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そこからはよく覚えていない。
時間的に帰宅ラッシュにも巻き込まれたはずなのに、スコンと記憶が抜け落ちていて、どうしても思い出せない。
気付けばお土産を手に、真柴の部屋の前に立っていた。
チャイムを押すと、既に真柴は仕事から帰宅していたようで、直ぐに反応があった。
電車に乗る前の不可思議体験には触れず、弥生は土産を真柴に渡す。
大きめのプリンに、真柴は大喜びだ。
その笑顔に、自分はまだ現実に居ると安心し、弥生は部屋へ上がらせて貰った。
今日は先に夕飯を済ませ、シャワーを後にする…と言っても、一人ずつしかシャワーを使う事が出来ないので、弥生は真柴が先に使うように頼んだ。
部屋の主なのだし、少し荷物の整理がしたいから…と言うと、苦笑交じりに頷き、今は弥生が一人で鞄を開いている。
明日はここから真柴と一緒に仕事に行き、帰りは自宅に戻る予定だ。
気が進まないのは確かだが、いつまでも真柴の世話になる訳にもいかない。
とりあえず着替えとお風呂セットを出しておく。
土産とは別に、乗り継ぎ駅で寄り道して買っておいたティーパックの詰め合わせも出しておいた。これは真柴への御礼様に購入したものだ。
この数日、真柴が泊まらせてくれたおかげで、睡眠不足はマシになっているし、自宅に戻ろうという気力も戻った。勿論、その先は現時点では不透明だ。
『セイジョウ社』と言う所が、どうこの難題を解決してくれるのかわからない。だがあのチラシも、少しは気休めになっている。夜翁にも話した事で、ストレスは多少なりとも軽減したと思うのだ。
だから消えた2万円は、そのストレス軽減を買ったと思う事にしようと考えている。
ただまぁ……度重なる不可思議体験については…考えない方が良いだろう。考えた所で答えなんて出る筈もない。
綺麗に包装されたティーパックの箱詰めをテーブルに置き、ホッと脱力していると、微かな異音が鼓膜を打った。
「……?」
『……………ホッホゥ…』
夜の森で聞いたら雰囲気のある音…いや、鳴き声だ…と弥生は思った。
多分だが梟とか角鴟のような、そんな声に聞こえる。とは言え、真柴の部屋があるアパートの近くに森も林もない。
弥生の自宅の様な団地ではないが、他にもマンションやアパート、戸建ても密集する住宅地だ。
もっと厳密に言うなら、違うマンションの建物に挟まれるように建っている。
そして公園もないのだ。遊具だけが置かれた小さなものはあるが、梟だの角鴟だのがやってくるような大きな木はない。
不思議だが、単に通り掛かっただけの迷い鳥かもしれない。
それにしても…と思考を止める。
なんと表現すれば良いだろう…とても心地良い声だ。
鳴き声なのだから音を発しているのに、何故か静謐を感じる不思議な音色に、弥生はいつの間にか耳を傾けていた。
いつまでも聞いていたいような心地になっていたのだが、突然鼓膜を破るような叫び声に変わる。
『ギャギャァァ!!!』
弾かれたように閉じていた瞼を開き、思わず窓の方に駆け寄った。
こんな夜に、鳥一匹を探せるとは思っていないが、無意識の行動で、理由なんて知らない。ただ気付けば窓に駆け寄り、カーテンを勢い良く開いていた。
「ぇ……」
思わず声が漏れる。
窓ガラスの向こう、並ぶようにして建つマンションに、何故か大きく影が伸びていた。
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