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ついつい無駄にそんな話を話していると、車のブレーキ音がした。バタンと続いた音はドアを閉めたモノだろうか…それに続いて騒めきが近付いてくる。
音につられて、弥生達も一斉にその方向へ顔を向けると、婦警に付き添われた子供の母親の姿が見えた。
彼女は項垂れて、トボトボと歩いている。
これまで彼女をじっくりと見た事がなかったが、顔色も、肌の色つやも悪くないし、そこそこ美人の部類…と言って良いのではないだろうか…。
以前、弥生の部屋へ突撃してきた時と同じく、爪は真っ赤に塗られていて、普段は居洒落に余念がないタイプかもしれない。ただ、整えられた爪とは違い、髪は何の手入れもしていないのかボサボサのまま、今は後ろで一つに括っている。
そのアンバランスさが、妙に感情をささくれ立たせた。
集まる視線に気付いたのか、母親……未だに名前を知らない……はパッと顔を上げ、ギラついた目で周囲を見回す。
目が合った相手を、彼女は片端から睨みつけている。
手に負えない山猿のようだ。
感情をむき出しに、視線と表情で無差別攻撃をしまくる彼女は、まだ何かを探して居るのか、キョロキョロと辺りに視線を投げている。
唐突に弥生と目があった。
途端に吊り上がる彼女の目に、弥生は勿論、直ぐ傍にいた川原に早耳、野水までもが息を呑む。
「ぁあぁ……あ、あんた…アンタでしょおおおお!!!!!」
『ヒッ』と声を漏らしたのは誰だったか…そんな事もわからなくなる程の強烈な圧に、全員が後退りするしかない。
婦警の手を振り切り、ズンズンと大股に近づいてきた女性は、猛然と弥生目掛けて腕を伸ばして叫ぶ。
「返しなさいよ!!
居なくなったら困るのよ! どうやって連れ出したのか知らないけど、ちゃんと責任取って貰うから!!
病院代は当然、慰謝料も払って貰うわよ!!」
目を血走らせて叫ぶ彼女の言葉に、恐怖より呆れの方が強くなる。
いや、勿論怖いのは怖い。それはもう動けなくなるほど怖いのだが、頭の隅っこに冷静な自分がいて、その自分が呆れ返っているのだ。
(子供が行方不明なのに、出る言葉がお金の事?
心配じゃないの?
母性神話を礼賛するつもりなんてないけど、それにしたって心配より先にお金の話って、なんかおかしくない?
……まぁ、その程度って事…なのかしら…子供を持ったことがない私だから、わからないのかもしれないけど……)
どっぷりと思考にダイブしている弥生に焦れたのか、女性は更に声を張り上げる。
振り切られた婦警もただ見ていた訳ではなく、女性を追いかけてきていて、なんとか落ち着かせようとしているが、彼女の怒りは止まらない。
婦警に拳が当たるのも構わず、腕を振り回して暴れ始める。形振り構わないその様子が、いっそ哀れに見えた。
フーッフーッと、獣のような吐息が耳障りで、弥生は顔を顰める。
「くそが!!
落ち着き払いやがって!!
いいから100万!!……ぁ、300万くらいは貰わないと!!
って、聞きなさいよ!!!」
とうとう、少し離れた場所で警官と話し込んでいた増山も駆けつけてきた。そして女性を落ち着かせようと、奮戦する婦警に助太刀する形で割り込んだ。
「まぁまぁ、奥さん、落ち着いて」
その間に目配せでもしたのか、別の制服警官が弥生達をそっと誘導した。
気を取られた隙に、弥生達と引き離された事に気付いた女性が、再び暴れ始める。
その怒声を背中に受けながら、彼女の姿が見えなくなる場所まで連れ出された。
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