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弥生だけでなく川原達も一緒になって困惑していると、手拭いで汗を拭きながら増山がやってきた。
さっきの女性の状態を踏まえ、それでも今日は自宅に戻るのか問われる。
弥生としても、流石にあんな絡まれ方をしたら躊躇したくなるが、先日も戻ると言ったのに、結局真柴の世話になってしまった。
なので、出来れば今日は真柴に迷惑を掛ける事無く過ごしたい。
他にビジホに泊まるとかも考えられるが、反対に『なんで自分が…』と言う思いが浮かぶ。
被害者なのに、更に懐まで被害をうけるというのは、納得がいかない。
勿論、冷静に考えればそう言う話ではないのだが、今は弥生も少々感情的になっていた。
『絶対に屈してやるもんか』という憤怒の勢いで、『今日は自宅で寝ます』と宣言する。
増山は弱り顔だが、岩田の妻本人が誘拐だと言って譲らない事もあり、今夜は良くも悪くも警官が張り付くので、それ以上強く言ってはこなかった。
1階に家のある野水と別れ、川原、早耳と階段を上がる。
二人共酷く心配してくれるが、弥生の言い分、感情もわからないではないらしい。
「まぁ、それはそうやんね…。
なんで被害者の方が小さぁならんといかんのよ…って話」
「確かにねぇ。
せやかて怪我してもうたら割に合わへんし。何かあったら川原ちゃんかあたしに、直ぐいうんやで?」
二人の心遣いに感謝しつつ、弥生は自宅に戻った。
部屋に入って修理されたドアを静かに閉める。
ここ最近、自宅では遠くなっていた静寂に、思わず身体が止まる。
比較的高齢者が多い団地な為か、公園からも子供の甲高い声さえないのが普通だった。
その『普通』が戻ってきている事に、酷く感動してしまったのだ。
考えればそうか…とも思う。
赤ん坊は警察に保護されたらしいし、子供は行方不明。奥さんは真上の部屋に居るのだろうが、今日は警察が近くに居るらしいので、滅多矢鱈と騒ぎ立てる事もないと思われる。
ドアを壊し、自治会長の顔を腫れ上がらせた旦那さんの方も、もう拘束を解かれているのかどうかはわからないが、奥さんの方と同じく何かあれば警察が止めてくれる筈。
そう思えば、久しぶりの自宅での静寂に、フッと笑みが浮かんだ。
スーパーで買いこんだ食材で夕飯を作る。
ご飯を炊いて魚の切り身を焼き、冷凍カボチャをとり肉と煮込んだ。それに買って来た漬物で、簡単だが夕飯とする。
その御供は、今日は日本酒に決めた。
スパークリングの日本酒は、口当たりが軽く香りも華やかで、弥生のお気に入りの一つになっている。
夕飯を食べ終え、ほろ酔い気分になった所で、小さくも我が家のお風呂にゆっくりとつかる。
やはりシャワーだけより湯船につかる方が、弥生は好みだ。
浴槽の縁に腕を乗せ、そこに頭を置いてほぅっと気持ちよさに息を吐く。瞼が重くなり、あがらないと風邪引くよな…なんて考えが過るが、それよりも睡魔の訪れの方が早かった。
ふと、何かの音で意識が浮上する。
状況に思考が追い付かない。確かお風呂でうつらうつらとしてしまった記憶があるのに、浴槽もなければお風呂場でもない。
真っ暗な場所…だけど自分を視認できるし、暗いという感覚にならないのが不思議だ。
ぼんやりと辺りを見回す。
これと言って何も見つからず、只々何もない場所だという事だけがわかった。なのに物音だけが、徐々に近付いてくる…いや、近付いてくるというより、直ぐ傍にあった…と言う方が正解かもしれない。
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