13話 初依頼と過剰評価
昨日は身の丈に合わない宿に泊ったのに、マリアに謝り続けたせいで全然満喫できなかった。
と、言うか、この部屋にはベットは1つしかなかったので、僕は床で寝る事にしたんだよ。まあ、ミーシャさんは「一緒に寝ようよ」と言ってくれたが、マリアが一瞬体を守るような動きをしたので遠慮する事にしたんだ。
これ以上、マリアに変態さんと呼ばれたくないからね。
「さあ、今日から冒険者として、バリバリ依頼をこなしていくよ!」
ミーシャさんは朝から元気だった。宿を出て冒険者ギルドに向かうまでも、ウズウズして抑えが効かない感じが出てたしね。
「じゃあ、今日は昨日受ける事が出来なかったゴブリンの討伐依頼を……」
「僕はこの酒樽の運搬依頼を受けるので、今日は別行動ですね」
「へ?」
僕は当然のように別の依頼書を手に持ち、ミーシャさんが驚いて固まっている内に受付のお姉さんの所に行って、酒樽運搬の依頼書を提出する。
「これをお願いします」
「おはようございます。……酒樽の運搬ですが、これを受けるんですか?」
「はい。僕はまだこの町に慣れていませんから、少しでも町中を知れればと思いまして」
はい、嘘です。僕はモンスターと戦いたくないから、安全な仕事を選んだだけですよ。それに《ストレージ》の魔法があるから、運搬作業は天職なんだよね。
「そう言う事ですか。実はこの依頼は定期的に入るものなんですが、安い報酬の割に手間が掛かる内容なので、全然引き受けてくれる人がいなかったんですよ」
「では依頼の承認をお願いします。あ、ミーシャさんはゴブリン討伐の依頼を受けるようなので、後でお願いします」
よし! 依頼の承認が終わった。これでミーシャさんが文句を言って来ても取り消しが効かないぞ。それにチームを組んでいたとしても別々の依頼を受ける事が可能なのは知っている。
昨日ギルドから帰る時に受付のお姉さんに《冒険者ガイド》って本を貰ったので、細かい規約みたいな所は予習済みだ。
「ちょ、ちょっとシン君! なんでそんな依頼を受けるのよー。わたしと一緒にゴブリン退治に行こうよ」
「僕の事情は知っているでしょ? ミーシャさんと一緒に戦いに行ったら僕は見てるだけになりますから、こうやって二手に別れた方が効率良くお金を稼げるんですよ」
「それはそうかもしれないけどー……一緒に行動したかったな」
これこれミーシャさんや。そんな少しの時間も別れて行動するのが嫌だみたいな事を言うから、僕を睨む周りの男達の視線が殺人的な破壊力に上がってしまいましたよ。
「僕は僕で頑張りますから、ミーシャさんも油断せずに気をつけてくださいね」
この刺さるような視線に耐えれなくなった僕は、さっさと受付のお姉さんに簡単な地図を書いてもらい、逃げるようにギルドから出て行った。
「━━と、言う事で、冒険者ギルドから来ました」
依頼があった酒造所は冒険者ギルドから歩いて10分程の距離にあった。今回の依頼はこの酒造所から出来上がったお酒の入った樽を各酒場に運んで行くのが仕事だ。
「今回は依頼を受けてくれる冒険者がいたか。助かったよ」
中に入ると、すぐに1人の男性が近づいて来て歓迎してくれた。どうやら依頼を受けてくれる人がいなかった時は忙しい中で配達まで自分達でしないといけないようで、安堵の笑顔で配達先と物の説明をしてくれた。
酒樽は1つ50キロぐらいの重さがあるだろう。それが10個ほどあるのだが、依頼は5つ配達で成功で、その先は追加報酬として支払ってくれるとの事だ。
日本なら1つ50キロの物を運搬するのに1人で来たら馬鹿かと追い返されるだろう。だがこの世界にはレベルという神の恩恵があり、ほぼ全員が見た目以上に力持ちだ。
ほぼって言ったのは僕みたいな例外が他にもいるかもって意味だよ。
なので、モンスターと戦うのが主な仕事になる冒険者は、他の人よりレベルが高くもちろん力も強い。そんな冒険者が来たのだから、依頼人もとくに不思議に思わず歓迎してくれたのだ。
「それじゃあ、任せたよ。無理をしなくても良いから、ゆっくりとやってくれ」
依頼人は仕事に戻って行ったのが、配達先の地図と届け先でサインを貰う事は教えてもらったので仕事を開始する。僕の魔法は他人に見られたくないので、周りに人がいない事を確認してからストレージに酒樽を全部放り込み、僕は手ぶらで配達先に歩き始めた。
やっぱ、この魔法は便利だよね。
僕は地図に書かれた近い場所から向かって行った。慌てる必要がないのでゆっくりと歩いて周ったが、それでも半日も掛からないで仕事は終わってしまう。
「すみません。配達が終わったんで終了の確認をお願いします」
「はい? いや、1つじゃなくて出来るだけ運んでほしいんだけど」
「はい。ですから置いてあった10個全部終わったので……あ、これが配達先での確認のサインです」
「うそ? あれ全部をこの時間で運んだの?」
依頼人の驚く声は周りの作業員にも聞こえたようで、全員が作業の手を止めてこっちを見ている。そして僕が貰って来たサインを確認し、さらに驚いてしまう。
ああそうか。普通は何度も酒造所と酒場を往復しないといけないから、走って配達出来たとしてもこの時間で終わるはずがないよね。
僕は手ぶらで一往復で終了だけど。
「僕ってこういう仕事が得意なんですよ」
「そうなんです、か? 確かにサインは本物ですし……はい、依頼は完了です」
よし、半日で終わったから、もう1つ別の依頼を受けれるぞ。稼げるときに稼いでおかないと、何かあった時に困っちゃうからな。
……あれ? モンスターと戦わない依頼って、村で働いていた時より効率が良くないか?
冒険者ギルドに戻って来る間、冒険者稼業も良いかもと思ってしまった。
「受付のお姉さん。依頼が完了したので確認をお願いします」
「え? もう終わったんですか?」
僕は依頼人から貰った修了証を渡して確認してもらう。こんなに早く終わらせられた方法を聞かれたが、適当に誤魔化して次の依頼を選びに行く。
次はこれにするか。
僕が選んだ依頼は、家の取り壊し作業の手伝いだ。
「昼からですみませんが、依頼を受けてきました」
こっちの依頼場所はさっきより遠かったので、到着したのは午後2時を回っている。昼食は移動しながら終わらせたので、少し横っ腹が痛い。
「別にいつ来てもらっても構わんよ。この依頼はその日に解体し終わった割合で報酬を支払っているからな」
「それなら日が暮れるまでの時間、出来る限りで構わないって事ですね」
「そう言う事だ。まあ、早く解体が終わればその分新築を建て始めるのが早まるから、こっちとしては助かるがな」
「なら出来るだけ頑張ります。……それと今回は解体との事ですが、資材の再利用の予定はありますか?」
「いや、見ての通り古くてボロボロになってるからな。碌な資材が残らないだろうから、気にしないで好きに壊してくれて構わん」
それを聞いて安心した。僕1人じゃ、細かい作業なんて出来ないもんね。
「分かりました。それでは作業に入ります」
「ああ、頼んだよ」
僕は取り壊す家を見て少し考える。力のある冒険者ならハンマーなどを使って叩き壊す事が可能だろうが、レベル1の僕がやるとどれだけ時間が掛かるか分からない。
日本で見たような重機があれば1人でも余裕かもしれないが、無い物ねだりはやめておこう。
今の力で出来る事をやろう。なのでまずはグルリと一周回って確認して見る。どうやら柱を打ち込むのではなく、大きい石の上に立てているだけのようだ。
つまり家自体は置いてあるだけとも言える。
「解体資材はいらないって言ってたし、上手くいけばストレージに放り込めるかも」
はい、目の前の家が一瞬で消えてしまいました。いらない物は無制限アイテムボックスにポイって裏技は使えるな。きっとゲームならアイテム欄に《古民家》みたいに表示されるんだろうね。
なんてどうでも良い事を考えていたけど、作業は一瞬で終了しちゃったよ。
「んー、流石にもう終わりましたと報告に行くのは異常過ぎるからな。ちょっとこの辺りでも見て時間をつぶすか」
知らない町、知らない場所。ここまで歩いて来る間に人々に笑顔と活気があった事から、この辺りは治安が良いと判断して散歩して回る。
食堂や八百屋などの店が並び、武器屋などもあった。武器屋の前では呼び込みのお兄さんに声を掛けられたが、抜き身の刃なんて見るだけで気分が悪くなるので、丁重にお断りをさせてもらった。
それに宿やギルドから離れた店で買うぐらいなら、もっと近場で済ませるよ。僕には関係ないけど、武器を使えば手入れは必要になるだろうから、近い店の方が何かと便利だろうしね。
そう言えばミーシャさんの使っている剣って、かなり状態が悪かったけど手入れをしないと駄目なんじゃないのかな? まあ、元が悪いからもう買い替える予定なのかもしれないし、今日帰ったら聞いてみよう。
時間で言えば午後4時を回った頃。散歩を終わらせて依頼場所に戻ってみると、そこには固まっていた依頼人が立っていた。
「すみません。今、呼びに行こうと思っていたんです」
サボっていた訳じゃないよ。時間を潰していただけですよ。……あれ? これってやっぱりサボりって言うのかな?
「ちょっと予定より早く終わったので、少し休憩をしていたと言いますか、その、気分転換をしていたと言いますか……」
僕は何も言われていないのに言い訳から入ってしまう。その声に反応してか、依頼人はゆっくりとこっちに振り向いて来た。
「あの、その……」
「取り壊しを頼んだ家はどうなったんだ? 解体後のゴミは? それも始末してくれたって言うのかい?」
あれ? サボっていた事を怒っていない?
「そうです。まだ日が暮れるまで時間がありましたので、解体したゴミを捨てに行っていました。はい」
少しも真実はないが、依頼人がそう勘違いしてくれたので僕から本当の事を言う必要はないと判断し、嘘をついて誤魔化しに入る。
良く考えてみないでも、家が立っていた場所がさら地になればゴミの問題が出て来るのは当然じゃないか。まったく、少し考えてみれば分かる事なのに僕の馬鹿。
「す、凄く早い作業だ。今まで何人も冒険者を見て来たが、ここまで早く終わらせた者はいなかった。君は高レベルの優秀な冒険者だったんだね」
おや? なんか変な方向で僕を拡大解釈していませんか? 僕はちょっと特殊な属性の魔法を持っているだけですよ。
「いえいえ、僕なんてまだまだですよ。チームメイトに迷惑をかけてばっかりなんで、Gランクの依頼から受けようと思っただけで……」
「素晴らしい! それだけの実力を持ちながら基本に戻って下位の依頼で自分を見つめ直そうなんて、なかなか考えられる事じゃないよ。君みたいな人に今後も依頼を頼みたいが、優秀な冒険者には難易度の高い依頼が待っている。君の実力で困っている依頼人の悩みを解決して上げてくれ」
あっれー? ますます僕の評価が急上昇してない? 僕はGランクの新米冒険者ですよ? しかもモンスターと戦うのが怖い、レベル1の貧弱冒険者ですよ。
うう、依頼人さんがここまで興奮していると、今更本当の事は言えないよね。うん、別に近所の人って訳でもないし、ここは適当に聞かなかった事にしよう。
その後も尊敬の目と称賛に心を痛めながらもなかなか終わらない話に耐え抜き、なんとか修了証を受け取ってギルドに戻る事が出来た。
ハッキリ言って今日一番疲れたよ。




