34
光源なんて街灯と月くらいしかない。
なのに対面して建つ建物の壁に、くっきりと翼のような影が大きく映った。
風切羽の一枚一枚まで、はっきりと映り込んでいる。
バサリ…と、聞こえない羽音が鼓膜を震わせたような錯覚を覚えた。
ありえない…頭の隅の方で冷静な思考が頭を擡げる。
建物の壁面に、あれほど大きく映る様な翼の持ち主も、光源もある筈がない。
それはわかっているのだが、ここ最近のストレス過多、そして不可思議体験の連続に思考力が落ちているのかもしれない。
だからだろう、映る影は一瞬息を詰めてしまうほど美しいと感じてしまった。
じっと見つめていると、ゆっくりと影は薄くなり、最後には何も見えなくなる。まるで何事もなかったかのように、夜の日常が窓ガラス越しに横たわっていた。
無意識に詰めていた息を吐きだし、小さく深呼吸を繰り返す。
やはり疲れているのだろうと思う。
弥生は自分の首筋に手を当て、軽く揉み込んだ。
何度か首を揉みつつゆっくりと回したりしていると、背後で空気が動く気配がする。
振り返ると夜翁が立っていた。
室内にいた筈なのに、夜翁の足元は何時ものハイヒールだ。
これも異常な光景のはずなのに、少しずつ感覚が麻痺してきたと言うか、慣れてきてしまったのかもしれない。一瞬『え?』とは思うものの、それ以上突っ込んで考えようとは思わなくなってきていた。
それに夜翁は敵ではない…と思う。
だから怯える必要がないのだ。
「こんばんは」
さらりと挨拶の言葉が口を衝いて出た。
あまりの暢気さに、困ったような笑みが零れる。
夜翁も妖艶な笑みを浮かべ、同じように挨拶を返す。
「こんばんは。
良い夜ですね。
進展がありましたので、報告書をお持ちしました」
夜翁が微笑んでいるのだ。悪い報告ではないだろう。
「まずは一件。無事に片が付きました。
報告書は何時ものファイルに挟んでおきましたので、どうぞ其方をご覧ください」
「はい。
ありがとうございます。
後で確認させて頂きますね」
弥生も笑みを浮かべて、感謝する。
「小雀1匹の処理しか出来ておりませんので、完了まで今暫くお待ちください。
またご報告に伺わせて頂きます」
「はい。お待ちしています。
態々ありがとうございました」
『それでは失礼します』と言葉を残し、夜翁の姿が掻き消えた。
鞄のポケットに入っているファイルを取り出す。
まずは受け取った領収書を、一番手前に挟んでおく。これはこれで大事な書類だ。
その後ろに契約書、更に後ろに新しい書類を見つけた。
左手でファイルを持ったまま、右手で新しい書類――報告書を抜き出す。
弥生は書面に目を落した。
字面を目で追い、読み終わるとファイルに戻し入れる。
夜翁が『小雀』と言っていたから、多分そうだろうと思っていたが、想定に間違いはなかったようだ。
『4歳女児、処理済み』
『処理済み』とあるが、どう処理したのだろう?
その辺りの詳細は、一言も記載されていない。
方法はどうあれ、結果的に静かで平穏な日々が取り戻せればいい。
弥生の望みなんて細やかなものだ。
それに焦らずとも、明日、団地に戻ればわかるだろう。それで十分だ。
鞄をもどし、真柴がシャワーを終えるのを待つ。
静けさに欠伸が漏れ、眠そうに目を擦っていると、パジャマに着替えた真柴が戻って来た。
シャワーを済まして明日の仕事に備えようと、弥生はお風呂場に消えた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
ブックマークやリアクション等々も、頂けましたらとても励みになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。
ブックマークや評価等々くださった皆様には、本当に本当に感謝です。
AI不使用な事もあり、誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~等々が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つけ次第ちまちま修正したり、こそっと加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>




