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団地の最寄り駅に着いた。
電車を降りた後、真っすぐ帰宅せず遠回りして、今朝がた寄り損ねたコンビニに向かう。
正直酒でも飲まないと…という状況心境なのも本当だ。
しかしそれ以上に、飲み食いでもしながらでなければ、雑誌を開いた途端、うつらうつらと舟を漕ぎそうなくらいに寝不足なのだ。
ワインとスパークリングな日本酒を購入。チューハイやビールも好きだが、今日は度数重視で選んだ。
お酒の方が好きなのは確かだが、一応ノンアルコールの物も買っておく。
他にはお摘まみになりそうなチーズやスナック菓子なんかも、併せて購入した。
……ちょっと…いや、かなりの散財になり、明日からはまた節約せねば…と、自嘲する。
今度の休日には、スーパーか何処かで、お手頃価格の酒やお摘まみを買い溜めておこうと思う。
2番棟が見えてきた。
団地と言うだけあって、棟と棟の間に公園が設置されている。ただ、こんな時間――ちょっとした問題のせいで、少々残業になったからだが……になると人影はなく、街灯の頼りない灯りに照らし出された古い遊具やベンチが、少しばかり不気味だ。
目隠し代わりの植え込みに、夾竹桃が使われているのも、不気味さに拍車をかけている気がする。
比較的新しめの集合住宅地では、夾竹桃を植える事は避けている気がする。
以前は夾竹桃の持つ特徴…成長が早く夏に開花する、環境適応力が高い等々で選ばれてきたが、昨今はその毒性が広く取沙汰されてきた。実際に数年前に殺人未遂事件も起きている。
そんなこんなで、近年は減ってきているように感じるせいか、夾竹桃を見ると何となく古さとか、そう言った物を感じるようになってしまった。
暑いのに、ゾワッと震えが走り、思わず二の腕を擦る。小走りに階段を上がり、鍵を取り出していると、上の階から大きな声が聞こえてきた。
扉が閉まっているからだろうが、くぐもって聞こえるものの、聞き取れない訳ではない。
お菓子が食べたいとか、玩具が欲しいだとか、言ってみれば子供らしい要求だが、昼間のスーパーで駄々をこねている訳ではない。なんだってこんな夜に…と不思議に思っていると、恒例の『煩い』『黙れ』と言う怒鳴り声と、赤ちゃんの泣き声まで参戦してきた。
今日は一段と酷い…と、げんなりしていると、とうとう『出ていけ』と言う、女性の叫ぶような声が鼓膜を打った。
それこそ『こんな時間に!?』とギョッとしたが、弥生は慌てて開錠して自室に入って施錠した。
どう考えても放置子一直線案件です、ありがとうございます……なんて他人事のように呆けている場合ではない。
薄情だとか冷酷だとか…色々と、御指摘・お叱りを受けるかもしれないが、触らぬ神に祟りなしなのだ。
下手に関わって、誘拐だなんだと難癖つけられるのは御免である。
実際に専門家なども、関わるなと警鐘を鳴らしているのだから。
弥生が施錠して玄関で靴を脱いでいると、ドア越しに小さな足音が、部屋の前の廊下を走るのが聞こえた。
本当に追い出したんだ…と言う驚愕と、鼻歌交じりに違う階の廊下を楽し気に走る子供に、背筋が思わず寒くなる。だが、それを振り払うように弥生は頭を振って、脱いだ靴を片付けた。
お風呂を済ませ、ベッドを背凭れ代わりに座布団の上に座り込む。その前に、酒と摘まみが並んだ小さなテーブルを引き寄せた。
子供の事とか気にはなるが、今は買って来た雑誌を読みたい意識の方が強い。
雑誌を袋から取り出し、ワインを注いだマグカップ……ワイングラスとか、そんなお洒落なものは、喪女の一人暮らしに期待してはいけない。うん。
マグカップを片手に、雑誌を捲った。
見開きで『忽然と消えた家族』と言う飾り文字が、斜めに大きく印字されている。
丁度1年程前から、似たような事件があちこちで起こっているらしい。
記事に書かれていたのは、一連の一番最初と思しき事件……いや、事件と言い切るのは難しいかもしれないが、事件と書かれているので素直にそう呼ぶ事にする。
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