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「じゃあもう3日悩まされて、その顔な訳ね…。
やっぱり泊まりにおいでよ」
そう言ってくれるのはありがたいが、真柴にだって都合はあるだろうし、根本解決にならない。
冷やしうどんを口に運ぼうとした手が止まった。
「やっぱり、言うしかないのかなぁ……」
弥生は自問自答するように、小さく零す。
「言うって、苦情?」
「苦情と言うか、お願い?」
『ダメかなぁ』と苦く微笑む弥生に、真柴は難しい顔になった。
「このご時世、それもヤバくない?
そんな子供がいるなら、若い夫婦って事だろうし…最近の若い…って、自分もまだ若いつもりだけど、ホラ…キレ易いと言うか……。
子持ち様理論で捲し立てられても、それはそれで疲れそう…」
「そうなんですよね…だから余計に躊躇うと言うか…」
「難しいわね。
警察は騒音くらいじゃ動いてくれないし。
何だっけ…民事不介入? 何かそんな言葉なかったっけ? なんでもいいけど、警察は事件が起こらないと動かないからな~。おかげで被害者が絶えないって言うのにね…」
弥生は肩を落として溜息を吐いた。
「ネットで調べてみたんですけど、一応警察にも窓口はあるみたいなんですよね。でもそれは対症療法と言うか…結局通報した側が恨まれるとか書いてあって」
「こっわ。
通報されるような事しといて恨むなんて…もう逆恨みもいい所だよね。
常識が通じないモンスターとか、勘弁して欲しいわ」
「でもまだ3日だし、もう少し様子見るべきですよね。
引っ越してきたばかりで、子供もテンション上がってるだろうし」
真柴はテーブルに肘をついて、視線を斜め上へ流す。
「手っ取り早く穏便に…なら弥生が引っ越すのが早いんだろうけど、なんか釈然としないわよね。
だって弥生が悪い訳じゃないのにさ」
「悪い悪くない以前に、引っ越しするにもお金が…アハハ……はぁ…。
もう少し、耳栓で頑張りマス…」
「耳栓って……。
でもまぁ、どうしても耐えられない時は、泊まりに来ていいから。
ずっと寝不足じゃ身体が持たないわよ」
そろそろお昼休憩も終わりの時間だ。
食器とトレーを片付け、午後の仕事に戻る。
たかが3日されど3日…で身体は重く、ぐったりしていたが、こうして話を聞いて貰えただけでも、少し軽くなった気がする。
錯覚かもしれないが、そう自分に言い聞かせ、弥生は午後の仕事に戻って行った。
午後はちょっとした問題があったが、それの対処も終わり、一応今日も無事終わった。
弥生は散らばっていた書類を片付け、真柴と連れ立って駅へ向かう。
同じように駅へと向かう帰宅の人波に流されながら、『そういえば』と、真柴が話題を変えた。
「この付近じゃないんだけど、変な事件があったの、知ってる?」
「変な事件??」
「そう。
事件と言うか、週刊誌のネタだったかなぁ…都市伝説的な?」
「あぁ、週刊誌ってそういうの好きですよね」
「まぁ『売れてナンボ!』って奴だし。
で、その事件と言うか噂? なんだけど」
そこで意味深に言葉を切り、真柴は弥生の耳元に顔を寄せる。
「行方不明になるらしいのよ」
「え?」
一足飛びな言葉に訳が分からず、弥生は首を捻った。
「思い出したんだけど、その噂って、確か…弥生も悩んでる騒音に纏わる話だった気がするのよね」
「………」
何故かわからないが、弥生はゾクリと背を這うような感覚を覚える。
「ずっと騒音で悩んでた人が、ある時騒音がない事に気付くと、原因の部屋の住人がいなくなってるんですって」
表情が抜け落ちてしまった弥生に、真柴は気付いていないらしく、話を続けていた。
「それも荷物とか置きっ放しで、夜逃げとかそんなんじゃないって話なのよ。
なんだか変な話しよね。
夜逃げは兎も角、逃げるなら騒音被害を受けてる方だろうに、加害者が居なくなるって不思議」
弥生はふるっと、気付けるように首を振った。
「……その週刊誌って…なんて雑誌です?」
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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