王国からの誘い
戦いが終わり、村には静けさが戻っていた。
オークの死体が転がり、焦げた匂いが残る。
「……終わった、か」
ガレスが肩で息をする。
「マジでやばかったな……」
レオンもその場に座り込む。
「でも、勝てました……」
ルナがほっとしたように呟く。
その時だった。
「……見事だ」
低い声が、静寂を切り裂く。
「誰だ!!」
レオンが反射的に剣を構える。
気づかなかった。
そこに“いた”のに。
村の外れ。
木陰から、一人の男が姿を現す。
整った装備。
無駄のない動き。
(……強い)
直感で分かる。
「安心しろ。敵じゃない」
落ち着いた声で男は言う。
「先ほどの戦い——一部始終、見させてもらった」
「……見てただけか?」
レオンが睨む。
「任務中でな。軽率に介入はできなかった」
男は一歩、前に出る。
「だが——驚いた」
「ただの村人を、あそこまで動かすとは」
その視線が、俺に向く。
「……お前だな。指揮を執っていたのは」
一瞬、沈黙。
「……どうだろうな」
曖昧に返す。
だが男は、小さく笑った。
「隠す必要はない」
「俺は、敵じゃない」
「……所属を聞こうか」
ガレスが前に出る。
男は、わずかに頷いた。
「俺は——アルヴェリア王国軍、第三師団副官」
「ディルク・ヴァレンシュタイン」
その名を聞いた瞬間。
村人たちの空気が変わる。
「王国軍……!?」
「なんでこんなところに……」
「視察だ」
「……いや、正確には“確認”か」
ディルクは周囲を見渡す。
「この辺り一帯は、魔物の活動が活発化している」
「オーク程度で済めばいいが——」
「いずれ、もっと大きい波が来る」
空気が重くなる。
「……それで?」
俺は短く返す。
「単刀直入に言おう」
ディルクはまっすぐこちらを見る。
「力を貸してほしい」
静寂。
「……は?」
レオンが間の抜けた声を出す。
「この国は今、魔物の脅威に晒されている」
「各地で被害が出ているが——対処が追いついていない」
「だが、お前の力があれば」
「戦況は変わる」
はっきりと言い切る。
「……ずいぶん評価が高いな」
「事実だ」
迷いがない。
「少数を、あそこまで統率する能力」
「王国でも、そう多くはない」
(……王国レベルでも、か)
「条件は提示する」
「報酬、身分、拠点——望むものは用意しよう」
「どうだ」
「アルヴェリア王国のために、その力を使う気はないか」
静かに、問われる。
視線を上げる。
仲間たち。
村。
(30人……)
さっき手に入れた力。
(試すには、ちょうどいいか)
小さく息を吐く。
「……一つ聞く」
「なんだ」
「好きに動けるのか?」
一瞬だけ、ディルクの目が細まる。
「——内容次第だ」
「だが、お前の能力は尊重される」
「それは約束しよう」
少し考えて——
「……悪くない話だな」
そう、呟いた——その時だった。
視界に、違和感が走る。
(……?)
ディルクの体に、淡い光が重なって見えた。
今までと同じ。
仲間に向けた時に見える、“あの感覚”。
(まさか……)
意識を向ける。
瞬間——情報が流れ込む。
(統率対象:追加可能)
「……は?」
思わず、声が漏れた。
(なんでだ……)
明らかに、別格の存在。
(見えるのか……?)
さらに意識を向ける。
その瞬間——
視界が塗り替わった。
(能力値……桁が違う……)
圧倒的。
ガレスやレオンとは、比べ物にならない。
(……強すぎる)
思考が止まる。
「どうした?」
ディルクが不思議そうにこちらを見る。
「……いや」
ゆっくりと視線を外す。
だが、内心は——
(もし、こいつを動かせたら……)
ぞくり、と背筋が震える。
(この力は……どこまで通用する?)
小さく息を吐く。
——試してみる価値は、ある。
そして——
——戦場は、村の外へ広がる。




