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弥生はそんな増山を、見ているようで見ていない。
溢れそうになる思考と浮かびそうになる表情を、取り繕うのに必死だったからだ。
(羽……あぁ、羽!
そう。
きっとあの時……翼の影が見えた時だったんだわ。
その時に処理したのよ。
本当に…本当に処理してくれたんだ。これであの子供は居ないって事よね?
やっと…やっと居なくなってくれた!
どう御礼を言えば良いのかしら。
いえ、言葉だけじゃ足りない……お菓子くらいは…ぁ、でも…どうやって渡せば良いのかわからない…。
だっていつも夜翁さんの方から現れてくれるし…どうしよう…)
弥生が脳内であれこれ考えているうちに、増山も弁当を食べ終えたようだ。箸を置き、居住まいを正すような気配を感じる。
それが切っ掛けで、弥生の意識が現実に舞い戻った。
「いや、時間割いて貰ったうえ、不快にさせてしもうて、ほんますんません。
でも、これであの奥さんに、佐々木さんは関係ないて言えますわ。
それでもごねるようやったら、話聞くついでにお泊りして貰うんも検討します。
落ち着くようやったら、佐々木さんには申し訳ないんやけど、帰宅させる思いますわ。ただ、誘拐やって騒いどりますんで、警官はくっつけとく予定です。誘拐にしろ迷子にしろ、警察としては手を尽くさん訳にはいきませんよってな。
せやから、今夜は自宅に戻らはるんやったら、少々騒がしいかもしれません。
お宅の見回りは強化しときますんで。
ほな、自分らはこの辺で…」
相変わらずムッとした表情を崩さない若手の頭を再び押さえ、二人して一礼すると、すっかり空になった弁当箱や空き缶をゴミ箱に入れて去って行った。
その背中を見送り、鮭弁当を広げたまま、弥生はさっきまでの自分に困惑していた。
(私ったら……。
あの子の声や、姿を見ずに済むのは大歓迎だけど、居なくなってしまった事を喜ぶなんて…流石に人としてどうなのよ。
そりゃぁ、会いたくなんてないわ。
だって不気味だし、怖いし……最悪あの母親が乗り込んでくるんだもの…嫌に決まってる。
でも不孝を喜ぶなんて……)
そう、自分を戒めながらも、仄暗い喜悦を消せない。
それを突きつけられて、弥生は深く溜息を零した。
真柴と上司に用件が終わった事を伝える。
時間的も場所的にも、会社に戻る事は可能だが、上司は今日は休めと言ってくれた。
真柴は説明が進むにつれて、声のトーンが低くなっていく。
『やっぱり帰らない方が良いんじゃない?
だってまたアリバイがどうとか言われそう……。無理して戻る事ないって』
そう言ってくれる言葉に、つい流されそうになるが、やはりいつまでも甘えるのは宜しくない。
今日は戻ってみると伝えて通話を終えると、弥生は箸を持ち直し、残っていたご飯やおかずをかきこんだ。
電車に乗り、団地の最寄り駅で降りる。
真柴の言う通り、またアリバイ云々を言われても嫌なので、駅近くのスーパーで買い物をしておく。
これでこの時間のアリバイは求められても問題ない。
スーパーを出て、団地が近付くにつれて、落ち着かない空気が色濃くなり始めた。
そこかしこで、人が集まって立ち話をしている。
制服警官の姿もちらほら…。
(誘拐…というよりは迷子と言う見立てなのかしら。
まぁ鍵のかかった室内…つまりは密室って事よね? そこから子供だけを連れ出すなんて、どう考えても無理があるもの)
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