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14話 初報酬

「あ! シンくーん。そっちも今終わったの?」



 冒険者ギルドの前に到着すると、ミーシャさんも丁度帰って来たようで声を掛けて駆けて来る。見たところ傷らしい傷もないので安心した。



「はい。なかなか依頼人の話が終わらないで時間が掛かってしまいましたよ」


「でも仲良く話せるって事は、依頼は無事に終わらせたって事でしょ」


「まあそうですね。あとは終了報告をして、今日の分の報酬を貰うだけです」



 午前中に受けた酒樽の運搬分の依頼料もまだ受け取っていない。お金を持って次の仕事に行きたくはなかったから、受付のお姉さんにまとめてお願いしますって頼んでおいたのだ。


 ミーシャさんも腰袋から魔石を取り出して今日の成果を見せて来た。嬉しそうな表情なので何も言わないけど、血が付いた魔石を見せるのは止めてほしいな……少し気持ちが悪くなるから。




「ゴブリンを倒して来たから確認よろしく!」



 受付に行き、ミーシャさんは魔石をカウンターに置く。



「はい分かりました。あと、ギルドカードも一緒にお願いします。依頼内容を確認しますので」


「はーい」



 あれ? そう言えば僕の時はギルドカードの提出を求められなかったよな? 町中での依頼は修了証があるから見せないでも良かったのかな?



「確かに今日倒したゴブリンの魔石ですね。全部で6つ……魔石の買い取りも含めまして600ゴールドとなります」



 なるほど、依頼無しで倒した魔石は1つ50ゴールドで、依頼だと討伐報酬として更に50ゴールド増えるって事か。モンスターと戦うなら依頼を受けてからの方がお得だな。


 ちなみに魔石は何時頃討伐した物か判別がつくらしく、依頼を受ける前に倒した分は対象外となってしまう。

 


「次はシンさんの番ですね。修了証とギルドカードの提出をお願いします」


「あ、今度はギルドカードが必要なんだね」


「午前の分はあまりの終了速度に驚いて忘れてしまっただけです。それに報酬を受け取って始めて終了なので、厳密にはシンさんはまだ1つも依頼を終わらせた訳ではないんです」



 ああ、ただ忘れていただけね。でもこれはかなりの役得だ。照れてるお姉さんの顔を目の前で見れたよ。

 うん、普段ミスをしないような綺麗な人の照れた表情は、グッと来るものがあるね。


 ただその表情も僕が修了証を見せた途端、驚きの顔に変わってしまった。



「シンさんはいったいどんな魔法を使ったんですか? 家の取り壊しを半日で終わらせてゴミの始末までするなんて……」


「あれ? 修了証にそんな事書いてあったっけ?」



 確かに依頼人は修了証にいろいろ書いているような動きは見せたけど、受け取った紙にはサインしかなかったような気がしたが……



「ああそれはですね。依頼人に被害があった場合、ギルドに秘かに報告が出来るように書いた文章が消えるようになっているんですよ。消えた文章はここでしか浮かび上がって来ないようになっていますので、冒険者も不用意な事は出来ない仕組みなんです」



 たしかに実力で上回る冒険者が暴力に訴えて来たら、依頼人は泣き寝入りする事になるだろう。それに後から事が発覚しても、逃亡する時間を与えるだけなのでこれは良いシステムだ。



「これによるとシンさんは早くて5日は掛かるだろうと思っていた作業を半日も掛からないで終わらせたので、追加報酬の支払いが書かれておりました。……えーと、午前中に受けた分と合わせまして、合計1200ゴールドですね」


「はい? 1200ゴールド?」


「午前中の仕事が100ゴールドに追加100ゴールドの200ゴールドで、午後のが元々予定していた報酬600ゴールドにゴミの撤去分の200ゴールド、更に追加報酬として200ゴールドで1000ゴールド支払うと書かれていましたので」



 おぅ……僕が村で貯めた3か月分のお金より多いよ。



「凄いよシン君! わたしの倍も稼いじゃったじゃない!」


「たまたまですよ。さあ、宿に戻りましょう。今日はもう疲れました」



 主に依頼人の話と、今も継続中に刺さっている周りの男達の嫉妬と妬みによる視線にですが……。






「そう言えばミーシャさんの剣って手入れも何もしていませんよね? 武器ってそんな扱いで良いんですか?」



 夕食も食べ終わり、今日一日の疲れもお風呂で洗い流した僕達は部屋で寛いでいた。お風呂上がりの後はマリアに変わっているので、魅惑的なミーシャさんに悩まされる事はない。

 マリアもお風呂には入ったようなので髪がシットリと濡れて服は薄手の寝間着、顔は朱みを帯びているのでドキドキするが、ギリギリなんとか冷静さを保てるレベルだ。



「え? そんなのした事がないよ」


「それじゃあ、その内斬れなくなるんじゃ?」


「そういえば最近引っ掛かる感触が増えたような気がするな。それって手入れをしてないからなのかな?」


「わたしには判断がつきませんね。刃物に関する知識は持っていませんので」


「僕も全然分からないけど、駄目になる前に一度武器屋で見てもらった方が良いかもね」



 身を守るための武器。命を預けていると言っても過言ではないので、僕は早めに専門家に見てもらう事を進める。



「なら、明日にでも行ってみようかな」


「その方が良いですよ。そう言えばマリアの武器ってやっぱり杖?」


「そうですよ。正確には魔杖と言って、魔法の威力を上げる魔石が付いた杖ですが」



 そう言ってマリアは魔杖を見せてくれる。先端に白く大きな魔石が付いている。ゴブリンから取れる魔石が2センチ程の大きさに対して、魔杖に付いているのは10センチほどもあり、一目で高い物だと分かる。



 セントローズの杖 ・・・ 光の魔法の威力を2倍。消費MPを3割カット。杖自体も魔石により強化されているので、ちょっとやそっとでは折れる事がない。伝説級の武器。



 おやおや、えらくチートな武器ではありませんかマリアさん。



 粗末な鉄の剣 ・・・ 数打ちの中でも出来の悪い鉄の剣。刃こぼれがし易く、簡単に折れてしまう危険もあるので長期間使うのには向かない。一般的な武器。



 僕の目は人のレベルだけではなく、武器もしっかり見つめれば大体の性能が分かるんです。その目で見なくてもハッキリと分かるが、2人の装備の間にはかなりかけ離れた物があった。



「マリアの杖って凄く良さそうな物だけど、もしかして教会では結構なポジションにいたの?」


「っ!? わたしは……」



 何か言い難そうにしているな。回復魔法の使い手は少ないって言ってたし、土地の浄化を任されるならそれなりに凄い光魔法の使い手だろうけど……。



「言い難い事なら言わないで良いよ。僕も自分の事は言っていないし」



 女の子を困らせるのは気が引けるからね。これ以上は聞かないでおこう。これで気使いが出来る僕の評価も、少しは上がったんじゃないかな?



「そうですね。シンさんは自分も魔法の属性すら教えてくれませんからね」


「うぐっ!」


「きっと、不自然なバックの収納量も、攻撃を避ける時も、受付嬢の攻撃をはじいた事も、その後に何事もなく立ち上がった事も全て魔法によるものでしょうが、秘密なんでしょうね」


「な、何故それを!?」



 まさか僕が魔法を使った事がバレている? ……それも疑いではなく、確信レベルで。



「えー、シン君。本当に分からないと思っていたの? 普通の人が攻撃の動作に入る前に避け始めるなんて出来ないよ」



 え? 僕の方が先に動いていたの? 未来を見ながら必死に動いていたから全然気付かなかったよ。



「それにこの町に来る間に分けて貰った水。旅を始めて3日も経っていたのに汲み立てのように冷たかったから、そのバックの中身の異常性に目が行きますよ」



 ……それが当たり前に使っていたから全然意識していなかった。



「シン君が試験で最初に剣を受けた時、少しも体に力が入っていなかったよね? どんなに力持ちの人でも、剣を叩きつけられたら足に力が入るもんなんだよ。それが起こらないって事は、物理法則から外れた力……つまり魔法を使ったって事だよ」



 剣が当たったところじゃなくて、足の筋肉を見られていたなんて……



「最後に試験後に叩き飛ばされた時、確実に剣が脇腹からめり込んでいました。どんなに骨が丈夫な人でも、あの状態で無傷はありえません。わたしから見ても、すぐにミーシャさんと変わって回復魔法が必要だと判断したぐらいですから」



 《自動修復(オートリカバー)》は死に近いダメージを受けるほど無意識に出ちゃうから、制御が効かない時があるんだよ……今後はもっと注意しないとな。



「まあ、戦いの後は魔力切れの症状が出ていたのが決定的でしたが。ただ解らないのは1つ1つの現象を魔法で説明付ける事は可能ですが、どう考えても複数の属性を持たないと説明がつきません。それに一般的な属性の魔法を使えるなら、わたし達に頼らないでも戦闘を避けてこの町まで来る事が可能でしょう。

 つまり、シンさんの魔法属性は他に例がない魔法、ユニーク魔法となりますね」



 あれ? 僕は深く聞かないよっていったのに、お2人はずいぶんと核心近くまで踏み込んでおりませんか?



「でもそこから先が全然分からないんだよね。避けて耐えて回復まで出来る属性って何って話で止まってるの。ねえ、シン君の魔法属性って何?」


「フ、フフフ、ぼ、僕はミステリアスな男だからね。ひ、秘密は抱えておかないと」


「それぐらい教えてくれてもいいのではありませんか、変態さん」



 変態さんって……不味い! 黒マリアが出始めた!?



「いや、魔法は僕の切り札的な物で……その、誰だろうとバレるのは不味いと言いますか」


「わたしの裸はしっかり見ておきながら、そんな事も教えてくれないんですか変態さん」


「あれは事故と言いますか……」


「でも細部まで覚えているって言いましたよね?」


「でも……」


「わたし、男性に裸を見られたのは初めてだったのに、うぅ……」



 黒マリアはわざとらしく座り込み、泣いているように顔を下に向けた。



「なら代わりに僕の裸を!」


「そんなのは必要ありません。女性の前で裸を見せようなんて、いったい何を考えているんですか? 馬鹿ですか? 露出狂ですか? やっぱり変態さんですね」



 ちょっと冗談を言って場を和ませようとしたらこれかよ! やはりさっきのは嘘泣きだったか。


 僕は場の流れを変えようとしたが、黒マリアさんの絶対零度の冷たい言葉に見事に返り討ちにあった。まあ、裸を見てしまったのはマリアのミスが原因だったが、それでも僕が一方的に見たのは確かなので強く言えない。



「マリアー、もうあの時の事は許したんじゃないの?」



 お!? ここでミーシャさんの援護が来た!



「ミーシャさん、女性の裸は男性に見せて回る物ではありません。唯一見せて良いのは夫となる人だけなんです。だから例えわたしが許したとしても、変態さんの罪は消えたりしません」



 怒っていないならもう許してくれてもいいのでは? とも思ったりもしたが、それを僕の口から言えるはずもないので黙っておく。

 ただ、ミーシャさん頑張ってとだけ応援しておこう。



「なら答えは簡単。シン君とマリアが結婚すれば良いだけじゃん」


「「 はい!? 」」



 予想外の解決策がミーシャさんから打ち出されたよ! 僕とマリアが結婚だって? 


 落ち着け、落ち着け……相手はまだ子供だし、僕の事を何とも思っていないような言動のマリアだぞ。いくら僕が彼女いない歴 = 年齢だからって、日本で言えば小学生と結婚すればと言われて動揺するのは不味い!


 きっとマリアは「何を馬鹿な事を」と冷めた顔をしているに違いない。そう思ってチラリと見てみると、そこには頬を赤く染めて俯いているマリアがいた。



「マリアがそこまで人に本音で話せるのってわたしとシン君だけだし、わたしから見ても仲良くやっていけると思うんだけど」


「少し黙っていてください。わたしは神託があったからシンさんと一緒にいるだけで、別にそれ以外の感情は……」


「うそ。今日、ゴブリンと戦っている時も、シン君がちゃんと依頼をこなせているかずっと心配していたじゃん」


「それは仲間として!? ━━もう良いです! 疲れたからわたしは寝ます! おやすみなさい」



 マリアは顔を上げる事無くベットに潜り込んだ。照れてるマリアは可愛いと思ったが、それを言ったら何倍にもなって噛みつかれると感じ、黙って僕も寝る事にした。

 それでも僕の頭の中は動揺していた。


 もしかして本当にマリアが僕の事を? いや、ミーシャさんにからかわれてて恥ずかしくなっただけでは? そんなに好感度が上がるイベントはなかったはずだし……駄目だ、判断がつかない。大体僕は彼女が出来た事がないから、女心が分からないよ。


 それに僕は彼女達の事をどう思っているんだ? 最初は距離を置きたい人達だったけど、ここまで仲良く話をしている今はどうだ? 恩は感じているから大事に思っているのかもしれないし。


 …………うーん、とりあえずこの町まで連れて来てくれた恩があるから、それを返してから考えてみるか。


 少々強引だが、僕はそう結論付けて寝る事にした。





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