要がないので、依頼人に「馬車に乗るかい?」と誘われ、僕だけ二つ返事で馬車に乗り込んだ。
だが、残りの2人はチームメンバーが歩いているのに、見習いの自分達だけが楽をする訳にいかないと断固断ったのだ。
そりゃ年下の子達が頑張っているのに、僕だけ馬車に乗り込んだら冷たい視線を浴びせられるのは当然だよね。でも、今更降りて「一緒に歩きます」なんて言うのも恰好悪いし、楽なのは確かなので降りたくはないんだよ。レベル1は体力だって低いんだ。
ま、そんなこんなで、翌日の日暮れ前には採掘場に到着した。採掘作業に入るのは次の日の朝からだ。
採掘場でのモンスターは『ビックスパイダー』と『ロックリザード』。
ビックスパイダーは文字通り大きなクモで、洞窟の天井から音も立てずに降りてきて、獲物を捕まえるモンスター。
ロックリザードは、表皮が石で覆われている大きなトカゲだ。両方とも主な攻撃手段は噛みついてくるだけだが、その顎の力は強力で、低レベルなら簡単に腕を食い千切るぐらいの力を持っている。
そしての皮膚は硬く、普通の鉄の武器を装備している者には辛い相手だ。現に、今回のリーダーを務めているEランク冒険者が装備している良質の鉄の剣でも石の皮膚は斬り難いようで、噛みつかれる瞬間を狙い、柔らかい口の中から一撃で仕留める事に徹していた。
しかし、ミスリルの剣を装備したミーシャさんにかかれば敵ではなかった。
まるで石の皮膚など関係無いように簡単に首を狩りとり、その華麗な立ち振る舞いにFランクの冒険者はもちろん、Gランクの2人も見惚れてしまっている。
綺麗な金色の髪が舞い、無駄のない剣技でモンスターを寄せ付けないその姿は、まるで戦女神のように優雅で美しかったのだ。
ただ、周囲のモンスターとの戦闘が終わるたびに僕の方を向き、元気良く手を振ってくれるものだから、ミーシャさんの魅力に惚れてしまった冒険者からの疑惑と妬みの視線が僕に突き刺さって来る。
「ねえ、お兄さんとあのお姉様の関係ってなんなの?」
何度もミーシャさんが手を振って来るし、食事の度に僕の所に来て一緒にいるので気になったのだろう。僕と一緒の荷物持ちの依頼を受けたGランクの冒険者である少女が、単刀直入に質問してきた。もう1人の少年も隣にいるので、聞きたい事は一緒なのだろう。
それにFランクの冒険者も依頼人の護衛があるので近くには寄って来ないが、耳をこっちに傾けているのは何となく分かる。
それにしても、お姉様か……ミーシャさんにかなり憧れを抱いているなー。まあ、彼女は女性からすれば目標となる実力があるのは確かだしね。
「ミーシャさんとは隣の村で出会って、一緒にこの町に来ただけの関係だよ。一応、冒険者としてチームを組んでいるけど、それ以上でもそれ以下でもないから変な想像はやめてね」
「そう……なの? お姉様はずいぶんとお兄さんに気を許しているように思うけど」
んー、ミーシャさんが魔人族って知ってるし、マリアの事もある程度知ってるから気楽に話せるだけじゃないかな。
「つまりお前は、彼女に養ってもらっているんだな」
ここで荷物持ちのもう1人が指を突き付けてきた。その表情から簡単に彼の気持ちが読みとれる。憧れを抱いた凄腕の女性冒険者に、明らかに実力が劣っている僕の存在が許せないのだ。
僕の実力についてはここまで荷物持ちとして夜営の準備などを手伝っていた時に、その非力さを見せているのでだいたい想像がついているのだろう。
見習いを抜けだしたばかりの新人である自分達よりもレベルが低いと……
「僕は僕で稼いだお金で生活をしているよ。もちろん彼女の稼いだお金に頼っていないし、むしろ僕の方が聞きたいよ……なんでこんな僕に付き纏うのかをね」
「っ!? 付き纏うってお前は何様のつもりだ! 女神の優しさを無下にするつもりか!」
おいおい、ついに女神って言っちゃってるよ。つーか、僕にどうしろって言うんだ? 一緒にいれば足を引っ張るなと思われ、離れたいと言えば優しさを無下にするなと怒られる。
そんな子にどうやって対応すれば良いか困っていると、女の子の方が少しは冷静で、割って入って間を取り持ってくれた。
「助かったよ。周りの視線は痛いし、あの子も敵を見るような目で噛みついて来たし……」
「それは仕方ないよ。お姉様はそれだけ美しく、とてもお強いからね」
「まあ、ミーシャさんの実力が凄いのは知ってるよ。同じレベルの人と比べて、他を圧倒するだけで実力を持っているのも知ってるし」
「っ!? ……お兄さんはお姉様からレベルを教えて貰えるほど親しいんですね」
「ん? どうしたの?」
好印象を持たれているとは思っていないが、急に視線が厳しくなった彼女を見て不思議に思った。
「あなたは冒険者がレベルを教える意味を知っているんですか?」
「……あまり知られない方が良いのは分かるよ。ただ同じレベルだとしても、それ以外で鍛えて差はできるから、そこまで重要な物でもないでしょ? 実際同じレベルだった受付のお姉さんと比べても、ミーシャさんの方が実力は上だったからね」
今はミーシャさんの方がレベルは上だが、冒険者になるときは同じだったにも関わらず、明らかに劣っていたからね。
「……つまりお兄さんは、『ソニア』さんのレベルまで教えてもらっているって事ですか……へー、そうですか……」
「ソ、ソニアって誰? って言うか、ど、どうしたの? なんか雰囲気がかなり怖くなって来たんだけど……」
俯いて表情は分からないが、後ろから「ドドドドドド!」と聞こえてきそうな雰囲気を醸し出していた。その証拠に、隣にいる男の子も一歩下がってオロオロしだしている。
「この女の敵!!! お姉様だけじゃ飽き足らず、ソニアさんにまで毒牙に掛けるなんて……最低です!」
「ど、毒牙って……君は何を言っているんだ? 僕は何もしてないし、手を出すつもりもないよ」
そんな事をしたら、町中を歩いているだけで男連中に刺されそうだ。それに逃げる事も後戻りする事も出来ない状況に身を置く事になるだろうしね。
……まあ、マリアの裸はしっかりと見ちゃったけど。
「だいたいなんでそんな発想になるんだい? 別にレベルですべてが決まる訳ではないし、そこまで大袈裟に捉える必要はないと思うけど?」
「……本当に鬼畜さんは何も知らないんですか? レベルはある意味命に関わる情報です。チーム内でも大体しか教えず、それが表記されているギルドカードを見せるなんて論外です。ソニアさん達ギルドで受付をやっている人達も、厳格なルールとレベルを漏らさない厳しい制約の下、その仕事に誇りを持って着いているんです。それを曲げてまでレベルを教えるって事は、心から信用しているか、もしくは……脅されているか、のどちらかです!」
確かに細かい差はあっても、レベルの差が実力の違いと言っても過言ではない人も多い。そしてミーシャさんやマリアが何故か僕を信用しているのも知っている。……でも、それより気になるのは━━
「ねぇ……なんで僕の呼び名が鬼畜さんになってるの?」
「貴方みたいな普通以下の冒険者が、お姉様やソニアさんに信用されているはずがありません! つまり、卑怯な手口で脅迫している鬼畜さんって事に違いないんです!」
「お、おい……いくらなんでもそこまで言わなくても……。それに女神の笑顔を見る限りは、脅されて嫌々チームを組んでいるようには見えないぞ?」
おー! ここでオロオロしていた弟君がフォローが入った! って言うか、僕ってそんな風に見られていたの? 顔……は普通だと思うし、レベルは最低、まともにモンスターと戦わず後方でヘラヘラしている……うん、客観的に見ても、完全につり合いが取れていないね。
でも、これ以上僕の印象を悪くしてほしくないから、弟君頑張って。
「あんたは黙っていなさい! 女はね、強くてカッコ良く、頼りがいのある男性に魅かれるの。それは実力が高ければ高いほど、相手の男性の基準も上がって来るわ。それなのにこれは何? モンスターとは戦おうともしないどころか、持ってる得物は木の棒って? こんなのがお姉様と対等の関係な訳がないでしょ!」
「それはそうだけど……」
あれ? 僕の評価ってもう下がないぐらい悪いような気がするんだけど。それに弟君も簡単に引き下がったところを見る限り、同じような印象を持っているって事だよね?
護衛の依頼を受けた冒険者は持ち場に着き、依頼人達は採掘の準備に入っているので近くにはいないので、僕達の会話は聞こえていないだろう。だが、これ以上騒いでいると誰の耳に届いてしまうか分からず、せっかく親しくなって来た依頼人達からの印象まで悪くなってしまう。
「君がどう思おうとも、僕はミーシャさんに手を出していないのは事実。ここにも生活の為に依頼を受けて来ただけだし、これ以上の問答に付き合うつもりはないよ。さ、仕事仕事」
これ以上状況が悪化しないように僕は強引に話を切り、採掘準備の手伝いに逃げて行った。
その後、昼食時にミーシャさんが手を振ってやってきたのを彼女が見て、僕を射殺さんとする目で睨んで来たのは気付かないフリをしてスルーする。
「なんでこんなに胃が痛くなるような事になっちゃったんだろう……」
僕は空を見上げながら、誰もいない虚空に問いかけた。




