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「それで…友人宅に戻る時も隣人が心配してくれて、駅まで付き添ってくれましたし、途中で洋菓子屋さんに寄り道もしたので、お疑いなら調べてください」
「隣人は川原さんでしたっけ
いやいや、疑うやなんてそんな…はは…」
誤魔化す様にへらっと笑って汗を拭う増山に、弥生は胡乱な目を向けた。
「はい、そこの奥さんで…確か名前は好美さんだったと思います」
「了解ですわ。
通った道筋も教えて貰った事ですし、確認はこれで十分です。
いやぁ、ほんま協力に感謝ですわ」
二カッと笑って話を切り上げようとする増山だったが、そうは問屋が卸してなるものか…。
弥生は有給までとって都合を合わせてやったのだ。
情報を吸い上げられるだけで済ませるなんて、冗談じゃない。
勿論、簡単に話して貰えるとは思っていないが、何の抵抗もしないのは癪だ。
「それは何よりですけど、私は有給まで使わされて貴方達に協力したんです。
理由くらい教えて貰っても罰は当たらないと思うんですが?」
キッと睨みつけながら問えば、若手の方が途端にムッとした表情を浮かべた。
「あのなぁ…」
妙に喧嘩腰な若手を、増山が手で制する。ふくれっ面で若手は椅子に座り直した。
「まぁ、道理ですわな。
お怒りは御尤も」
神妙な表情で、それでも『困った』と言いたげに、増山は自分の後頭部をぐしゃぐしゃと搔き乱した。
「でもまぁ…自宅に戻りはったら嫌でも耳にするやろしなぁ…う~ん」
やはり弥生が絡んでもおかしくない事が起こったという事か…。となると5階一家くらいしか思いつかない。
とは言え、弥生のアリバイはあると言える状況だと思う。
川原達の気遣いのお蔭ではあったが、団地に戻ってから駅まで、ほぼ一人になる時間はなかった。
修理の業者が帰ってから、挨拶に行くまでの短い時間は一人だったと言えばそうではあるが、その時に5階の子供の様子に違和感はなかった。
いや、違和感がない訳ではない。
普通の子供は他人の家に入り込もうとなんてしないだろうし、遊んで欲しいとも思わないだろう。なので弥生の常識から浮かぶ子供とは、大きく異なっているので違和感はある。
しかしあの子供の行動としては、アレが平常運転なのだろうという事は、少ない接触回数でも予想できた。
弥生がそんな事を考えている間に、増山は一人百面相をしてからテーブルに肘をつき、少し前のめりの体勢をとる。
そして周囲を窺い、声を潜めた。
「まぁまだ詳細は出してませんので、そこんとこだけ」
言葉を区切り、態とらしく切り出しす。
「佐々木さんの真上の部屋…あぁ、佐々木さん宅のドアを壊した一家のお子さんが行方不明なんですわ。
実はこれまでも夜中に、迷子や思た人が交番に連れてくるとかあったみたいで、一人でフラフラ出歩くっちゅうんは珍しい事やなかったみたいです。
引っ越してきてまだそないに経ってへんのに、ようもまぁ、こんだけ色んな噂が…って呆れるくらいですけどな。
ですが母親が騒ぎよりまして」
どう言う事だろう?
昨日は川原に挨拶している時に子供の姿は見ている。
見ているというか絡まれた。
だから何かあったとしたら、その時間以降だろう。しかし普段から夜中もうろついていたのなら、そんなに騒ぐのもおかしくないか?
だって警察から連絡が入ったのは朝で、電車に乗っている時だ。あの母親が、朝っぱらから娘の姿がないからって、そんなに大騒ぎするとは思い難い。
その内帰って来るだろうと、早くてもお昼くらいまで放っておきそうだ。
いや、印象というか…決めつけは良くないな。
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