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10話 盾と治癒

ブックマークありがとうございます。

「す、凄いですね。まさかそこまでの実力を持ちながら、まだフリーの人がいるなんて思いませんでした」



 受付のお姉さんもミーシャさんの戦いに驚きを隠せないでいたようだ。そりゃ、これだけの実力を持っていてその力を生かす仕事に着いていなかったのだから、お姉さんも驚くよね。


 やっぱりミーシャさんの実力ってレベル以上のものがあるよな。昨日もそうだけど、あまりに圧倒的過ぎる気がする。



「やったよシン君! わたしは一足先に合格だよ」


「おめでとうございます。でも試験官の人が怪我をしてしまったようだけど、僕の試験はどうなります?」



 試験官の人は今も肩を押さえて痛がっている。この状態だと流石に続行は不可能だと思い、受付のお姉さんに問いかけた。



「そうですね。この場合は仕方がありませんから、代わりにわたしが相手をしましょう」



 そう言って受付のお姉さんは試験官の人から刃を殺した剣を受け取る。



「え!? お姉さんが僕の対戦相手? ここは回復魔法でもかけてもらって、試験官の人に頑張ってもらいましょうよ!」



 僕はもうお姉さんのレベルを見ているので、決して戦えないと思っていない。何しろ彼女のレベルは12で、ミーシャさんと同じなのだ。

 ただ僕が嫌がっていたのは、女の人に木刀とは言え剣を向けるのは気が引けるからだ。



「安心してください。例え勝てないとしても、ある程度の将来性を見せてもらえれば合格にしますから。それに1つ言っておきますが、回復魔法の使い手は少ないんです。もちろんタダで治療してくれるわけではないので、それなりに大金が必要となります。ですので、彼がすぐに回復する事はありませんので諦めてください」


「で、でも……」


「わたしは受付の仕事をしていますが、これでも冒険者でもあります。ですので遠慮なく掛かってきてください」



 ……見た目から絶対スピードタイプの人だよね。うーん、相手の動きが分かっても対応できないと勝ち目がないんだよな……


 これは目だけでは無理かな。



「それでは何時かかってきてくれても構いません」



 お姉さんはやる気満々だよ。



「シンくーん。ビシッと決めて一緒に冒険者だよ!」


「ハハ、ミーシャさんは気楽に言ってくれるよな。でも……確かに冒険者になるしか生活費を稼げないし、頑張りますか!」



 僕は木刀を持って走り出す。お姉さんは「え!?」っと小さく呟き、少し拍子抜けをしたように表情が崩れる。

 分かりますよ、僕の動きの遅さに驚いたんですよね? まあ、ミーシャさんと一緒にいるんだから、同じぐらいの実力だと想定していたのは想像がつきますよ。


 勢いや力もなく、狙いも曖昧な木刀はあっさりお姉さんに受け流される。そのまま僕の後ろに回って剣を振り下ろしてくるが、その行動は分かっていたので見もしないで木刀で弾き飛ばす。



「え?」



 お姉さんはまさか弾かれるとは思っていなかったようで、声を上げて驚いている。今の攻防で少し本気にさせてしまったようでお姉さんの攻撃のスピードが上がったが、まだ先に動く事でなんとか避ける事が出来る。

 でも僕が攻撃をする余裕がなくなってしまった。


 攻撃を避け続けられる事で、少しづつ苛立ちが増していくお姉さんの攻撃は雑になっていく。ような気がする。さっきから攻撃のスピードが上がっていない事から考えて、ミーシャさんに比べるとやはり剣速は遅い。



「いい加減に!」



 力の込められた大振りの一撃。


 これ待っていました!


 僕は一歩前に出ながらも木刀で受けず、わざと肩で鉄の剣を受ける。その直撃の瞬間に僕は魔法を使う。


 お姉さんはこれで終わりと勝ちを確信しただろう。だが、振り下ろされた剣はまるで巨大な鉄の塊に弾き返されるような感触に襲われる。想像すら出来なかった手応えに驚愕するお姉さんを無視して、僕は木刀を相手の首筋に当てる。

 もちろんそっと当てただけですよ。女性に傷を残すような事をするのは嫌ですからね。



「これが真剣なら僕の勝ちですね」



 もちろんハッタリです。真剣ならって、僕は真剣を持ったら気持ち悪くなって動けなくなるからね。



「な、なんなの今の手応えは!? まるで鉄の壁を叩くような……いえ、それ以上に不動の何か……?」


「あのーお姉さん? 大丈夫ですか?」


「は!?」



 茫然として声にも反応がなかったので僕が肩に手を置いたら、ビックリして剣を振り上げてきた。



「ぎゃっ!?」



 僕は完全に気を抜いていたので、胸に直撃を受けて骨が砕かれる音と共に吹っ飛んでしまう。



「シン君!? ちょっと! 心配してくれた人にいきなり攻撃するってどういうつもりよ! シン君はレベル1なんだから、まともに攻撃を受けたら簡単に死んじゃうんだよ!」


「え!? レ、レベル1? だってわたしの攻撃をしっかり避けてたし、攻撃だって弾かれて……え、ええ???」



 お姉さんは僕のレベルを聞いて更に驚いていた。でも、驚く前に僕の心配をしてほしいな。刃を殺しているとはいえ、鉄の塊で殴られたから骨が何本か砕けちゃったよ。


 さっきの攻防では魔法を使ったから弾き返せただけで、もろに攻撃を受ければこれぐらいのダメージは当たり前ですよ。

 ちなみにさっき使った魔法は、服の一部の時を止めただけ。時間の流れから取り残された物は、あらゆる力が流れる事はないのだ。

 つまりこの守りを越える為には、時間の壁を打ち砕くほどの非常識な力が必要になる。無敵の防御魔法に見えるかもしれないが、この魔法には多大なMPを消費する。なので一瞬でしかも一部にしか使えず、ヴィジョンアイで動きが分かっていないとタイミングが掴めない使い難さがある。


 この魔法は<静止した究極盾(フリーズ オブ イージス)>と名付けている。


 でも魔法名は声に出さないよ。もう高校生なのに中二病なんて言われたくないからね。



 そして今、もう一つの魔法が発動した。



「あー、ビックリした。お姉さん、驚いたからって剣を振り回すのはやめてくださいよ。僕のHPはかなり低いんですから……」


「シン君大丈夫だったの? 骨が折れたような音がしたと思ったけど?」



 確かに折れましたよ。折れたって言うか、砕けて内臓もだいぶダメージを受けましたね。さすがにそのままでは死んでしまうので、魔法が発動してしまったよ。


 魔法名、<自動修復(オートリカバー)>。怪我をした場所の時が巻き戻って、ダメージを受ける前の状態になるのだ。

 この魔法は自分の怪我を治す事で練習をしていたのだが、いつの間にかに意識をしないでも瀕死の重傷を負えば自動的に発動するようになったのだ。だから自動修復(オートリカバー)って訳だ。


 ただこの魔法もMPを多く使うので多用は出来ないし、バレたらMPが尽きるまで繰り返し攻撃されてピンチを乗り切る事が出来なくなるので、誰にも知られたくない魔法の1つだ。



「僕は大丈夫ですよ。剣が当たる瞬間に後ろに跳びましたから」



 もちろん嘘ですよ。見事にお姉さんの力で吹き飛ばされましたからね。



「……そうなんだ。わたしにはそうは見えなかったけど、シン君がそう言うならそうなんだろうね」



 流石ミーシャさん。普段は簡単に嘘に騙されるのに、戦いに関する事は鋭いな。完全に僕が嘘を着いている事に気付いているよ。こういう時のミーシャさんの目って獲物を見るように鋭くなるから、ゾクッとするんだよな……。

 たぶんマリアにこの場はそう言う事にしておきましょう、とでも言われたのだろうね。



「それで受付のお姉さん。僕の試験は合格で良いんですか?」


「え、ええ。何が起こったか分かりませんが、冒険者としてやっていけるだけの実力を持っていると判断出来ます。2人共合格です」


「良かったー。これで安全な仕事につけれるぞ!」



 正直、もうMPが尽きかけているから気ダルイんだけど、第一関門を突破出来た事は嬉しかった。



「それではギルドカードを作りますので、受付に戻りましょう」



 お姉さんは準備があるので先に戻っていく。その後を追うように歩き始めたミーシャさんの足取りは軽く、僕は重い足を強引に動かして着いて行った。

 


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