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その可能性に怯えるが、中年刑事の表情は晴れない。
今夜だけでも警察署に泊めて欲しいというのが本音だが、流石にそれは無理っぽい。パトロールの強化などはしてくれるらしいが、自衛部分には手を貸してはくれないようだ。
刑事曰く『旦那さんが捕まったばっかりやし、普通は大人しうしとる思いますけどなぁ』だったが、彼女達に常識なんて通用する訳がない……と思ってしまうのは、弥生だけではない筈だ。
結局、今夜も真柴のお世話になるしかないのだろうか……悩みつつ連絡してみれば、酷く驚かれはしたものの、泊りそのものは快諾が貰えた。
家…ドアがボコられた自宅まで送って貰うと、丁度調べが終わった所だったのか、警察官たちが鞄を閉めたり抱えたりしていた。規制線の黄色いテープも、撤去済みのようだ。
まずは凹んだドアの確認。
一応施錠は出来る様だ。流石古い団地と言うか…金属製の扉の頑丈さを目の当たりにした。実に素晴らしい。
古いモノが悪いばかりではないというのを体現している。
しかし…この頑丈なドアを凹ませる……蹴るのはわかるが、殴るって…と、弥生は自分がした訳でもないのに、思わず手を摩ってしまった。
どう考えても痛いだろう……人間業じゃないし、常軌を逸しすぎている。
室内に侵入された訳ではないので、部屋の中は昨日のままだ。手早く宿泊セットをつくり、ご近所に声を掛けてから、真柴の家へトンボ返りする。
どっと疲れた…いや、本当に疲れしか残らない一日となった。
真柴の家に着くと彼女は、今朝見たパジャマ姿のままだった。
本当に今日は1日、ダラダラデーだったらしい。
お土産代わりにと買って来たフライドチキンを渡す。弥生も好きだが、真柴の大好物なのだ。普段昼食には食べにくいからと避けているのだが、休日である今日なら何の問題もない。
他にも缶ビールやらも買ってきてるので、その袋も渡すと、真柴が嬉しそうに笑った。
案内された部屋に荷物を置き、部屋着に着替えさせてもらってからリビングの方へ行くと、真柴が冷たい麦茶を用意してくれている。
お礼を言い、グラスの前に座って手に取った。
外の暑さを忘れさせるような冷たい喉越しと香ばしい香りに、細く重い吐息が漏れ落ちる。
そんな弥生の様子を、真柴が心配そうに見つめた。
「大丈夫?
明日の仕事、休む?」
心配そうに問いかけてくる真柴に、弥生は弱り切った笑みを向けながら首を横に振った。
「いえ、ちゃんと明日の仕事セットも持ってきてるから、大丈夫です。
それより、結局今日も止まらせて貰う事になってしまって……本当に済みません……」
本当にこれに尽きる。
申し訳ないにも程があるだろう…と、自分でも思ってしまう。
縮こまる弥生に、真柴がへらりと笑った。
「気にしないでってば。
見た通り、今日のわたしはグータラさんなのよ!
だから何も問題ないわ」
笑って言ってくれる真柴に、鼻の奥がツンと痛みを覚える。
冷えた麦茶をもう一杯貰って、真柴と並んで手持無沙汰にテレビを見る。やっていたのは刑事ドラマで、丁度犯人が逮捕されるところだった。ぼんやりとそれを見ながら、気付けばさっきあった事を話し出していた。
「うっわぁ……ちょっと引っ越してきたその家族って、ちょっと…じゃない、かなりヤバい人達なんじゃ…」
真柴の歯に衣着せぬ言い方に、弥生は苦笑するしかない。
内心『その通り』と思っているからだが、警官の一人がポツリと零していた言葉を思い出す。
――『最近多いんですわ…。
こう、どれもわたしらが手ぇ出し難いというか…。
そのくせ、危なそうな相談が……』――
心で復唱したつもりだったが、言葉になってしまっていた。
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