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第三国選勇者パーティ

「会います」


レオンは言った。


ラウリュセリエンは窓の外を見たまま、振り返らなかった。


「誰に?」


「アルトたちに」


「そうですか」


「いいんですか?」


「なぜ、私に尋ねるのです?」


レオンは一瞬、言葉に詰まった。


「……ここは陛下の領地なので」


「では、許可します」


簡単だった。


ガレスが壁から背を離す。


「俺も行く」


「私も」


ミリアが続く。


カイも立ち上がった。


「俺も行きます」


「カイは残っていても――」


「行きます」


「そうですか」


レオンはそれ以上言わなかった。


ラウリュセリエンがシルヴァレシエルを見る。


二人は短くエルフ語を交わした。


レオンには意味が分かった。


ガレスにも。


「北西の境まで案内するそうです」


レオンがミリアとカイへ訳した。


「女王様は?」


ミリアが訊く。


「来るそうです」


「陛下が?」


ガレスが少し驚いた。


ラウリュセリエンはようやく振り返る。


「国選第三勇者パーティが正式に我々の領域を訪れたのでしょう?」


「まあ……そうですけど」


「ならば、私が話すべきです」


*


森を戻る。


来た時とは違う道だった。


少なくとも。


レオンにはそう思えた。


「シルヴァレシエル」


「何でしょう」


「この道、さっきはありませんでしたよね?」


「ありました」


「通っていないという意味です」


「そうですね」


「どこへ繋がっているんです?」


「北西です」


「それは分かります」


「では、何を尋ねているのです?」


レオンは黙った。


ガレスが笑った。


「諦めろ」


「質問が悪かっただけです」


「そういうところだぞ」


石畳が途中で消えた。


そこからは獣道のような細い道を歩く。


しばらくして。


シルヴァレシエルが止まった。


「ここから先は、人間の領域です」


何もない。


柵も。


壁も。


標識もない。


だが。


森の空気が僅かに変わった気がした。


そして。


その向こうに三人がいた。


アルト。


リゼ。


セイル。


三人とも武器は身につけている。


だが、手には持っていない。


レオンとアルトの目が合った。


「……追いつくの早くないですか」


アルトがため息をつく。


「誰のせいだと思ってる」


「馬、速かったでしょう」


「お前らが置いていった馬だ」


「返すつもりでしたよ」


「どうやってだ」


「後で考えようと」


「レオン」


リゼが低い声で名前を呼んだ。


レオンは口を閉じる。


「ごめん」


「何に対して?」


「馬?」


「そこじゃない」


分かっている。


レオンは視線を逸らさなかった。


「拘束されるわけにはいかなかった」


「だから私たちと戦った?」


「通してくれなかったでしょう」


「当たり前でしょ」


アルトが一歩前へ出る。


その瞬間。


シルヴァレシエルが前へ出た。


アルトが止まる。


「これより先は、我々の領域です」


人間語だった。


「承知しています」


アルトは答える。


「我々は王国の命令を受けて来ました。レオン・アルヴェイン、ガレス・ヴァルガ、ミリア・エーベル、カイ・ベルナーの四名を拘束し、王都へ移送します」


「それは、あなた方の国の命令ですね」


「はい」


「我々の国の命令ではありません」


「それも承知しています」


アルトは頭を下げた。


「ですから、正式に身柄の引き渡しを要請します」


シルヴァレシエルが後ろを見る。


ラウリュセリエンが歩いてくる。


アルトたちの姿勢が変わった。


三人とも知っている。


当然だった。


「ラウリュセリエン陛下」


アルトが深く頭を下げる。


リゼとセイルも続いた。


女王は三人を見る。


「アルト・レーヴェン」


アルトが顔を上げた。


「リゼ・カルディア。セイル・オルデン」


三人の表情が僅かに動く。


「覚えておられたのですか」


「以前、お会いしました」


「数年前に一度だけです」


「ええ」


それで終わった。


ラウリュセリエンにとっては、忘れる理由にならないらしい。


「要請は聞きました」


女王が言った。


「お断りします」


アルトの顔が引き締まる。


「理由を伺っても?」


「彼らが持ち込んだ情報は、我々の安全にも関係する可能性があります。調査が終わっていません」


「彼らは王国法に違反しています」


「そうでしょうね」


「レオンは正式な拘束命令から逃亡しました」


「聞いています」


「王国軍の馬も奪った」


レオンが口を開く。


「それは――」


ミリアに腕を掴まれた。


黙る。


「ですから」


アルトは続ける。


「彼らの身柄は王国へ戻されるべきです」


「なぜ?」


アルトが止まった。


「……王国民だからです」


「それは、王国が彼らを拘束する理由でしょう」


ラウリュセリエンの声は変わらない。


「我々が引き渡す理由ではありません」


「両国の関係があります」


「あります」


「彼らを匿えば、王国政府は――」


「抗議するでしょう」


先に言われた。


アルトが黙る。


「その抗議は受けます」


「外交問題になります」


「それも受けます」


何でもないことのように。


女王は言った。


「そのうえで、引き渡しません」


レオンは横顔を見る。


王国の怒りを軽視しているわけではない。


理解したうえで。


それでも。


必要なら受けると言っている。


「一つ、確認させてください」


セイルが初めて口を開いた。


「彼らを保護するという判断は、レオンの証言を信用したからですか?」


「いいえ」


レオンが女王を見る。


即答だった。


「では?」


「信用する必要がありません」


セイルの眉が動く。


「彼らが持ち込んだ物品と、我々の記録との間に確認すべき類似があります」


「それは何です?」


「答えません」


「なぜ?」


「あなた方に知らせる必要がないからです」


セイルが黙った。


レオンは少しだけ同情した。


自分も何度もやられた。


「では」


リゼがレオンを見る。


「レオン本人とは話せますか」


「本人が望むなら」


視線が集まる。


レオンは前へ出た。


ラウリュセリエンたちから少し離れる。


アルトたちも近づいた。


境界を挟んで。


昔の四人が向き合う。


「帰ってこい」


アルトが言った。


「嫌です」


「即答するな」


「考えました」


「何秒だ」


「ここに来るまでずっとです」


リゼが腕を組む。


「エルフに匿ってもらって、その次は?」


「北東へ行きます」


「北東?」


セイルが反応する。


「山脈へ」


アルトの表情が変わる。


「ドワーフ領か」


「はい」


「何をしに?」


レオンは一瞬迷った。


全部は言えない。


だが。


何も言わなければ。


また同じだ。


「魔導器にある異常な構造について、古い記録が見つかりました」


三人は黙って聞く。


「似たものが、六百年以上前にも存在した可能性があります。その時に使われた道具を作ったのが、ドワーフだったらしい」


「それを調べる?」


「はい」


「戦争中だぞ」


「だからです」


アルトが眉を寄せる。


「王都へ戻れば調べられる」


「王都へ戻ったら、俺は拘束されます」


「拘束されたまま説明しろと言ってる」


「その説明が届く相手を信用できない」


「またそれか」


アルトの声が低くなる。


「レオン」


「何です?」


「お前は、自分で確かめないと気が済まないだけじゃないのか」


言葉が。


刺さった。


「違う」


反射的に答えた。


だが。


続きが出なかった。


アルトはレオンを見ている。


「本当に?」


「……それだけじゃない」


「それだけじゃない、か」


「でも、確かめる必要はあります」


「誰にとって?」


レオンは答えない。


リゼが静かに言った。


「昔もそうだった」


「……」


「分からないことがあると、寝ないで調べた。止めても聞かなかった」


「それで助かったこともあったでしょう」


「あった」


リゼは否定しなかった。


「だから困ってるの」


レオンが顔を上げる。


「あなたは、間違っているから止められているわけじゃない」


「じゃあ」


「正しいかもしれない。でも、それと勝手にやっていいことは別でしょう」


レオンは。


何も返せなかった。


「それでも」


しばらくして言う。


「行きます」


アルトが目を閉じた。


「そうか」


「すみません」


「謝るくらいなら――」


言いかけてやめた。


「いや。いい」


アルトが一歩下がる。


「今日は引く」


リゼが彼を見る。


「アルト」


「ここから先へ入れば、話が変わる」


森を見る。


「俺たちは王国の勇者だ。他国へ勝手に踏み込むわけにはいかない」


レオンは少し驚いた。


「追ってこないんですか?」


「嬉しそうに言うな」


「いや、別に」


「国境で待つ」


アルトは言った。


「お前が出てくるまで」


「いつ出るか分かりませんよ」


「待つ」


「ドワーフ領へ行くんですけど」


「なら、出入口を調べる」


「暇なんですか?」


「お前を捕まえるのが今の任務だ!」


久しぶりに。


アルトが怒鳴った。


昔と同じ声だった。


レオンは。


少し笑った。


「何笑ってる」


「いえ」


アルトは苛立った顔のまま背を向けた。


リゼも続く。


セイルだけが残った。


「レオン」


「何です?」


「一つだけ」


「はい」


「黒魔術は、もう使うな」


レオンは答えなかった。


セイルはそれを見て。


何も言わず、背を向けた。


*


帰り道。


カイが訊いた。


「仲がいいんですね」


「今のを見て、そう思いました?」


「はい」


レオンは少し考える。


「そうですか」


「仲が悪かったら、あそこまで怒らないでしょう」


ガレスが笑う。


「坊主にしては分かってるじゃねえか」


「坊主じゃないです」


ミリアがレオンを見る。


「どうするの?」


「何が?」


「本当にドワーフ領へ行く?」


「行きます」


「王都は?」


「その後です」


「戦争は待ってくれないわよ」


「分かっています」


レオンは前を見る。


「だから、長居はできない」


前を歩いていたラウリュセリエンが止まった。


「長居?」


振り返る。


「はい」


「どの程度を?」


「できれば明日には出たいです」


女王は少し考える。


「急ぎますね」


「戦争中なので」


「ええ」


また歩き始める。


「我々がドワーフへ使者を送ったのは、十四年前です」


レオンが止まりかける。


「十四年?」


「返答はまだありません」


カイが目を丸くする。


「……それ、届いてるんですか?」


「届いています」


「返事がない?」


「いいえ」


「十四年間?」


「ええ」


レオンが額を押さえた。


「それは、無視されているのでは?」


「まだ分かりません」


「十四年ですよ?」


ラウリュセリエンが振り返る。


「レオン」


「はい」


「彼らはドワーフです」


「……はい、そうでした」


ガレスが吹き出した。


「嫌な予感しかしねえな」


「笑い事じゃないですよ」


「明日行くんだろ?」


「行きます」


「十四年返事してない連中のところに?」


「だから行くんでしょう」


ガレスが笑う。


レオンは無視した。


その時。


シルヴァレシエルが空を見る。


「雨が来ます」


カイも見上げる。


青空だった。


「本当に?」


「もう来ています」


「え?」


数秒後。


遠くの葉が鳴った。


音が。


こちらへ近づいてくる。


森の向こうから。


雨の壁が。


見えた。


「走りますよ」


レオンが言う。


シルヴァレシエルが不思議そうに見る。


「なぜ?」


「濡れるでしょう」


「濡れますね」


「だからです」


「戻れば乾きます」


レオンは一瞬。


言葉を失った。


ガレスが肩を叩く。


「諦めろ」


「いや、これは時間感覚とか以前の問題でしょう」


雨が。


四人を呑み込んだ。


*


夜。


借りた部屋で。


レオンは一人、古い記録の写しを見ていた。


六百年前。


魔力を結ぶ魔法。


魔導器。


黒い腕輪。


黒衣の魔族。


王立魔導技術局。


王都へ届かなかった三羽の伝書鳥。


拘束命令。


分からない。


まだ。


分からない。


窓の外では雨が降っている。


二時間前。


シルヴァレシエルは、青空を見てこれを知っていた。


レオンは紙へ視線を戻した。


知らないことはなくならない。


それでも、一つずつ確かめるしかない。


紙の端に新しい問いを書く。


六百年前の魔族の道具を、誰が作った?


その下に。


なぜ、現在の人間の魔導器に似た構造がある?


少し考えて。


三つ目。


俺を見たのは、誰だ?


ペンを置く。


明日。


山へ向かう。


ドワーフに会うために。


十四年も返事をしない連中が一日で話をしてくれることなど、レオンにはまったく期待できなかった。

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