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川原宅に着き、雑談で時間を潰しながら、修理が始まるのを待つ事になった。
冷たい麦茶を貰って、全員でほぅっと息を吐く。
顔色の悪くなった弥生を気遣ってか、話題は最近のニュースや流行の話をメインにしてくれて、特に商店街に新しく出来た洋菓子店はとても心惹かれる。
弥生も気分が落ち着き、折角だから真柴へのお土産はそれにしようと考えた。
扉が直れば、真柴宅に泊めて貰わずとも大丈夫だと思うのだが、正直言うとまだ怖い。そんな気配を察したのだろう…今日もう一日くらい泊って行けという言葉を頂戴していた。
情けない話だが、先日から赤ん坊の泣き声や子供の声、他には赤い爪なんかを見てしまうと、それだけで少し緊張してしまう。
非常時だからと言う真柴の言葉に、後1日だけ甘えさせて貰おうと思う。
そうこうしていると、弥生の携帯が鳴った。
画面には新しく登録しておいた自治会長の名前が表示されている。
スマホの通話ボタンを押して耳に当てると、修理業者が来たらしい。
川原達にそれを告げてから廊下にでると、弥生は404号室の隣…自分の部屋の前に立った。
少しすると階段の方から複数の足音が聞こえる。
足音にも少し緊張してしまうが、見えた人が作業着姿だったのでホッと力が抜けた。
だがそれに続いて姿を見せた人の顔に、小さく息を呑んだ。
顔半分をガーゼで覆った岡元の姿は、本当に痛々しい。
弥生は挨拶もそこそこに、岡元に駆け寄った。
「岡元さん……なんて酷い…大丈夫ですか?」
大丈夫な訳がない…そんな冷静な突っ込みを入れてしまいそうになるが、他に言葉が見つからない。
「あぁ、佐々木さん。
いやぁ、見た目が酷いだけで、ピンピンしてますわ」
そう言いながらも、痛みに顔が歪んでいる。
「その…すみません」
思わず謝ってしまうが、岡元も『佐々木さんのせいやあらへんし』と笑い飛ばす。
その後は『兎に角修理を』と、扉の修理を先にして貰う。考えれば修理業者の人達だって暇な訳ではない。
ドアのへこみを確認していた業者の話では、何とか夕方くらいには終わるだろうとの事だった。
時間がかなりかかるし、岡元も戻って行った。
弥生も修理の間は自分の家にいるしかなく、部屋に入って鞄を置く。
自分の部屋なのに、妙に落ち着かない。
散々な目に遭ったから仕方ないのかもしれないが、思わず溜息が零れた。
弥生は思い立って冷蔵庫へ向かう。
急に真柴の家に泊まる事になって数日……冷蔵庫の中身が気になっていたのだ。
開けてみれば、野菜は一部痛んでいた。
流石に全部捨てるのはもったいないので、痛んだ部分を除き、下処理をして冷凍庫へ放り込む。
他にも冷凍庫へ入れられそうなものは、全部放り込んで、ちょっと臭いがおかしくなっているモノ等は容赦なく捨てた。
後、ゴミ出しが出来ていないので、ビニールを二重にするなどの対策を講じる。
その間、やはりと言うか……5階からの音は相変わらずだった。
まぁ今日は修理で、弥生の部屋からも騒音が出ているからお互い様である。
暫くしてお昼になり、弥生は賞味期限の迫ったパンを見つけ、消費する事にした。もそもそと齧りながらドアの方で動く人を見る。
ドアの修理なんて初めて見るが、存外時間がかかるのだな…とズレた事を考えながらぼんやりと見つめた。
あぁいう職人の作業と言うのは、いつまでも眺めていられるのが不思議である。




