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「要する期間…契約完了まで…ですが、そちらは数日から、長い場合は数カ月かかるとお考え下さい。
佐々木様の場合、然程お待たせせずに完了できると考えておりますが」
あの一家を数カ月かからずに、どうにか出来そうな口振りだ。
頭の片隅で、『流石にそれは無理があるんじゃない?』と、突っ込むように疑問がわくのだが、口では弥生の意志を無視して『わかりました』と返答している。
「それでは、ご契約ありがとうございました。
佐々木様の安寧の為、直ぐにも着手させて頂きます。朗報をお待ちください。
では、今後ともよろしくお願いします」
優雅に礼をとる夜翁に、弥生もつられて頭を下げた。
「あぁ、それと……。
契約期間中は、何を見ても、何を聞いても、気になさらないようお願いしますね」
意味深な言葉を紡ぎながら、夜翁は鮮やかに微笑んだ。
意味を測りかねて弥生は首を傾けるが、そうしているうちに夜翁の姿は闇の中へと溶け消えていた。
いつの間に眠っていたのだろう?
弥生は昨夜座っていた場所で目が覚めた。
テーブルの上は片付いていて、視線をずらすと真柴も昨夜の場所のまま、気持ちよさそうに眠っている。
目が覚める気配はなく、彼女を起こさないように静かに起き上がった。
昨晩手渡しされたファイルはどうしたのだろう?
記憶が曖昧だが、置くとしたらテーブルだろうと思うのだが…と考えて、弥生はそんな自分に苦笑した。
あんなの夢に違いない。
チラシの連絡先に電話してみようとは思っていたが、具体的に動く前で、先方から連絡を取る手段などない筈なのだ。
だから、アレは夢と考えるのが常識だと思う。
反面、そんな夢を見てしまう程追い詰められていたのだとも思えて、弥生は疲れたように息を吐いた。
それにしても、ここ数日ではありえないほど身体が軽い。
疲労はまだ残っているので、殆ど気のせいだとは思うが、それでもそう感じられるのが嬉しい。
真柴には本当に感謝だ。
感謝を形にしようと、弥生は朝御飯の準備をし始める。
炊飯器には昨夜炊いたものの、手を付けていなかったご飯がそのまま残っていた。なら後は味噌汁と卵焼きでも作ろうかと、弥生はいそいそと取り掛かった。
暫くして、匂いに釣られたのか、真柴が起き出してきた。
しっかりと乾かさないまま寝てしまったせいか、彼女の髪がボサっていて普段より年若く見える。
寝起きなんてそんなものだろうが、いつもはビシッと決めた美女の、そんな姿に親近感が増した。
朝御飯を食べ終え、テレビを見ながらだらだらと過ごす。
お昼を回ったあたりで部屋の片づけをして着替えた。
「ほんとに帰るの?
明日も休みなんだし、もう1泊していけばいいのに…」
真柴の誘いは魅力的だが、あまり迷惑を掛けたくない。
それに突然の泊りで自宅に帰らなかった為、冷蔵庫の中身が少し気になっているのだ。直ぐに腐ったりはしないだろうが、見切り品を買ったような記憶があり、それが万が一悪臭を放っていたら嫌だなぁ…と思った次第である。
「それは気になるかぁ……ん~仕方ない。
まぁ気が向いたら今夜も泊りにおいでよ。わたしは今日は外出しないで、だらだらする予定だし」
涙が出そうになる程嬉しい声掛けに、弥生は笑顔で頷いた。
電車に乗り、自宅へ帰ると、何やら妙に騒がしい。
弥生の住む2番棟の手前、1番棟の前で見知った顔を見つけた。
「こんにちは」
弥生の挨拶に、振り返った女性達が一斉に目を見開いた。
「佐々木ちゃん!!」
「良かった…」
「あぁ、無事だったのね」
何があった…?
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます。
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