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空耳だろうと思うのに、背筋を怖気が走り、額から頬を伝い落ちる嫌な汗に喉が鳴った。
そして……止せばいいのに、ファイルに戻そうとしていた封筒を、もう一度引き寄せて覗き込む。
封筒を持つ手が震えた。
(え…なんで…どう言う事?
確かにお金入れたよね?
いや、そんな……もう腹立って勢いで入れちゃったけど、本気で契約に至るなんて思ってなかったのに…)
結局、どう言う解決方法をとるのか、そう言う話は聞いていない。
聞いていないというのもおかしな話ではある。
弥生から電話した訳ではないし、なんなら電話ではなく夜翁に直接会ったとしか思えない絵面だった。
それ自体があり得ない事で、質の悪い冗談としか思えない。
しかし、どんなに弥生が困惑し狼狽えようとも、現実問題として、封筒に入れた筈の2万円は忽然と姿を消しているのだ。
今度は財布の方を見る。
……確かに2万円減っている…減っているように見える。
もう、何をどう考えれば良いのかわからず、弥生は頭を抱えた。
とはいえ真柴に、これ以上心配をかける訳にはいかない。弥生はフルッと頭を一振りして気持ちを切り替えた。
空になっている黒い封筒をファイルに戻し、何事もなかったかのように鞄の一番奥のポケットに戻し入れる。
シャワーから戻った真柴と交代に、弥生もシャワーを浴びようと風呂場に向かった。
今日一日色々あってパンク寸前だった頭も、熱めの湯を頭から引っ被ったお陰で少しすっきりした。就寝前には更に落ち着いて考える事が出来ている。
(別に良いじゃない。
不可思議体験だろうが何だろうが、これで上の一家が大人しくなってくれるなら万々歳。
痛い事はないって言ってたし、手段はお任せしとけば良いんだもの…もう気にするのは止めときましょ。
そうよ…そう…。だって私の方が酷い目になってるんだから、少しは反省してよって思う位、別に悪い事じゃないでしょ。
ていうか、酷い目にあっちゃえばいいのよ!)
翌朝、すっきりと目覚めた弥生は、真柴と朝食を済ませ、一緒に家を出て駅へ向かう。そして普段と違う電車に乗り込んだ。
会社に着き、いつも通りに仕事をして、気付けばお昼になっている。
真柴とお昼に出ようと、鞄を手に外へ出た。気分転換に少しお高いが、駅近くのイタリアンレストランに向かおうと話が纏まる。
少々お高めなのが幸いして、早めの時間ならあまり待たずに座れるのも、決め手の一つになっていた。
美味しい昼食を堪能し、いざ会計…となったところで、チラリと見えたスマホ画面に目が吸い寄せられる。
「どうしたの?」
動かなくなった弥生に、真柴が声を掛けてきた。
「ぁ、えっと…着信があったみたいで」
見れば発信者不明の着信履歴が複数並んでいた。
「あらま、急ぎ?」
「いえ、覚えのない電話番号なんですけど……でも…」
普段ならいざ知らず、今は発信者不明番号から掛かってきてもおかしくない状況ではある。
流石に上の一家から掛かって来る事はないだろうが、自治会長には緊急連絡先として会社と自分の携帯番号伝えてあるし、もすかするとドアの修理とかで工務店とかから掛かってくる可能性だってない訳ではない。
それに警察から掛かって来るかも…いや、警察の電話番号なんて知らないのだが、もしかすると一見してわかる番号なのだろうか? そう言う事も知らないので、色々な可能性が否定できない。
急いで会計を済ませ、会社の前まで戻った所で真柴には先に戻って貰い、弥生は不明番号にかけ直す事にした。
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