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妙に緊張しそうになる空気に、弥生の眉間にも皺が寄る。
「あの…何が…?」
そう問いかけた時、野次馬のように遠巻きにしている人々の更に奥の方で、テレビで見た事のある制服が見えた。
「ぇ…」
小さく声が漏れたのを早耳も気付いたのか、弥生の耳元で声を潜める。
「(落ち着いて聞いてよ?
昨晩、佐々木ちゃんの部屋を襲った阿呆がいるのよ)」
「え! 襲った!!??……って…」
吃驚するのも当然で、襲われるような覚えはない。
……いや、全く心当たりがないかと問われると返事に窮する。心当たりは……真上の部屋の住人だ。
勿論言い掛かりでしかないのだが、そんな常識が通用するような相手なら苦労はしない。
態々芝居じみた…少し大げさな動きをする早耳に、傍にいた女子高生の森魚 知子が困ったような表情を浮かべた。
年上である早耳に、不謹慎だと言いたいのを我慢しているのだろう。それがわかった弥生は、目線で苦笑を返す。
それに気付いた知子は、溜息を一つ吐いてから話し出した。
「詳しい話は警察の人から聞けると思います。
今は先に行った方が良いかも……」
「いったほう?」
意味を測りかねて、弥生は知子に首を傾けた。
「はい、警察の人が、被害にあった家……佐々木さんを探してて」
そこでやっと思考が『なるほど』と、繋がる。
詳しい事は警察から聞くとして、今わかっている事は弥生の不在時に部屋を襲った阿呆が居るという事だ。
『わかりました』と頷き、まだ何か言いたそうな知子を宥めて野水に預ける。
不安そうな知子と野水、そして妙に目をキラキラさせてうずうずしている早耳に見送られ、弥生は規制線の前で仁王のように立つ制服警官の一人に声を掛けた。
「あの……」
警官は迷惑そうに『あぁ下がって、こっから入らんように』と黄色いテープから離れるように言ってくる。が……
「すみません、違うんです。
私、佐々木です。佐々木弥生。
お探しだと聞いたんですけど』
そう言うが早いか、目の前の制服警官ではない人物が声を掛けてきた。
「あ、2番棟の4階にお住いの佐々木さん?」
『はい』と頷くと、腕を掴まれ、規制線の奥へ引っ張りこまれる。
そのまま階段の方へ連れて行かれ、ポスト前でやっと足を止めて貰えた。
あまりに失礼な態度に、腕を強引に引き剥がし睨み付ける。
「ちょ…放してください!!」
「ぁ、あ~すみません」
イントネーションに関西の色がない若い男性警官…多分警官だろうと思われる人物の手を振り払った。
この暑い中、スーツを着ている様子から、刑事なのかもしれない。
尤も、弥生の印象は最悪だ。さっきまで掴まれていた、とてもとても腕が痛い。
「ちょっと聞きたいんだが」
悪びれもせず聞いてくる刑事を、思い切り不快そうに見上げた。
そんな弥生に、ムッとしたように口を曲げる男性を押し留め、中年の男性が割り込んでくる。
「申し訳ない。こいつは後で叱りつけときます。
ほんま、すんません」
「なっ!?」
若い刑事は抗議するように声を漏らしたが、弥生からの冷ややかな視線に口を噤んだ。
「えぇ、目いっぱい叱りつけといてください。
こっちは加害者でも何でもないのに、力任せに引っ張られて……何でこんな目に…」
イライラしながら再び睨み付けると、若い刑事はやっと自分が何をしたか気付いたようで、バツが悪そうに目を逸らした。
先輩刑事に『謝れ』とすごまれ、渋々と言った感じで『すみません』と口にする。当然だが感情は籠っていない。
その様子に不快感マシマシじゃないか…と思いつつ、そいつは無視する事に決める。
弥生の醸す空気に気付いたようで、中年刑事も若手を無視して話し出した。
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