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勿論、騒音に関する事件も幾つかあった。
やはり他の事件と同じように、いつの間にか加害者が消え、後に家屋内には不自然な何かが残されている…と言った具合である。
特集記事を読み終わると、クーラーによる冷気とは別種の寒気を感じ、残っていたワインを一気に呷った。
雑誌を閉じてテーブルの上に置く。
記者の書き方が上手いのか、それとも都市伝説と言う摩訶不思議な事象が持つ不気味さが原因か…寒気はなかなか弥生から離れてくれなかった。
書いた記者からは、してやったりと笑われそうで、少々癪だが……夏らしい企画ではある…と、弥生は意識を現実に向けようと抗ってみる。
とは言え、そろそろ眠らなければならない。既に0時を越え、日が変わってしまっていた。
感覚的には木曜のままだが、時間的には金曜で、起床後にはしっかり仕事が待っている。
クーラーの御休み設定をする為にリモコンを探す。就寝中にずっとクーラーがついたままだと、朝起きた時に身体の具合がどうにも宜しくないのだ。だるい…と言うか重い。
探し出したリモコンを手に設定のボタンを押していると、玄関の方から『タッタッタ』という軽い音が、小さく聞こえてきた。
多分、先刻追い出されていた上の階の子供の足音だろう。
少しずつ大きくなっているように聞こえるのは、弥生の部屋に近付いているからだと思われた。
上の階なのだし、何もこのフロアを通らなくても良いじゃないか…と、少々愚痴らしきものが脳裏を過る。
気持ち的に複雑なものがあるのは否めないが、可哀想なのも事実。しかし、弥生に出来る事は何もない。
安い同情心で関われば、こっちの生活が歪められ、最悪破壊されてしまう。そんな記事をネットの掲示板で見た事があるのだ。
途中止まったり、リズムの安定しない足音から意識を引き剥がし、弥生は明日の為に古い目覚まし時計をセットする。
テーブルの上のグラスやおつまみを片付け、電気を消してベッドに入った。
耳栓を手にして、装着しようとつまみあげる。
ガンガン
「ッ!!」
金属製の古いドアが、唐突に叩かれた。
とんだ不意打ちに、弥生はベッドの上で固まってしまう。
ガンガン!
ドアを叩くのはあの子供だ。多分そう…いや、そうに違いないと思うのに、弥生は玄関の方を凝視したまま動けなくなった。
自分でもどう説明すれば良いのかわからない恐怖で、タオルケットを縋るように抱き締める。
ガンガンガンガンガン
子供が扉を叩いているだけだ。
だが、顔も知らない相手であるせいか、本能的な恐怖に襲われてしまい、身が竦んでしまうのを止められない。
弥生はベッドの上で隅により、小さくなってガタガタと震えていた。
ガンガンガン
ガチャガチャガチャ……
叩くだけでは飽き足らなくなったのか、ドアノブを回しだした。
鍵は掛けてある。
ドアチェーンは……どうだっただろう。もしかすると掛けていないかもしれない。
古いとは言え金属製のドアだし、子供の力で壊れるとも思えないが、それでもそのうち開けられてしまうんじゃないかと、恐ろしくて恐ろしくて、弥生は血の気が引くのを感じた。
ガチャガチャ、ガンガンガン、ドン!
体当たりか、それとも蹴っているのか…大きな音が響き渡る。
そして………
「(あ~け~て~~)」
「ヒッ!!」
弥生は息を呑んだ。
心臓の音がやけに大きく聞こえる。
「(あ~け~て~~~)」
女の子の声だ。
甲高くて…舌ったらずな言葉…。
けれど……
(いや、やめて!!
怖い、怖い、怖い怖い怖いこわいこわいこわイコワイコワイコワ……あぁ)
今にも叫び出しそうにあった刹那――
「(煩い!!
アンタの家は上の階!!
もう、どっか行けって言うの!!!)」
女性の怒鳴り声。
でも弥生の良く知る声。
隣室の川原の声だ。
彼女の声で、弥生はやっと身体の力が抜けた。
途端にボロボロと涙が溢れて、嗚咽が止まらなくなる。
彼女の怒声が、弥生の心と体を現実に引き戻してくれた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
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