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弥生は女の横に膝をつき、グイと上体を捻じ曲げて顔を寄せる。
「どうして?
どうして助けなきゃいけないんでしょう?」
心底不思議そうに弥生が問う。
邪気のない表情に、女の方が逃れようとまだ自由だった腕で払おうとする。
「アンタ…本気で言ってんの!?
アタシはアンタと違って母親なの! 社会の役に立ってんだから、アンタみたいな役立たずの底辺女には、アタシを助ける義務があるってわかんないの!? 信じらんないわ…ッ!! や、やめ…痛い!!」
「行儀が悪いですね」
呆れる様に夜翁が呟いた。
更に頭を強く踏みつけたらしく、女が悲鳴を上げる。
「ぎゃあぁぁぁ!!
痛い痛い痛いっ!!」
弥生は膝をついたまま、夜翁を見上げた。
「痛みはないって聞いてたと思うんですが?」
問い掛けに、夜翁は酷薄に微笑む。
「こちらとしましても、とてもとても不本意です。
このような無様な仕事なんて…美しくないですから…はぁ」
夜翁は、心底嫌そうに溜息を落とした。
「ですが、言う事を聞かせる為ではなく成り行き…ですので、御容赦頂けますと幸いです。
尤も、ちょっとした手違いだったんです。本来なら、気付かれる前に処理が完了する筈だったんですが……。
もしかすると佐々木様と意識が繋がった事で、取り戻されてしまったかもしれません」
「取り戻す…ですか?」
「えぇ、意識とか状況…等ですね。
そう言った諸々を、本人も気付かないうちに、さっさと平らげてしまう予定だったのですのに、申し訳ございません」
弥生と夜翁が話している間も、岩田家の奥方は、喚き、暴れ続けている。
夜翁が弥生へ、少し困ったように顔を傾けた。
「佐々木様、後程ご報告させていただきますので、今はどうぞお休みください。
仕事場をお見せするのは、佐々木様にとってあまりよろしいとは申せませんので…」
「え…そうなんですか?
でもそうですね。私が邪魔してしまったみたいですし…戻ります」
弥生はあっさりと立ち上がった。
夜翁に踏みつけられたままの女は、あまりの痛みに気を失ったのか、いつの間にか静かになっている。
けれど、きっと見ない方が良いのだろう。どう処理するのか興味はあるのだが、きっと見ない方が良いのだろう。
「では失礼します。
報告…お待ちしてますね」
にこやかにそう言って、弥生は背を向けた。
背後で夜翁が『はい』と言っているのが聞こえる。
弥生が歩き出そうとした刹那『ギャッ』と短い悲鳴が聞こえた。
立ち止まり振り返る。
そこには、足で押さえ込んでいた頭を、嘴で挟み潰している大きなミミズクの姿があった。
バキバキと硬質な音が響く。骨を割り砕く音じゃないかと思う。
赤い血が滴り、騒がしかった女はただの骸になり、今は肉片になりつつある。
動きを止めた肉体に、容赦なく嘴が突きこまれ、肉となってミミズクの腹の中に収まって行く。
悍ましい光景の筈なのに、何故か魅入ってしまった。
艶やかな嘴を赤く染め上げる血の一滴さえも、酷く艶めかしい。
腱や血管が引き延ばされる様も、ゾクリと背筋が震える程美しいく感じてしまうのだ。
ミミズクと視線が合った。
だが彼女は恥ずかしそうに目を細めてそっと伏せる。
確かに不躾だった。
女性の食事場面を凝視するなんて、同性であっても褒められた行動ではない。
弥生は慌てて『ごめんなさい』と呟いて、その場を後にした。
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