16話 ミスリルの剣
「すみません。ちょっと頼みたい事があるんですけど……」
僕は覚悟を決めて店の中に入った。
「またあなた達ですか。いったい何の用ですか? わたしは武器を大事にしない人は嫌いです」
入ってすぐに嫌い宣言されちゃったよ!? 一応僕もお客のはずだから、少しは私情を隠してほしいな。
まあ、武器屋の関係者なんかに気にいられて、また遊びに来いなんて言われても困るだけだから、この方が良いのかもしれないけどね。
「実はね。さっき買った大剣を壊してほしいんだ」
「はいぃぃぃ! いくら中古だからって何を言ってるんですか! 貴女はわたしに喧嘩を売ってるんですか!」
ミーシャさん……その言い方だと間違いなく喧嘩を売ってるって思われても仕方がないよ。それに店員さんも腕捲りしてハンマーを持つのはやめてください。かなり怖いです。
「もう少し言い方を考えてくださいミーシャさん! 店員さんも落ち着いて。僕達が頼みたかったのは、この大剣を綺麗に割ってくださいって事で……」
「やっぱり武器を駄目にするって事じゃないですか! 良いでしょう。その喧嘩わたしが買います!」
「違うんです。この大剣を割って中身を……」
「それ以上は口を開かないでください! 武器を蔑ろにする輩を、わたしは許したりしません!」
あっれー? この人全然話を聞いてくれないぞ。僕は気持ち悪いのを我慢してこんな所に来ているっていうのに……。
んー、向こうの言い分も分かるけど、ここまで話を聞いてくれないと少し頭に来たな。
「ふん! 何が武器は蔑ろにする奴を許さないだ。何が武器を大事にしない奴は嫌いだ。そこまで偉そうな事を言っておきながら、お前には全然武器を見る目がないじゃないか」
「な!? シロートが何を偉そうに!」
「フ、そのシロートにも分かるような事も分からんお前こそ、いったい何様のつもりだ」
「いったい何が分かるってのよ!」
「……シン君、なんか喋り方が変だよ?」
ミーシャさん、その事には触れないでください。僕らしくない話し方ってのは自分が一番良く分かっています。
でもいつもの喋り方じゃ、この人全然話を聞いてくれないじゃないですか。少し恥ずかしいけど、このノリで一気に行きます。
……ですから後でこの事に触れないでくださいね?
「お前には聞こえないのか? この粗末な鉄に覆われて苦しんでる武器の泣き声が!」
もちろん僕にも聞こえませんよ。ただかなりの悪ノリで適当な事を言ってるだけですよ。
「武器の……泣き声?」
「ああそうだ。この大剣は中に隠された武器を覆うハリボテ。そんな事も分からんお前に、武器のなんたるかを語る資格はない!」
「な!? ……黙って聞いて入ればシロートが偉そうに! そんな嘘でわたしが騙されるとでも思っているの!」
「ったく、またお前達か。いったい今度は何が原因で騒いでいるんだ」
おっと、ここで親方さんの登場ですか。ちょうどいいや。どうせ作業をするのはこの人だし、そろそろこの恥ずかしい言葉使いもやめたかったしね。
「このヒョロヒョロがさっき買った大剣に別の武器が隠されてるって言って、剣を壊せって馬鹿な事をほざいて来たのよ」
ヒョロヒョロ!? それって僕の事? たしかに僕の腕には筋肉らしい物は見当たらないし、実際レベル1だから間違っていないけど、ヒョロヒョロはないんじゃないかな。
「……たしかその大剣を買い取って手入れをしたのはお前だったな」
「ええそうよ。もう古いから長持ちはしないだろうけど、しっかり斬れるように手入れをしたわ」
おや? 見た目からただの店員さんだと思っていたけど、この人も手入れとか出来るのか。
「すまないがその大剣を見せてもらえるか?」
「どうぞ」
「…………ふむ、確かに重心に僅かなズレがある。それに大きさの割に重量がおかしい」
「え? う、嘘よね、お父さん? わたしには何も……」
大剣を持ち上げた親父さんが違和感を感じ、その言葉を聞いた店員さんが驚いた表情をして剣を見ている。
「なるほど。確かにあんたが言うように中に何かがありそうだ。……おい、今後の為にもお前が中を確認してみろ」
「確認……って、どうやればいいのよ。溶かしたり叩いたりしたら、本当に中に武器があった時、一緒に駄目になっちゃうじゃない」
「その点は気にしないで大丈夫だろう。そう言えば、あんたはこの中身が分かって依頼して来たんだろ? あんたの口からこの経験不足の娘に言ってやりな」
凄いな……僕みたいなズルイ目がなくても、大剣の重量から中身の材質が分かっているようだ。これが本当の職人か……恰好良いな。
感心はするけど、刃物は触れられないから僕は武器屋にはなりたくないけどね。
「ああ分かっている。中身はミスリルの剣だ。大きさはミーシャさんが使っていた鉄の剣と同じぐらいだな」
あ、しまった。さっきのノリが抜けていなかった。
「ミスリルですって!? そんな訳が……」
「なるほど。あんたは相当見る目がありそうだ」
「それって!?」
「ああ、重心の位置から想定できる異物の形に、普通に造られた大剣の重量との違いから考えて、ミスリルの剣を隠していると思って間違いない」
「う、嘘よ……」
「だからお前の目で確認してみろって言ってんだ。ミスリルは鉄より丈夫で溶かすのにも更なる高温が必要だ。中身が壊れる心配はないからやってみろ。……すまないが娘の経験の為にも、こいつにやらせてくれないか? 万が一駄目にしちまった時は俺が責任を持って修復する。それに代金もいらねえ」
おっと、金欠状態の僕達には断り難い条件をつけて来たね。タダより高い物はないって言うけど、今はタダで作業してくれるのは大歓迎だよ。
「親父さんの娘を思う気持ちに負けたよ。俺からは何も言わない。しっかりと違いを見極めれる目を養うんだぞ」
もういいや。このままのノリで突っ走ろう。今更言葉使いを変えるのは、逆に恥ずかしい気がするし。
……ですからミーシャさん、笑うのを堪えるのはやめてください。隠すならしっかり隠し通してくださいよ。
きっとマリアも笑っているんだろうな……。
「わかったわ。ちょっと確認してくる。あんた達、すぐに終わらせて来るからしばらく待っていてちょうだい」
「急ぎの用はないから、しっかり見極めるがいい」
僕は腕を組み、目を閉じて偉そうに告げる。
「ありがとう。ちょっと行って来るわ」
そう言って店員さんは店の奥に歩いて行く。僕は体勢を崩す事をせず、目を閉じたまま待つ事にする。
「シン君、大丈夫? 気持ち悪かったら店の外にいていいよ?」
やはりミーシャさんにはバレてたか。そうです。もう目を開けて刃物を見ているのは限界だったんです。でも、ここまで偉そうな事を言っておいて、気持ち悪いから帰るなんて言えないでしょ?
流石にそれは恥ずかしすぎるもん。
店員さんが戻って来たのは大体1時間ほど経った後だった。
その間、僕はずっと目を閉じていましたよ。周りに刃物が大量にあるって分かっているけど、見なければ気分の悪さが進行する事はなかったからね。
「……待たせたわね。そしてごめんなさい……武器を大事にしろって言っておきながら、何も分かっていなかったのはわたしの方だわ。本当にごめんなさい」
僕達の前に戻って来た途端、店員さんは頭を下げて謝罪してきた。ただ1時間ぶりに目を開けたから、僕は目が光に慣れていなくて良く見えない。
「別に気にしないでいい。それでミスリルの剣はどうだった?」
「こんな綺麗な剣が隠れていたなんて、見抜けなかった自分を殴ってやりたいわ」
そう言って僕達の目の前に一本の剣を差し出した。
「ミーシャさん。持ってみてください」
「うわー、綺麗な剣が出て来たね。……それに、すっごく扱いやすい」
だからって店内で剣を振るのはやめてください。
「確かに見事な剣だ。俺もミスリル鉱石が手に入ったら一から打ってみたくなったぞ」
「わたしも打ってみたいわ」
「お前にはまだ早い」
「ひど!? わたしだってそろそろミスリル鉱石を扱えるぐらいには、腕が上がっているはずよ!」
「金属の重さも分からん内は、まだ半人前だ。……さて、お前達には感謝する。おかげで娘に良い経験をさせる事が出来たぞ」
ムキになっている店員さんを軽く受け流している親父さんは、僕達に感謝の言葉を告げる。ミスリルの剣という高級な武器を中古の捨て値武器と一緒にしていて、店としては儲けるチャンスを逃したはずなのに、親父さんの顔は嬉しそうなものだった。
きっとこの失敗を乗り越えて成長すると信じているんだろうな。店員さんも頬を膨らませて怒っているように見えるけど、後悔や今後店を続ける恐怖などは感じないから大丈夫か。
……強いな。僕だったら責任を感じて自分の目を信じられなくなっちゃうだろうな。
武器屋を出ると、予定より良い武器が手に入った事で嬉しそうにしていたミーシャさんは、今からギルドに行こうと言いだした。
時間はまだ午前11時頃なので、僕も反対はしないで一緒に向かう事にする。




