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3


 弥生を呼び止めた、如何にも『おばちゃん』と言う感じの女性の名は早耳(はやみみ) 広子(ひろこ)

 彼女は弥生と同じ2番棟の502号室の住人だ。

 中学生と小学生の子供がいる専業主婦で、旦那さんも含めると4人家族。お喋りが大好きな人で、気付けば何処でも誰かと喋っている姿を目撃する。勿論噂話も大好きで、団地に流れる噂で彼女が知らない事は、殆どないのではないかと思う。

 世話焼きな一面もあり、弥生もよく『作りすぎちゃったの~』とか言って、お惣菜を押し付けられている。

 弥生はそれを素直に嬉しいと思っているので、ありがたく頂戴しているが、人によってはちょっとお節介…と言うか、うざく感じるかもしれない。


 早耳の後ろから歩いて近付いてくるのは、弥生より少し年上だろう感じの美人で、名を川原(かわはら) 好美(よしみ)と言う。

 彼女も同じ2番棟の住人で、404号室に入居している。

 まだ子供は居らず、夫婦で暮らしている。彼女もお喋りが好きな人ではあるが、昼からパートに出ているらしく、早耳よりは目撃件数は少ない…と思う。

 好みの会話は芸能関係の噂話で、彼女自身アイドルの推し活を楽しんでいる。

 ただ、はっきりとした性格のようで、物言いは少々きつく感じるかもしれない。けれど、それも気にしなければ良いだけの事だ。


 御婦人方がさっきまで(つど)っていた場所で、此方(こちら)を見ている老婦人は野水(のみず) 加代(かよ)

 やはり同じく2番棟の住人だ。1階で一人暮らしになっている。

 微妙な言い回しなのは、旦那さんが入院中だからだ。娘さんが二人いると聞いているが、どちらも独立していて、あまり見かける事はない…と言うか、弥生は見た事がない。

 お喋り面々と居る事が多いが、彼女自身は話題を提供する側と言うより、聞き役になっている事が多いように思う。

 おっとりとした性格のようで、旦那さんの病気が心配だろうに、いつもにこにこと笑顔を絶やさない人だ。

 この老婦人が纏う穏やかな空気が、お喋り雀達の口を、更に滑らかにしているのかもしれない。

 


「ほんと、目の下に熊ちゃん飼ってるやんか。

 もしかして仕事が忙しい? そう言えば最近帰りが遅いみたいやもんね」


 川原が、心配するように眉尻を下げていた。

 確かに最近は帰りが遅くなりがちだったが、それを把握されているとは思わなかった。

 けれど、落ち着いて考えれば、それもそうか…と納得出来てしまう。


 川原宅は404号室で、弥生の部屋の隣だ。

 古い集合住宅だから、扉の開け閉めの音なんて筒抜けだろうし、生活音だって聞こえている事だろう。気を付けてはいたのだが、もしかしたら隣の迷惑になっていたかもしれない。

 慌てて頭を下げた。


「すみません、ドアの音とか煩かったですよね」

「は?

 そんなの気にする訳ないって。

 ドアの音なんか気にするんやったら、こんな古い団地に住んでられへんて。

 こっちだって色々と音、響いてるんやない?

 こっちこそ謝らないと、だわ」


 川原は気持ちよく笑った。

 婉曲な物言いをする人ではない為、彼女が笑い飛ばしているのなら、本当にそう思ってくれているのだろう。

 弥生はホッと胸を撫で下ろした。


「時間、大丈夫?」


 さっきまで少し離れた所に立ち止まっていた野水が、弥生を見つめながら問う。

 弥生はハッとして左手首の時計を見た。


「ぁ、ごめんなさい、行かないと」


 慌てて会釈をして、弥生は走り出す。

 電車に乗る前にコンビニに寄りたかったが、これでは無理そうだ。


「転ばないようにね~」

「いってらっしゃーい」

「気を付けるのよ」


 そんな弥生に、3人の雀淑女達が声をかけて見送っていた。






ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。


リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。


ブックマークや評価等々も、頂けましたらとても励みになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。


AI不使用な事もあり、誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~等々が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つけ次第ちまちま修正したり、こそっと加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>

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