45
いつの間にか、弥生は自分の周囲が真っ暗ではなく、見慣れた自宅だという事に気が付いた。
さっきまで見ていた光景は夢だったのだろうか…?
だが、弥生は薄笑いを浮かべた。
アレが夢ではないと知ってる。
間もなく上の階は騒がしくなるだろう。何故かそれを確信していた。
弥生はキッチンに向かい、グラスを手に取る。冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出してグラスに注いだ。
ゆっくりと飲み干し、ホゥ…と、息を吐きだすが、その表情は変わらず笑みを刻んでいる。
赤ん坊は警察に保護されている。いずれ児相行きかもしれないが、どちらにせよ、もう戻って来る事はない。
不気味な放置子も、処理済だと報告があった。
きっと夜翁が美味しく頂いてくれたのだろう……ぃゃ、もしかすると美味しくなかったかもしれないが、間違いなく戻ってこない。そう確信できる。
母親…赤い女の末路はさっき見たばかりだ。
アレで戻ってこれたら、その方が恐ろしい。
だから戻っては来ない、大丈夫だ。
「あぁ、静かな夜が戻ってくる。
もう不快で甲高い泣き声も、ねっとりと纏わりつくような子供の声も、キレ散らかした女の声も、きっともう聞く事はない、聞かずに済むんだわ。
なんて素晴らしい」
呟きが、自分の耳に甘美な響きを残す。
「後は旦那さん?
でも……もう叫ばないよね?
あ…でも、またドアが壊されるかも……」
スンと表情が抜け落ちる。
あの男は一人で喚く事はない。これまでなかった。
子や女が煩いから怒鳴っていただけ。でも、思い込みで殴り込んでは来るかもしれない。
そう思うと……いや、震えは来ない。
だってアレの処理も契約に入っていた。保留になっていたのは赤ん坊だけで、残り3人は契約の内だ。
だから安心する。
夜翁はきっと逃がしたりしない。ちゃんと契約を遵守してくれると信じられた。
ニィッと口角が吊り上がる。
弥生は上の方から、忙しなく響く足音をBGM代わりに、穏やかな気持ちで眠りにつく……明日の為に睡眠は必要だ。
翌朝になって、遠慮がちにドアをノックする音に玄関へ向かう。
既に起床していた弥生は、スッキリした表情でドアを開けて出迎えた。
聞けばやはり、岩田家の奥方が忽然と消えたらしい。
警察の者も数名居たらしいのに、いつの間にか消えていたのだそうだ。玄関に普段使っているサンダルを残して…。
それだけでなく財布も鍵も、何一つ持ち出した物はなかったそうだ
色々と聞かれたが、警察官と言う、これ以上ない証人がいる。
弥生を始めとした住人に聞いて回ってはいるものの、疑われている訳ではない。愚痴まじりに聞かれた事を答えるだけで、あっさりと解放された。
見える訳ではないが、ふと真上を見上げる。
走り回っているのは警官だけで、ドアを破壊した旦那さんの方は戻ってきていないのだろう。聞こえるのは緊張を孕んだ囁くような声ばかり。
ドアを閉めた弥生は、やっと日常が戻った…と、仕事に出かける準備をし始めた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
ブックマークやリアクション等々も、頂けましたらとても励みになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。
ブックマークや評価等々くださった皆様には、本当に本当に感謝です。
AI不使用な事もあり、誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~等々が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つけ次第ちまちま修正したり、こそっと加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>




