26
「そうよね…昨日も話したかもだけど、電車で席を譲れとか…もう、あぁ言う常識ナシは、外国人だけでお腹いっぱいだって言うのにねぇ」
「この暑さでおかしくなっちゃった…なんて訳じゃなさそうですけど」
「暑さのせいなら、いつからこの国は常夏の国になったって言うのよ? ま、常夏どころか、常地獄…ではあるけどねぇ…それもだけど、明細…見た?
ガッツリ税金で持ってかれてるの!
なーにが独身税よ、ふざけんなーって言うの!
政治屋どもが身銭を切れば良いじゃんね!?」
「政治屋って…政治家じゃないんです?」
「どう考えてもお金目的でしかないでしょ? だから『家』じゃなく『屋』で良いのよ『屋』で!!」
真柴と共に、どうにもならない不条理に嘆き笑いあう。こうしたガス抜きは必要だ。
弥生が買って来たフライドチキンと、キンキンに冷やした缶ビールをメインに、晩御飯も済ませる。
今は真柴がシャワー中だ。
その間に荷物の整理をしておこうと、弥生はリビングを出て荷物を置いた部屋に向かう。
今日のお泊りセットを確認。ついでに明日のお仕事セットも確認しておこうと、仕事用の鞄も開いた。
「よし、ちゃんと全部あ……る………………ぇ…」
仕事の時に使っている鞄は、合皮製のショルダーバッグなのだが、A4ファイルを横入れできる大きさがあり、弥生は気に入っている。
ポケットも多く、鍵だの文房具だのも、小分けして入れておけるので、小物が鞄の中で迷子になる事が少ない。
そんな鞄の一番奥のポケットに、入れた覚えのないファイルがあった。
(何だろ……持ち帰りの仕事はなかった筈…)
ドクンと耳鳴りに似た鼓動が聞こえた気がする。
恐る恐るファイルに手を伸ばす。
ポケットからゆっくりと引き上げる。ポリプロピレンの霞んだ薄膜の奥に見えたのは封筒――しかも黒い封筒だ。
(嘘……夢じゃなかったの…?)
てっきり夢だと思ってた。
夢じゃなかったのなら、何故鞄にファイルを仕舞った事とか、記憶に残っていないのだろう?
それにチラシまで鞄に入っていた。
常軌を逸した一家の行いに、追い詰められてストレスが急上昇した事で見た夢だ…そう思っていたのに…と、弥生はファイルから封筒を抜き出す。
「2万円……」
2万なら、何とか財布にあった筈だ。
昨日、真柴の家に急なお泊りになったせいで、最低限下着などは買わないと…と、道の途中にあるスーパー近くのATМに寄ってから買い物をしたのだ。
手にした封筒を見つめるうちに、その封筒の色に引き摺られた訳ではないが、黒い…真っ黒な感情が湧き上がってくる。
(そうよ…なんでこんな目にあわないといけないの?
あの人達がおかしいだけで、なんで私がこんな酷い目に合わないといけないのよ…。その上真柴さんにまで迷惑かけてしまって……そんな状態に追い込まれなきゃいけない理由なんてないわ)
くっと下唇を噛み締める。
ヒクっと片頬が引き攣った。
それを合図にしたつもりはないが、弥生は財布をだし、そこから紙幣を2枚取り出す。それを軽く伸ばしてから黒い封筒に入れた。
躊躇いなく入れた。
黒い感情のせいだろうが、それも間違いなく弥生の感情だ。
封筒にお金を入れただけで、どうにかなるとは思えないが、指示通りに動く事で今は心の平静を保たなければ、叫び出してしまいかねなかった。
その程度には、自分の黒い感情を持て余している。
ふぅと自分を落ち着かせようと、小さく深呼吸をした。
それからお金を入れた黒い封筒を、ファイルに戻そうとした刹那、微かに鼓膜が振動するのを感じる。
『契約成立、ありがとうございます。
では吉報をお待ちください』
あの夜翁の声が聞こえた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
リアル時間が少々慌ただしく、隙を見計らっての創作、投稿となる為、不定期且つ、まったりになる可能性があります。また、何の予告もなく更新が止まったりする事もあるかと思いますが、御暇潰しにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
ブックマークやリアクション等々も、頂けましたらとても励みになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。
ブックマークや評価等々くださった皆様には、本当に本当に感謝です。
AI不使用な事もあり、誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~等々が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つけ次第ちまちま修正したり、こそっと加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>




