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 光源なんて街灯と月くらいしかない。

 なのに対面して建つ建物の壁に、くっきりと翼のような影が大きく映った。

 風切羽の一枚一枚まで、はっきりと映り込んでいる。


 バサリ…と、聞こえない羽音が鼓膜を震わせたような錯覚を覚えた。




 ありえない…頭の隅の方で冷静な思考が頭を(もた)げる。


 建物の壁面に、あれほど大きく映る様な翼の持ち主も、光源もある筈がない。

 それはわかっているのだが、ここ最近のストレス過多、そして不可思議体験の連続に思考力が落ちているのかもしれない。

 だからだろう、映る影は一瞬息を詰めてしまうほど美しいと感じてしまった。


 じっと見つめていると、ゆっくりと影は薄くなり、最後には何も見えなくなる。まるで何事もなかったかのように、夜の日常が窓ガラス越しに横たわっていた。


 無意識に詰めていた息を吐きだし、小さく深呼吸を繰り返す。

 やはり疲れているのだろうと思う。

 弥生は自分の首筋に手を当て、軽く揉み込んだ。



 何度か首を揉みつつゆっくりと回したりしていると、背後で空気が動く気配がする。

 振り返ると夜翁が立っていた。


 室内にいた筈なのに、夜翁の足元は何時ものハイヒールだ。

 これも異常な光景のはずなのに、少しずつ感覚が麻痺してきたと言うか、慣れてきてしまったのかもしれない。一瞬『え?』とは思うものの、それ以上突っ込んで考えようとは思わなくなってきていた。


 それに夜翁は敵ではない…と思う。

 だから怯える必要がないのだ。



「こんばんは」


 さらりと挨拶の言葉が口を衝いて出た。

 あまりの暢気(のんき)さに、困ったような笑みが零れる。

 夜翁も妖艶な笑みを浮かべ、同じように挨拶を返す。


「こんばんは。

 良い夜ですね。

 進展がありましたので、報告書をお持ちしました」


 夜翁が微笑んでいるのだ。悪い報告ではないだろう。


「まずは一件。無事に片が付きました。

 報告書は何時ものファイルに挟んでおきましたので、どうぞ其方(そちら)をご覧ください」

「はい。

 ありがとうございます。

 後で確認させて頂きますね」


 弥生も笑みを浮かべて、感謝する。


「小雀1匹の処理しか出来ておりませんので、完了まで今暫くお待ちください。

 またご報告に伺わせて頂きます」

「はい。お待ちしています。

 態々(わざわざ)ありがとうございました」


 『それでは失礼します』と言葉を残し、夜翁の姿が掻き消えた。



 鞄のポケットに入っているファイルを取り出す。

 まずは受け取った領収書を、一番手前に挟んでおく。これはこれで大事な書類だ。

 その後ろに契約書、更に後ろに新しい書類を見つけた。


 左手でファイルを持ったまま、右手で新しい書類――報告書を抜き出す。

 弥生は書面に目を落した。

 字面を目で追い、読み終わるとファイルに戻し入れる。


 夜翁が『小雀』と言っていたから、多分そうだろうと思っていたが、想定に間違いはなかったようだ。


『4歳女児、処理済み』


 『処理済み』とあるが、どう処理したのだろう?

 その辺りの詳細は、一言も記載されていない。


 方法はどうあれ、結果的に静かで平穏な日々が取り戻せればいい。

 弥生の望みなんて(ささ)やかなものだ。

 それに焦らずとも、明日、団地に戻ればわかるだろう。それで十分だ。


 鞄をもどし、真柴がシャワーを終えるのを待つ。

 静けさに欠伸が漏れ、眠そうに目を擦っていると、パジャマに着替えた真柴が戻って来た。

 シャワーを済まして明日の仕事に備えようと、弥生はお風呂場に消えた。





ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。


リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。


ブックマークやリアクション等々も、頂けましたらとても励みになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。

ブックマークや評価等々くださった皆様には、本当に本当に感謝です。


AI不使用な事もあり、誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~等々が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つけ次第ちまちま修正したり、こそっと加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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