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見慣れた2番棟が見えてきた。
普段よりやはり人が多い。主婦グループに老人達、就学前の子供達も母親につられて井戸端会議に参加させられている。
その誰も彼もが不安そうに声を潜めていた。
それだけでも落ち着かないのだが、警官の姿も散見していて、それが尚更非日常感を呷っていて落ち着かない。
制服警官に交じって、増山の姿も見えた。先に戻っていたのだろう。
増山も弥生の姿に気付いたらしく、会釈している。
弥生も会釈を返していると、川原がパタパタと小走りに近付いてきた。
「お帰り」
当然ながら早耳と野水の姿もあった。
「佐々木ちゃん、お帰り~。
えらい騒ぎになってるやろ?
もう、ビックリやわ」
早耳の言葉を受けて、野水が困ったように眉尻を下げた。
「ちょっと御悪戯が過ぎる子ぉやったけど……でも行方不明になっていい…なんてないものねぇ…。
心配やわぁ…どこに行っちゃったのかしらねぇ」
零す野水に、早耳がむぅと唸った。
「それ、被害が少ない人やったらねぇ…そう思うやろけど…。
正直に言うと、可哀想やって思う反面、居らんようになってホッとしてるわ」
「あ~わかる。
でも、とりあえずは心配しとかないと」
川原も苦笑しつつ肩を竦めた。
本音を言わせて貰えるなら、弥生も似たような感想を持っているが、それをあからさまに出すのは違う気がして適当に笑って誤魔化す。
だが、この雀淑女達のおかげで、さっき増山から聞いた話に補完が出来た。
子供がいなくなってる事に気付いたのは朝7時頃らしい。それも子供の事より先に、羽の方に気付いたのだそうだ。
こんながらくた持ち込むなと怒ろうとして、やっといない事に気付いたのだという。直ぐに玄関に行くと、ドアは施錠されたままで、それでおかしいと騒ぎ出したのだそうだ。
ちなみに鍵は2本所持していて、1本は旦那さんの上着のポケット、残りの1本は奥さんの鞄にちゃんと入っていたとの事。
まず同じフロアの早耳宅に、子供を返せと怒鳴り込んだそうだ。
当然知らないと突っぱねたと、早耳は憮然としている。母親の方も突撃した我が子が、早耳宅からは早々に出禁をくらっているのを知っていたのか、それ以上は食い下がらなかったらしい。
川原達の話を、聞くともなしに耳を傾けながら、周囲を観察する。
朝7時頃に居ない事に気付き、現在こんなに大々的にさがしているのなら、やはり誘拐ではなく迷子…行方不明と皆考えているのだろう。
とは言え、捜索に協力しないのなら、ここで立ち話をしているのも邪魔になりそうだ。午前中だけだったとは言え仕事をこなし、その後はアリバイ確認までされて、正直言うと疲れている。
弥生は部屋でゆっくりしたいと思い、声を掛けようとした時、見知った顔ぶれがやってきた事に気が付いた。
見知った顔ぶれ――一人は自治会長だ。相変わらず顔には大きくガーゼが張り付いている。その隣には副会長。他にも婦人会や子供会といった、弥生があまり接する事はない顔もちらほらとまざっていた。
警察と足並みをそろえて、彼等、団地住民代表も子供の捜索に協力するらしい。
代表に限定しての協力となるのは仕方ない。其々仕事や学校といった事情があるのだ。
尤も、代表達の表情にも嫌悪の色が見え隠れしている。
あの一家による被害は、2番棟だけに留まっていないという事だろう。
つくづく迷惑な一家だ。
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