11話 レベル1の冒険者
「それではまず、ギルドカードの登録から行ないますね」
受付に戻って来た僕達の前に、2枚の金属製のカードが差し出された。見た感じ何も書かれていなし、普通の金属板にしか見えなかった。
「これがギルドカードですか?」
「そうですよ。ですがまだ登録が終わっていませんので、普通の金属板にしか見えないでしょうね」
同じように疑問に思う人が他にもいたんだろうね。受付のお姉さんは慣れたように説明してくれた。
「まずはこの板に手を置いて魔力を流してください。……魔力の存在は感じられますよね?」
「僕は大丈夫です」
「わたしも大丈夫だよ」
お姉さんには魔法を使える事を隠しているので、魔力を扱えない可能性を心配させてしまったようだ。でも僕達は魔法を使えるので問題はなかった。
僕達は言われたとおりに手を置き、少量の魔力を流してみる。とくに変化があったようには見えなかったが、手を離してみると、そこには文字が浮かび上がっていた。
シン レベル 1 冒険者ランク G
ミーシャ レベル 12 冒険者ランク G
「無事登録が終わったようですね。……シンさんは本当にレベル1だったんですね。それであの打たれ強さ……謎です」
「まあ、それはいいじゃないですか。それより冒険者ランクってなんですか?」
僕自身は本当は打たれ弱いですよ。体も心もね。でもお姉さんの疑問に答えるには魔法の説明をしないといけないので、ここは話を逸らす事にする。
「冒険者ランクは、ようはどれだけ冒険者ギルドに貢献したかの基準ですね。一番上がSランクで、次はAから順に下がっていき、登録したての人がGランクとなります。もちろんランクが高いほど信用も上がっていきますので、店などで割引や融通が効き易くなりますね」
つまりランクが高いと仕事も探しやすいって事ですね。まあ、身分を証明するカードさえ手に入ってしまえば、僕にはランクなんて関係ないけどね。
「それでランクはどうやったら上がるの?」
「はい。冒険者ランクはギルド内に張り出されている依頼を達成していく事で上がります。詳しく説明しますと、依頼にもランクがあり、自分のランクより1つ上の依頼しか受ける事は出来ません。依頼の失敗はギルドの名前を汚す事になりますから、実力と信用をつけてからでないと上の依頼は許可が下りません。Fランクに上がる条件は、Fランクの依頼を連続2回達成するか、Gランクの依頼を10回達成するかのどちらかですね。ただ先に言っておきますが、チームで依頼を受けた場合は、その人数で達成数が割られますので注意してくださいね」
「え? どういう事?」
「つまり僕とミーシャさんがチームで依頼を受け続けた状態で上のランクに上がるには、同ランクの依頼なら20回達成しないといけないって事だよ」
「シンさんはなかなか計算が早いですね。剣の腕を見る限り、冒険者より商売をやった方が向いてそうですね」
僕もそう思いますよ。むしろ争い事はノーサンキューです。
「最後に注意事項ですが、ギルドカードを紛失したり破損した場合は再発行にお金が掛かります。それと新人冒険者は登録後、2週間以内にFランクに昇格しないと除名処分になりますから気をつけてください」
「え!?」
「その後のFランクも1か月間依頼を達成しなかった場合は、やる気なしと見なされて除名となります。ただ、怪我などで依頼を受けれない時は、申請さえすれば特例として認められているので安心してください」
要約すると、Fランクは1か月、Eランクは2か月、Dランクは3か月となり、Cランクは6か月まで伸びる。そしてBランクからは引退しない限り、除名にはならないらしい。
そんな先の事より今の問題は2週間以内にランクを上げないといけない事だ。僕の予定では冒険者稼業は一切手を出さず、町中で住み込みの仕事をするつもりだった。だったのにー!!!
僕はお姉さんの説明を聞きながら、心の中でガックリと膝をついて落ち込んでいた。
「シンくーん。まずはこの依頼を受けてみようよ」
いつの間にかにお姉さんの説明は終わっていた。ショックで固まっていた僕をほおって置いて、ミーシャさんが一枚の依頼書を持ってきた。聞くとすでにチーム登録まで終わらせていたようだ。
そして持ってきた依頼内容はゴブリン退治だった。
……なんでよりもよってモンスター退治を選ぶかな? その手の依頼は完全に僕がお荷物になるから、やめてほしいんだけど……
それに周りの男達の怨念を込められた視線が痛いです。って言うか、声も聞こえてきますよ。「いちゃつくなら他の場所でやれ」とか、「男だけくたばっちまえ!」とか、主に僕にだけ向けられた声がね。
これってその内ギルドの外で襲われそうなレベルだよね? 僕って冒険者になってから、ますます命の危険に晒されてない? 僕もリア充爆発しろとか思っていた時もあったけど、まさか言われる立場になるとは……。
そんな事を考えていると、ミーシャさんは受付に依頼書を持って行こうとしていた。
「ちょっと待ってください。今日はもう遅いですし、この町での拠点となる宿を探さないといけません。ところで受付のお姉さん、この付近でお勧めの宿って何処かな? 僕達、あまりお金に余裕がなくって」
「そうですね……安いだけの宿と料金は普通ですが料理が美味しい宿がありますが、どちらにします?」
お金の事を考えるなら安い宿だけど、見知らぬ町に来たばっかりだから少しは安全な宿に泊まりたいな。
そう伝えると、普通の料金の宿の場所を教えてもらえた。
「あと、これがこの町に来るまでに集めた魔石です。買い取りをお願いします」
冒険者ギルドはモンスターから取れる魔石の買い取りもしてくれる。魔石は魔力を秘めているので、灯りなどの燃料として使われる。
日本で言えば電池のような物だが、特別な術式を行う事で魔石自体が発光したり水を出したり出来るようになり、市民生活に切っても切り離せない物となっていた。
「これらの魔石は、全部合わせて千ゴールドとなります」
だいたい魔石は20個ほどあったはずなので、1個50ゴールドみたいだ。ゴールドとはこの世界のお金の単位で、1ゴールド100円ぐらいの価値があるので、約10万円の稼ぎってところだ。
ただこのお金はミーシャさんが1人で倒したモンスターの魔石なので、僕は受け取るつもりはない。
「えー、仲間なんだから、半分に分けようよ」
「それは出来ません。僕は戦っていないし、どちらかと言えば守ってもらっただけですから」
お金は欲しいですよ。それでもここでお金を受け取ってしまったら、僕は本当にヒモ男になってしまう。
命懸けで守るようなプライドはないが、まだ少しでも余裕がある内は自力でどうにかしたいと思っているんですよ。
依頼は受けないが、僕も依頼書を調べておく事にする。
Gランク依頼
・町の清掃
・酒樽の運搬
・家の取り壊しの手伝い
・鉱山での荷物持ち
・ブルースライムの討伐
Fランク依頼
・ゴブリンの討伐
・新鮮なワイルドウルフの死体の入手
・薬草の採取
・鉱山での護衛
・ホーンラビットの討伐
・ターザンモンキーの討伐
なるほど、Gランクの依頼はほとんど町中で行なえるものか。1つだけある討伐依頼もブルースライムと言うゼリー状の最弱モンスターが相手だし、僕でも何とかなる依頼ばっかりだ。
ちなみにブルースライムとは動きも遅く、人を襲う事はほとんどないのだが、どんな作物でも食べるので地味に嫌われているモンスターだ。
Fランクの依頼にあるモンスターはこの町に来るまでに楽に倒して来れたレベルなので、ミーシャさんにかかれば余裕だろう。
僕が受けれるとしたら薬草の採取だけだね。もちろんモンスターが現れたらすぐに逃げ出すよ。でも良かった……僕でも受けれる依頼があるよ。これで冒険者を続けながら仕事をする事が出来そうだ。
この二つのランクの依頼はほとんどが町からの依頼なので、常時張り出されている。つまり食いぶちを稼ぐ事が何時でも可能と言う事だ。
内容に満足した僕は、ミーシャさんに声を掛けて宿に向かう事にする。
「それでは今日は宿に向かいます。今後もお世話になると思うので、よろしくお願いします」
「いえ、あなた方がギルドにとって必要な存在になる事を期待しています」
僕達は受付のお姉さんに一言かけて冒険者ギルドを後にした。




